翌日、仕事休みにチエを連れてお隣さんを尋ねてみた。 チエがどうしても新人の顔を見たいとか…いや、お前勝てないから… 「コハルです、よろしくお願いします」 黒髪を靡かせながら愛くるしく会釈するガイノイド、表も裏もなく、本当の意味で主人に 尽くすメイドロイド。 最新の技術を取り入れ感情を再現する人口知能。 これが金の力か、死ねジジィ。 そういえばそのタナカのジジィは昨日の一発で疲れて寝てるそうだ。 コハルは俺の足元に転がってる炊飯…じゃなくてチエを見付けると、まるではしゃいだ子 供のように目を輝かせた。 彼女のAIには自分の先代を敬う機能も付いているらしい。すげぇ。 「うわぁ、チエさんですね!?先輩…って、呼んで良いですよね、新人のコハルです、 色々教えてくださいっ」 「……腕が二本しかないな」 いや、完全人型なんだから当たり前だろ。 「おい新人、ガイノイドタイプはオマン○専門らしいが、掃除洗濯食器洗い植木の世話 全部同時にできるのか?」 突っ込んだ方がいいのだろうか 「うぅ、できません…」 シュンとして涙目になるコハル、畜生可愛い。 俺の横に転がる血も涙もない炊飯器は更に冷たく言い放った。 「メイドロボの本分を思い出せ。我々の使命は、ゴミムシにも劣る劣等生物たる主人の 生命活動を、手段を選ばず延命させる事だ」 「うぉおおおいいい!」 思わず叫んじまった、タナカのじい様が寝ててよかった。 「そうですね!先輩私、目が覚めました! これからご主人様の健康の為に掃除洗濯食器洗い植木の世話と夜のお供“全部同時に できるよう”頑張ります!」 目に炎のエフェクトを表示して握りこぶしを掲げるコハル。 アニメとかで良くある萌えシーンなんだろうが、言ってることがメチャクチャ過ぎる。 チエは我が家の家事を全て一体でこなしているわけだが。 散らかす人間は俺一人、彼女のスペックからすれば、一日分の仕事全てを、たった10分で 済ませてしまう事も難しくない。 これはヒューマノイドタイプや、最近流行りのセクサ…ガイノイドタイプには到底真似で きない事だ。 当然だろう、ガイノイドが愛玩用のぬいぐるみとするなら、チエは家電製品に近いのだか ら。 しかし人間というものは欲張りなもので、多少作業能率が落ちようとも見栄えを優先し、 より人間に近い形のメイドロイドを求めるようになっていった。 最近ではAIからの信号にワザとノイズを咬ませ、意図的にミスを起させるようなマニアッ クなオプションまで開発された。 例えば食器を運搬中、躓いて転倒してしまうというロボットにあるまじき行動をとるよう にする代物だ。 当然これはメーカー純正品ではなく、組込んだロボットには誤作動や機能停止が頻発して いた。 AIという物は本来、より正確で適切な行動を選択するように作られているはずで、意図的 にミスを起すという否論理的行為事自体、AIにとって悪影響意外の何物でもないという専 門家(一体何の専門家だ)もいる。 しかし、お隣のエロジジイ事タナカ老人が購入した、アサカ社の最新モデル、タイプ2557 コハルは、この男の夢とも言うべき『ドジッ娘メイドロイド』を、何と業界で初めて純正 品として実現したのだ。 ロボット三原則と倫理回路に則って行動するAIに、一体どのような解釈でそんな真似を可 能にさせたのか、いやはや技術のチンポじゃなかった進歩というものは恐ろしいものだ。 『バタン!ガラガラガッシャーン!』 「またかこのガラクタ」 「ふぇ〜〜〜ん!ごめんなさいーっ!」 けたたましい破壊音と共に、黄色い悲鳴と罵声がお隣から響いてくる またチエが隣のコハルにちょっかいを出しているようだ。 上でも述べた通り、チエの作業能率の高さは異常であり、掃除洗濯食器の片付けと植木の 世話を全て5分で済ませ、有り余る予備電力を、さて俺への嫌味に費やそうとしていた矢先、 お隣の超激マブメイドロイド、コハルが家を尋ねてきた。 『ごめんくださぁい、先輩、いらっしゃいますかぁ?』 『ふん、新人か』 キュラキュラとキャタピラを蠢かしながら玄関を出たチエと、外でお行儀良く待つコハル の間にどのような会話があったかは知らないが、とにかくチエが「少し出ている、何かあっ たら非常信号ボタンを押せ」と言って出ていってしまったのが20分前。 どうやら先ほどの音を聞いた限りでは、お隣のコハルもドジッ娘メイド機能をアクティブ にされているのだろうか。 盗み聞きするつもりではないが…いやむしろ非常に興味深いので聞き耳を立てる事にした。 「ごぇんなさぃ…動作妨害機能の所為で、荷物持っていると、まっすぐ歩けないんですぅ…」 「木偶人形め、ノイズをクリアにすればいいだろうが」 「だってぇ、私の動作妨害機能は、ご主人様の許可が無いとプロテクトがぁ…」 「このガラクタにバカ主人とはな」 「うわぁぁん、ご主人様の悪口はダメですぅ」 ジジィが歯医者に行っていてよかった、というかそんなにミスが多いのかドジッ娘ロボ。 まぁこの程度で済んでいる間は止めには入らなかったのだが。 「貴様のどん臭さには、私のAIも熱暴走起しそうだ」 「スキャンしましたけど、まだそんなに発熱は」 「バカマ○コが」 「きゃぁあ!ちょ、何するんですかせんぱい!あひゃっ…いやぁああ!」 「人工マ○コ撮影してネットにリアルタイムで流してやる」 「あっ、やめ…CCD挿入しないでください!」 なんとけしからんもっとやれ、じゃなかった、止めに行かなくてはそのなんだ、困る。 慌てて隣の家に不法侵入してみると、案の定エロいじゃなくて偉い事になっていた。 ジジィの家は純和風の作りで、座敷には御大層な掛け軸と高そうな日本刀が飾られた、実 に雅やかな趣だった。 しかしそこで繰り広げられるのは、和式部屋には似合わぬアニメチックな格好をしたメイ ドロボと、見るからにメカメカしいキャタピラ炊飯器との猥褻行為だった。 まぁジジィも散々っぱら、この座敷でヨロシクやってんだから、言ってもシヨウガナイネ。 チエは伸縮自在の細長いアームを駆使し、二本でコハルの手足を拘束、残り二本でメイド 服をはだけさせ、ガーダーやブラを(エロジジィ!ガイノイド用に本物のランジェリー買っ たのか死ね!)引き摺り下ろして、人間の女性そっくり作られた各部を弄くり倒していた。 コハルは玄関の俺にうつ伏せに尻を突き出すと言う、なんともはしたない格好をさせられ、 えんえんと泣き喚いている。 いや、初めて見たが、コハルのそれは売れるのも分かる出来だ、透き通るような白い肌の 質感は到底合成ゴムとは思えなず、継ぎ目も殆ど目立たない、プラグの孔すらホクロに似 せられている程だ。 チエのアームできつく縛られ、強調するような形に搾られている胸部パーツの先端は、ピ ンク色の突起が自己主張をはじめている(チエのヤツこんなエロテクどこでダウンロードし たんだ)。 同じくアームが絡み付く二本のフトモモはむっちりと肉付きよく、その表面にはうっすら 汗のような分泌物が付着していた、恐らくは冷却水の一種だろうか 無理やり開かれた脚の付け根、そこには計120個もの感圧センサーと12個の振動収縮モーター を内蔵し、高触感シリコンと合成ゴムで造られた人工の雌しべが、見事に開花していた。 まぁ平たく言えばダッチワイフ用のオナ○ール。 チエはアームの先でヒダをチロチロと弄り、パクリと開いたそこに災害救助に使うCCDカメ ラを挿入した。 途端にコハルは甲高い悲鳴をあげる。 「やぁああ!撮らないで!温度とか圧力とか測らないでくださいぃぃ!」 「だまれオマン○人形め、撮られて擬似性感信号流してるんじゃないよ、変態仕様か貴様は」 「ご主人様の注文通りなんですぅ、私のせいじゃありませんんっ!」 俺は最初黙って観察するつもりだったが、センサーの化け物であるロボット2体は俺の侵 入にすでに気付いているはずで、まず先にコハルが悲鳴をあげた 「いやぁあああサエキさん見ないで見ないでくださいっ!」 モネモネと芋虫のように身悶えて恥らうコハルの姿はずっと見ていたかった。 「続けて…じゃなかった、何やってんだよチエ」 チエはくるりと本体だけを俺に向け、コハルを嬲り続けながら答えた。 「見ての通り、オ○ンコの具合を撮影している、ただの知的好奇心だ」 「ひぃぃっ!そんな事言わないでください!」 どうやらお隣の俺に見られて相当恥ずかしいようだ。 コハルのAIは羞恥心を再現する事もできるのか、うらやましい。 だが元々大量の処理能力を必要とするこの手の擬似感情は、AIにとってはとんでもないス トレスになるらしく、コハルも例外ではなかったようだ。 『プシューーー…ゴトっ』 湯沸し器から蒸気が噴出すような音と共に、コハルの頭部が床に突っ伏した 「………『限界温度を越えた為、強制冷却モードに入ります、再起動後異常が見られた 場合は本社…』」 コハルのスピーカーから無機質なアナウンスが流れ、みっともない格好で転がったままマ グロのような表情で文字通り固まってしまっていた 「……」 「……」 さて……………ジジィが帰ってくる前にふけるか。 帰り際、タナカ宅の玄関をチエと2人で出た時、俺の脳裏に不可解な疑問がよぎった。 その時は大した事でもなく思えたんだが、実はこれがトンデモな事件の始まりとなってし まった。 「チエ…さっきお前なんて言った?」 「新人のマン○ハメ撮りした時か?」 だから超有名声優の萌えボイスで凄まじいセリフ吐くな。 「待ってろ、メモリーを確認してやる……『見ての通り、オ○ンコの具合を撮影してい る、ただの知的好奇心だ』これか?」 「…?」 立ち止まり首を傾げる俺の横で、チエはLEDを点滅させながら見上げ(?)てくる。 「どうした主人、溜まってるなら家で映像を再生してやろうか」 「お前『知的好奇心』なんて言葉、どこからでてきたんだよ」 「そりゃ…んんんんんっ!?」 どうやらチエもその言葉の意味する所に気付いたようだ、LEDがめまぐるしく明滅をくり返 している。 知的好奇心… AIにとっては、ましてチエのような純粋な作業機械には無用の言葉だった。