陽子の目の前に、光のリングが浮かんでいる。これは研司が閉じこめられている、記憶
 のループ…さきほど小夜子と一緒に飛び込んだほころびもそのままになっている。
「研司…待ってて」
 陽子はループのほころびに向かって身を踊らせた。一瞬、周囲のイメージが目まぐるし
 く瞬く。
「くっ…」
 今、彼女は小夜子のファイアウォールを通さず、直接記憶のイメージを"観て”いるのだ。
 フィルタ処理の手順は突入寸前に母から転送されたものを使っているのだが、この処理
 は彼女のメインプロセッサにかなりの負担を強いている。その負担が陽子の意識に、激
 しい人工心臓の動悸としてフィードバックされていた。
「うぅ…はぁ…はぁ」
 息を切らしている陽子の裸体が、街中の歩道に倒れていた。上半身を起こし、周囲の景
 色を認識する。
「間違いない、さっき見た風景だわ」
 衝撃のシーンが繰り広げられる現場から、100m程離れた場所に陽子は降りたっていた。
 ここなら、現場に合流する前の研司を捉える事が出来る筈だ。
(…とりあえず、服を着なきゃね)
 この記憶の時代に彼女が着ていた学生服を検索する…あった。紺色のブレザーにとチェック
 柄のスカート、白いブラウス、赤い短めのネクタイ。それを着用していた時の身体の寸
 法も一緒に検索し、自身のイメージを当時の姿に変換する。
「こんなに胸、なかったっけ…」
 ブラウスの膨らみを手でふにふにと揉んでみる。現実世界のバストに比べると、大人と
 子供の差があるといっていいぐらい小さい双丘だ。この時はまだ、研司が巨乳好きだっ
 て知らなかったから、当然といえば当然であった。
(さてと、研司は…)
 振り返ると、こちらに向かって走ってくる子供の姿が見えた。それはどんどん大きくなり、
 はっきりと顔が見える距離まで近づいてくる。
「研司!」
「あ、姉ちゃん? こんなとこで何やってんの」
 陽子の声に研司が反応した。本人の意識が作り出しているイメージの中で、唯一外部か
 らの呼びかけに反応する人物イメージ。
 間違いなく、研司本人の意識そのものだ。
「お父さんに聞いたの。お母さんを迎えにいくんでしょ?」
「う、うん…そうなんだけど…」
「どうしたの、そんなに急いで」
「だって、もうすぐお母さんが乗ってるバスが来るんだ」
 このまま研司を現場に向かわせれば、またあのシーンが繰り返されることになる…それ
 をまず防がなければならない。

「お父さんから聞いてないの? お母さん、もう少し時間が掛かるって」
「えっ、そうなの?」
 きょとんとした顔で陽子を見つめる研司。この頃の研司は今と比べると結構可愛い顔を
 している…彼女の頭脳内で、キュンという音が鳴り響いたような気がした。
「う、うん、だからさ、バスが来るまで私と散歩しよ?」
 妙な妄想が沸き出しそうになるのを抑え、研司をこことは違うイメージの場所へ連れて
 いくことにする。
「でも…」
「大丈夫よ、バスの時刻表ちゃんと調べてあるから」
 陽子はそう言いながら、研司の前にしゃがみこんだ。しゃがみ込む寸前にスカートの丈
 を3割程短いイメージに変換し、ブラウスの生地もかなり薄いものに変える。この辺りは
 自分の思う通りにイメージ変更が可能だ。
「…わ、わかったよ…」
 彼女の思惑通り、研司の視線が泳いでいた。わざと膝を閉じずにしゃがんだために丸見
 えのショーツ、そして透けて見えるブラが予想以上に研司を刺激しているようだ。
「じゃ、いつもの公園にいこっか」

 次の瞬間、私達はいつも散歩に来る公園にいた。ここは現実世界ではないので、一瞬の
 内に場所が変わる事は然程不自然ではない…そのことを意識しなければ。
「研司、私ちょっとトイレに行ってくるから、ここで待ってて」
「う、うん…」
 座っていたベンチから立ち上がり、すぐ側にある公衆トイレに入る。そこそこ奇麗なト
 イレだが、個室内の広さは並みのレベル。
 便器も洋式なので、人が一人入るのがやっとだ。
(さて、と…)
 トイレのドアのイメージに細工を施す。外側からは普通のドアにしか見えないが、室内
 側からは外が見えるようになった…ここは研司の記憶の中だが、母から伝えられた技術
 を用い、自分でイメージをコントロール出来る範囲を拡大している。
(私のメモリー内容に間違いが無ければ、そろそろ来る筈)
 ドアに細工を施してから約2分。私が入っている個室の前に、見覚えのある人物が現れた。
(来たわね…研司)
 ドアの前で周囲の様子をしきりに気にしている。ここ以外の個室は誰も使っていないから、
 私が入っているという事を特定するのは容易な筈だ。
「…」
 研司がしゃがみ込み、ドアと床の隙間をじっと見つめている。先程ドアに細工を施した時、
 ドアと床の隙間を普通よりも広げておいたのだ。
 その隙間は約30cm…現実世界では普通考えられない寸法である。

(そうよ…そのまま…)
 研司は頭を低くし、ドアと床の隙間から中をのぞき込もうとした。その瞬間を狙い、私
 はドアを素早く開ける。
「…研司!」
「姉ちゃんっ!?」
 一瞬凍りついたかのような表情をする研司。私はすかさず研司の体を掴み、個室の中に
 引きずり込んだ。
「は、離せ!離してよ!!」
 便器に腰掛けている私の膝上に、強引に弟を座らせて身体を抱き込む。手足をばたつかせ、
 何とか私の手を振りほどこうとする研司。
「離せって!離っむぐぅ!!」
 研司はそれ以上叫ぶ事は出来なくなった。何故なら、彼の口は私の唇で塞がれたからだ。
「ん…っ」
 舌を差し入れ、口唇の裏側を繰り返しまさぐる。研司の下唇を優しく甘噛みし、舌を添わせて吸う。
「……っ」
 行為を続ける内、研司は手足をばたつかせなくなった。手で掴んでいた肩から力が抜け
 た事を確認してから、私はゆっくりと唇を解いた。
「研司…」
「姉…ちゃん?」
 研司の顔は真っ赤になり、目は半分焦点を失っていた。それほど長時間唇を塞いでいた
 訳ではないが、明らかに息が荒い。
「私、知ってるのよ」
「な、なにを」
「私がここのトイレに入った時…いつも覗きに来てたでしょ」
「!!」
 研司の顔に狼狽の色が浮かび上がる。
「子供だから、見つかってもそうそう怪しまれないわよね。私が冷却水交換してる時、ド
 アにずっと耳をくっつけていた事もあったし」
「なんで知ってるの…それに、れいきゃくすいって」
「そう、冷却水よ」
「姉ちゃん、何を言ってるのか全然わからないよ」
 自分の行動が筒抜けになっていた上、この頃の弟にとっては理解不能の単語をしゃべっ
 ているのだ。研司が怖れ、おののくのも無理はない。
「見せてあげる。私の全てを」
 私は研司と体を入れ替えるようにして立ち上がった。ドアにもたれ掛かるようにして、
 便器に座って呆然としている研司を見下ろす形になっている。
「あ…」
 スカートのホックを外し、ジッパーを降ろす。手を離すと、チェック柄のスカートがぱ
 さりと乾いた音を立てて床に落ちた。
「目をそらさないで」
 ネクタイを緩め、ブラウスのボタンをゆっくりと外していく。最後のボタンを外し終わった後、
 私は研司の手を取って自分の胸元に導いた。
 研司は唾を飲み込み、私をじっと見つめている。その視線に応え、私は黙って頷いて目を閉じた。
「姉ちゃん!!」
 研司の手が動き、ブラウスが一気に左右へ開く。

「!!」
 研司の視線は、まだサイズが大きくなっていない私の胸…ではなく、腹部に釘付けになった。
「姉ちゃん、これ…なに…」
 弟の目に晒された私の腹部には、パーティングラインがくっきりと刻まれていた。鳩尾
 付近に皮膚はなく、腰椎を中心にした大きめの球状関節が剥き出しになっている。
「これが私。あなたの姉の正体」
 視線が下半身に移った。股関節から先の部分は人間と同じ皮膚で覆われているが、ショーツ
 で隠されている部分は肌色の軟質性樹脂で出来ている事がはっきりとわかる。
「まさかそんな!」
 半ば脱げかかっていたブラウスを、研司が強引に腕から引き抜いた。ブラとショーツだ
 けの姿になった私の身体は、人間のものではない事がはっきりと分かる。上半身は乳房
 と鎖骨の辺りから頭部にかけて、人間に見せかけるための人工皮膚が与えられているが、
 肩から手首近辺までは関節の継ぎ目やメンテナンス用ハッチが目立つような外装になっ
 ていた。
「姉ちゃんって人間じゃない…」
「そう、私は…あなたの姉でもあり、そして」
 私は腹部のメンテナンスハッチのロックを解除し、ゆっくりとそれを開ける。
「人間との共同生活実験用アンドロイド、MGX-2000typeF」
 研司は開いたメンテナンスハッチの中をじっと見つめていた。狼狽の色はいつのまにか
 表情から消え去り、むしろ個室に連れ込んだ時よりも落ち着いたように見える。
「姉ちゃん」
「なに?」
「姉ちゃんの身体…もっと見せてよ」
「研司…」
「これ、父さんが作ったの?」
「そうよ、全部じゃないけど…私の身体の、半分以上はお父さんに作ってもらったの」
「こっちの蓋も開くのかな」
「あ、ちょっと待って…」
 鳩尾の少し上辺りの小さなメンテナンスハッチのロックを慌てて解除する。かちっと小
 さな音を立てて、蓋が半開きになった。
「開けるね」
 研司は隙間に指を差し込み、メンテナンスハッチを開いた。
「すごいや…」
 内部の機構をのぞき込んでいる研司を見ていると、私の胸に何とも表現できないモヤモヤ
 としたものが溜まり始めた。
「研司…もっと私の事、知りたい?」
「うん」
「じゃあ、私の言う通りにして」
「どうすればいいの?」
 私は研司に、最初に開けたメンテナンスハッチ内部にあるロック機構を教えた。ハッチ
 のロック機構は、腹部外装全体のロック機構も兼ねているのだ。
「そう、そこの出っ張りを押しながら…」
 研司が私の体内を直に触っている…そう思うと胸の中に溜まり続けているものが身体の
 芯に集まり、じわじわと熱くなり始めた。
「こう?」
 研司がロック機構の奥にある小さなレバーを押し下げると、腹部の外装が左右に割れた。
 細いステーだけで支えられた外装が太股の上辺りまで垂れ下がる。

「…っ!!」
 腰部関節の駆動機構や流体循環用のチューブが露にされた瞬間、私の身体の芯で熱いも
 のが弾けた。背中を通り、頭部に軽い電撃のような快感が走った感触が生々しく伝わっ
 てくる。思わず両手で肩を抱いて身体をぶるっと奮わせると、その衝撃で開いていた腹
 部カバーがステーから外れ、床に転がり落ちた。
「だ、大丈夫?」
 研司が便器から立ち上がろうとするが、それを片手で押しとどめる。
「大丈夫…痛くないし、平気よ」
 少し上ずった声で研司を宥めたが、まだ不安げな表情で私を見ている。
「ほら、見て」
 背中に手を回し、ブラのホックを緩めた。そのまま肩ヒモを外し、肩を抱えていたもう
 一方の手をゆっくりと下ろす。
「姉ちゃん…」
 胸の双丘の桜色の頂点は、研司をまるで挑発するかのように固くそそり立っていた。
 私はそのまま床に膝まづき、研司に胸を近づけて行く。
「好きなんでしょ?大きいのが」
 胸をから手を離す瞬間、乳房のサイズを現実世界の身体と同じ大きさにすりかえた。ま
 だ幼さを残すボディに大きな乳房は少々アンバランスだが、研司には効果てきめんだっ
 たようだ。
「ぼ、僕…姉ちゃんの…」
 言うが早いか、研司の手が私の乳房を鷲掴みにしたかと思うと、そのままぐにぐにと乱
 暴に揉みしだき始める。
「あっ! んんっ!! だ、だめ…もっと…優しくっ…!」
 イメージと同期した触感、そしてリアルな快感が伝達されてくる。ここに入る直前、
 母から転送してもらったプログラムが上手く作動している証拠だ。
「ご、ごめ」
 悲鳴に近い私の喘ぎ声を聞き、研司が手の動きを止めた。その小さな手に自分の掌を重ね、
 ゆっくりと動かしていく。
「こうやって…んっ…そう…ゆっくりと優しく…あっ…」
 しばらくして手を離すと、研司はそのまま乳房を優しく揉み続けた。痛みはなく、快楽
 のみがじんわりと伝わってくる。
「姉ちゃんのおっぱい…やわらかい」
 この身体は、私が学生の頃に父が試作したボディの内の一つであった。人工女性器と
 人工乳房を装備し、自分が”大人”への階段を上るための第一歩として作られたのだ。
「はぁ…んんっ…あっ…んあ…あ?」
 不意に快楽の供給が止まった。いつのまにか閉じていた瞼を開けると、研司の視線は再び
 私の下半身に移っている。
「どうしたの?」
「姉ちゃん…お願いがあるんだけど」
「なに?」
「その…パンツの中…どうなってるか…知りたい…」
 その言葉を聞き、私は思わず股間を両手で押えてしまった。既にショーツは人工愛液で
 濡れており、指先のセンサーが『熱くぬるぬるしたもの』に触れた事を伝えてきている。
「駄目なの?」
 研司は少し悲しそうな表情になった。
「そんなことないわよ」
 私は研司に幼い外見に躊躇しているのだ。ここから先に進む事は、すなわち『交わる』
 事を意味する。

「僕は…姉ちゃんが好きだ」
「研司…」
 それは聞き覚えのある言葉だった。私がアンドロイドであることを認めてくれ、受け入
 れると誓った研司が言ってくれた言葉。
「好きな姉ちゃんのこと、全部知りたい。だから、そこも…見せてほしい」
 研司が私をじっと見つめる。
「…わかったわ」
 私は立ち上がり、股間から押えていた手を放した。
「研司…あなたの手でショーツを脱がせて」
「姉ちゃん…」
 研司がショーツに手をかけ、惜しむようにゆっくりと下ろし始める。
「んっ…」
 割れ目が丸見えになった瞬間、下腹部の人工女性器ユニットが疼く感触が伝わった。
 びくりと腰が震え、熱いものが股間に放出されるのがわかる。
「…濡れてる…」
 少し前かがみになると、割れ目から愛液が滴って糸を引いているのが見える。
「触って」
「え?」
 研司の手を掴み、割れ目に導く。
「んっ…!」
 指先が秘所に触れた時、身体の芯にわだかまっていた疼きがぱっと輝いた。その輝きが
 一つにまとまり、渦となって快楽中枢へと伝えられてくる。
「気持ち…いいの?」
「う…ん…」
 割れ目に沿うように指先が動き始めた。研司に私のあそこが弄られている…そう思うと、
 下半身から伝わってくる快楽が倍加するように感じる。
「姉ちゃん…」
 声に誘われた私は、研司の股間に目を奪われた。研司の半ズボンの股間が今にもはちき
 れそうなぐらい盛り上がっていたのだ。それを見た直後、胸の鼓動が急激に跳ね上がった。
 放熱が間に合わなくなり、人工肺が刻む呼吸がどんどん激しくなっていく。
「姉ちゃん、僕…なんか変だ…」
 研司は太股をきゅっと締め、空いている方の手で股間をおさえつける。その姿を見て、
 私の中の何かが切れた。
「研司っ!」
 研司のズボンのボタンを強引に外し、ジッパーを下ろす。綿のブリーフが突き破りそう
 な勢いで、研司の『男』が私を挑発していた。

 欲しい。

 研司が欲しい。

「ごめん…もう…我慢できないっ!!」
 呆気にとられている研司に構わず、ブリーフを引き下ろす。
「ね、姉ちゃん?!」
 まだ皮を半分被ったままの男性器が剥き出しになる。私はそのまま、幼さを残した研司
 の肉茎にしゃぶりついた。

「うっ?…ああっ!」
 か細い喘ぎ声を上げたが、私はそのまま研司をむさぼり続ける。自分の秘所に手をやると、
 信じられない量の愛液が溢れてきているのがわかった。
「んんっ…姉ちゃん…き…気持ち…いい…っ!!」
 陰茎の脈動が、舌を通じて伝わってくる。舌を添わしていると、研司がどんどん大きく
 なって感じられた…そろそろ良い頃だろう。
「ふはぁつ!! はぁ、はぁ…」
「うぅ…姉…ちゃん」
「研司…私と一つに…」
「ひとつ…?」
「そう、一つよ」
 私はそう言いながら立ち上がり、研司に背中を向ける。
「なにを…するの?」
 私は黙ったまま、人工女性器の小陰唇に両手を添える。そしてそのまま研司の太股の上
 に座り込み、広げた小陰唇で研司の牡茎を飲み込んだ。
「くっ…あうっ!!」
「んんっ…んんぁ!!」
 個室に喘ぎ声が響き、二人は一つになった。

「んんっ…ちょっと…待ってね」
 研司を挿れたまま、私は剥き出しになっている腰部関節に手を突っ込んだ。ロック機構
 と関節部分を弄くり、腰椎フレームを外す。
「これで…研司と好きなだけキス出来るから…」
 切り離した下半身はそのままに、上半身を180度ねじらせて研司に向き直る。
「姉ちゃん…すごい…んっ」
 間髪入れず、研司と唇を重ね合わせて舌を差し込んた。弟はたやすく私を受け入れるど
 ころか、舌先を積極的に絡めてくる。ちゅく、ちゅくと淫らな音が僅かに聞こえてきた。
「んっ…あふぅ」
 研司が唇を解き、息を整える。
「大丈夫?痛くなかった?」
「ふぅ…最初はちょっとだけ痛かったけど、今は大丈夫…」
「動くわよ」
「え…ちょっと待…うっ…くあっ!!」
 中腰で少し立ち上がり、力を抜く。亀頭が膣壁に擦り付けられている感触が、リアルに
 伝わってくる…それは研司も一緒の筈だ。最初に唇を重ね合わせた時に母から転送して
 もらったプログラムを研司にもインストールしたのだが、今の様子を見ている限りでは
 研司側でも問題なく動作していると見ていいだろう。

「研…んっ!!司…あっ! あんっ…んっ」
「姉ちゃん…すっごく…うぅ! 気持ち…よすぎ…ぉうっ」
 研司の身体を抱き寄せ、唇を吸う。研司もそれに応え、舌を絡めてくる。
「んはっ!! ふぅ、はぁ…はぁ…んあっ!!あぁ〜っ!!」
 唇を解き、今度は乳房にかぶりつく研司。乳首が舌先で転がされ、吸われ、甘噛みされ…
 あらゆる方法で私の快楽中枢を刺激してくる。
「あんっ…んっ…研司…私…アンドロイドなの…よ…こんな私でも…んっ…いい…の?」
 いくら乳首を吸われても、例え研司が自分の子供だったとしても…私の乳房から母乳が
 出る事はない。あったとしても、それは”人に作られしもの”であることは何ら変わらない。
 ふとそんな事を考えた私は、つい体の動きを止めてしまった。
「姉ちゃん…そんな事関係ないよ」
 私の胸に埋めていた顔を上げ、研司が言った。
「研司…」
 人工涙腺が緩んだ。目から涙が溢れ、頬を伝う。
「姉ちゃんが人間じゃなくても、僕の姉ちゃんな事は変わりないよ。それに…僕は…僕の身体も」
「研司…思いだしたのね」
「うん…僕の身体も…姉ちゃんみたいなのが入ってるんだよね」
「じゃあ、研司のお母さんの事も」
「わかってる…わかってるよ。もう、母さんはいない。」
「ごめんね、研司。辛い事、思い出させちゃった…折角忘れていた事なのにね」
「いいんだ、姉ちゃん…俺は忘れていたんじゃない。逃げていただけなんだ」
 研司が急に大人びた表情に変わった。その瞳が湛える光は、最早幼い研司のものではない。
「研司、あなたは…」
「俺は逃げていた。”もう一人の俺”という存在を作って、奴に自分の苦しみを押し付けていたんだ」
 研司は全てを知ったのだ。事故、母の死、自分の脳の一部が機械化されたこと。そして、
 自分の精神の一部が崩壊しかかった時のことも。
「でも俺はもう逃げない。姉ちゃんがいるから…こんなにも自分の事を思ってくれる人がいるから」
「研司…私」
 私の口が研司の唇で塞がれた。もう言葉は要らない…そのままの状態で、研司が自分か
 ら腰を動かし始める。
「はふっ!! んっ! あっ! あんっ!」
「ふっ! んく…くっ…うぅ!」
 思わず前かがみの動作を取ろうとした瞬間、腰椎の駆動機構がギシギシと悲鳴を上げた。
 人間なら有り得ない姿勢…アンドロイドでもかなり無理のある体勢だ。
 何かが折れるような音も聞こえたが、構うものか。ここは夢の中…母に指示を受けたと
 いう事もあるが…自分が納得いくまでやりとげてやる。
「あうぅ! くぅ…あんっ! ン…あん…んっ!!」
「姉ちゃん…俺…だめだ……出る…」
「出し…て…! 私の中に…あんっ…研司の熱いのを…ンぁ…頂戴…っ!!」
 研司への思いと、身体の芯から突き上げてくる快楽が一つに溶け合い始めている。それ
 はやがて暖かく輝きだし、光が二人を包み込んでいく。
「んっ…ああぅ…ぐぅ…ん…うぐっ…おおぉぉぉ…ううぉおおおおおおおあああああああっ!!!!」
「あっ…んっ…あ…あ、あ・あ・んんっ・あああっ…んあああああぁぁぁぁああああああっ!!!」

 獣のような雄叫びを上げ、二人が絶頂に達した時…視界が真っ白に変わった。同時に全
 身の全ての感覚が消失していく。

(研…司…)

 研司に向かって手を伸ばそうとしたとき、闇が私の意識を支配した。

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