入社式は終わり、説明会も無事に終わろうとしていた。 「明日からいよいよ本格的に社会人か・・・」そんなことを考えながら「解散」の声を聞き、 ゆっくりと立ち上がったその時。 「なお、新入社員の○○様は、B−13通路奥の第4会議室にて待機してください」 え? 僕の名前だ。僕は一瞬耳を疑ったが、 「繰り返します。新入社員の○○様は、B−13通路奥の特別会議室にて待機してください」 確かに僕の名前だ。 社内マップは持ってきてあるが・・・、一体、僕に何があるのだろう? ―――15分後。僕は、特別会議室で待機していた。 「―――それにしても、何で僕だけ・・・」 あの後、マップのおかげで何とか迷わずにB−13通路までたどり着いたのだが、入り口 には警備員が2人待機していて、どうやら関係者以外立ち入り禁止の通路のようだった。 警備員に名乗ると、特別会議室まで案内されて、 「案内役がある。それまで待機しているように」と言われ、手近なイスに座って待っていたのだ。 ―――どうやら、こういう呼び出しを受けたのは僕1人だけのようだ。他には誰もいない。 ―――そんなことを考えながら天井を見上げていると、不意にドアがガチャリ、と開いた。 入ってきたのは――――――。 「ち、千裕ちゃん!?」 思わず声が出そうになった。 微笑を浮かべたその顔は、まさに千裕ちゃんが成長したらこうだろうというものだった。 だが―――、声が止まったのは、あることに気が付いたからだった。 顔は千裕ちゃんそのものだが、髪と眼の色が違う。 目の前に立っている娘(こ)の髪は金髪で、髪形も全然違う。 瞳の色も青で、何より・・・ (誰の趣味なんだろう・・・) 猫耳と、尻尾がついているのだ。 あのまま顔だけ見ていたら、間違いなく叫んでいただろう。 そんなことを考えていると、その娘が話し掛けてきた。 「○○様、ですね?」 「あ、はい・・・」 「これから私が案内致します。ついて来て下さい」 そう言うとドアを開け、僕を促す。 「ありがとう」 と言うと、彼女はにっこりと笑い、 「これくらいは当然ですよ♪」 と言った。 「―――あ、まだ名乗ってませんでしたよね」 部屋を出て歩き出すとすぐ、彼女は自己紹介をした。 「LSR−02P、千里(ちさと)、といいます。改めて、はじめまして」 「あ、うん・・・はじめまして・・・」 何となく、緊張してしまう。 「○○様の事は、姉から伺っていますよ。真面目で優しい人だ、って」 姉とは千尋ちゃんの事だろう。 実際は最後に少し話しただけなんだけどなぁ・・・。少し照れる。 「へぇ・・・、嬉しいな。そういう風に言って貰えると」 彼女の雰囲気からか、自然と話し口調になる。 「そう言って頂ける事が、私達の喜びです♪」 振り返って、笑いかけてくる。僕も微笑を返していた。 「―――ところでさ、型番のLSRって、何の略?」 それから少し言った所で、気になった質問をした。 「Lifestyle Support Robotの略称です。私の場合、よくSSR−01って呼ばれますけ ど・・・」 そう言って、少し悲しげな顔になる。 いけないと思いつつも、僕が何か聞こうとした瞬間―――。 「―――あ、着きましたよ♪」 僕達は、「相沢研究所」と書かれた金属製の扉の前に立っていた。 「ちょっと待ってて下さい」 彼女が、扉の横にあるセキュリティリーダーに行き、手をかざす。 程なくして、扉が左右に開いた。 そこには―――。 「―――千里、案内ご苦労様」 「いえ、○○様にも、一度会ってみたかったですし♪」 「こちらね?―――はじめまして。相沢圭子です」 「あ―――はじめまして」 「話す事は色々あるんだけど―――まずはゆっくりできる所に移動しましょう。千里、 仕事に戻っていいわ」 「はい♪」 「じゃ―――行きましょうか」 そう言って微笑んだその顔は、千裕ちゃんやさっきの「妹」―――千里ちゃんによく似ていた。