「よし、完成だ!」 白衣の男はそう呟くと、三面のディスプレイが並ぶコンソールから ゆっくりと立ち上がった。 「博士! やっと出来たんですね、私の体!」 それに答えるのは少女の声だ。 しかし、実験機材が並ぶその部屋には、博士と呼ばれた男以外に 人の姿は無い。 「ああ。お前にも苦労掛けたな」 姿無き少女の声は、男にとってはいつもの事なのだろう。特に驚く 様子もなく……言葉を掛けたのは、コンソールの傍らに置いてあった 赤い飛行機に向けてだった。 大きさはソフトボール程度だろうか。丸っこいラインを持つそれは、 精巧な模型に見える。 「これでAIだけの私も、正義のために戦えるんですね!」 少女の言葉を放ったのは、それだった。 自意識さえ持つAIを搭載した、超小型飛行システム。それが 赤い飛行機の正体だ。 超AIとも呼ばれるそれを備えている以上、言葉を操り、作成者と 意思の疎通を図る事など造作もない。 「…………」 「……博士?」 返事のない男に、真っ赤な飛行機はもう一度その名を呼ぶ。 彼女を作ったのは、白衣の男だ。今更、飛行機が喋る事を驚くはずが ないのに。 「お、おう。とりあえず、合体してみろ」 「はいっ!」 ようやく返ってきた男の言葉に、飛行機はその場から滑走する事なく 垂直に舞い上がった。狭い研究所の中、失速する事もなくゆるゆると飛び、 部屋の中央にある穴へと垂直に降下する。 飛行機の大きさに合わせて作られたその穴は、地下工廠にある巨大 ロボットの頭部に繋がっているはずだった。彼女の超AIは、その巨大 ロボットの制御システムとして作られたのである。 「ぱいるだー! おーん!」 少女の声と共に穴から響くのは、鈍いドッキング音。 それと同時に研究所の床が開き。 大地の底から、巨大ロボットが現われる! 「……博士?」 大地の底から現われた『それ』の放った第一声は、怪訝そうな声だった。 「何だ?」 「あの、これ……」 そう言いながら、目の前の博士に向けてゆっくり一歩。それは、研究所の 壁を蹴り破る事も、大地を揺るがす事もなく、ごく静かに踏み出された。 「……予算不足だった」 男が呟いたのは、たったひと言。 「全高18メートルは?」 『それ』の全高は18メートルどころか、男よりも低かった。 「全高1.6メートルが限界だった」 露骨に不満そうな表情を浮かべる『それ』の頭を、男はぽんぽんと撫でて やる。 「じゃあ、超合金Zのくろがねの城は?」 『それ』の表面は超合金どころか、柔らかな人工皮膚に覆われていた。 「実用化は、あと百年くらいかかるらしい……」 さすがにその格好はマズいと思ったのか、男は自分の白衣を脱ぎ、『それ』の 肩から掛けてやる。 「ロケットパンチは?」 『それ』の両腕はロケットどころか、どこをどう見ても女の子の細腕だった。 「あ、それはちゃんと付けてある!」 「博士のばかーっ!」 その瞬間、男のボディにロケットパンチが叩き込まれたのは、言うまでもない。