あの子を忘れられない。 だからぼくは、ロボット工学を専攻した。 でも、あの子のように人と格好で同じ動きをする機械には合うことは出来なかった。 そして、大学を卒業後、自動制御関係の会社に就職したが、その中にある自動車の自動運 転関係の開発研究室に配属された。 その中で、自動車が運転できないと不便な地方都市に住む老夫婦向けに作られている、自 動車の運転と簡単な家事のなどが出来る「孫娘ロボット」の部門になった。 配属式の日、その会社の試作機を見せて貰う。 「ちひろちゃん?」 顔が、髪型が、背丈が。 面影が。でも、その子は保存されているだけで動かない。 そしてぼくも動けない。 「吉屋君、吉屋君、どうした」案内してくれている工場次長が、呼んでいる。 『あ、あの、このロボットですけど』 「なんだ?どうかしたのか?」 『あ、の、ああ、相沢裕介博士と圭子博士ご夫妻の作った千裕ちゃんではないですか?』 「そうだ。この会社にいた相沢さん達が設計した物だ。名前は違うぞ?で、なぜ博士夫妻 を知っている?」 『小学校の同級生でした。相沢さんは』 「そんな話聞いていないが?」 その場は、それで終わりになった。 そして、千裕ちゃん以外の試作品や関連工場などを見学させてもらう。 ぼくのちひろちゃんは、あそこで永眠してる・・・・ せっかく再開できたのに?永眠?なぜ? (翌週) 今日から4泊5日で合宿研修。 行き先は、50Kmほど離れた山の中腹に有る公営の登山訓練施設。 「なぜロボットを作る企業が登山訓練??」 会社で用意した10人乗り乗用車、何台あったのか?での送迎。 高速道路を1時間くらい、その後、街中を30分、山道1時間半。 どうも、途中で帰れない山奥に拉致るのが目的なようだ。 そこで出迎えてくれた人たちは・・・・。 大勢の。 『ちひろちゃん!!!!!』 あまりの驚きで、死ぬかと思った。 髪の毛が肩にかかるまで長く、もも丈の靴下とその10cm位上までのミニスカートとヒジ位 のソデ丈のTシャツで背丈100cm位の「ちひろちゃん」3人 髪の毛が首筋位の長さで、ふくらはぎ丈の靴下と膝下丈のズボンとヒジ位のソデ丈のTシャ ツで背丈100cm位の「ちひろちゃん」3人 髪の毛が首筋位の長さで、ふくらはぎ丈の靴下と、もも丈、長袖のワンピース、エプロン 姿の背丈が160cmくらい有る「ちひろちゃん」4人 髪の毛が刈り上げで、くるぶしまでのズボン、長袖ワイシャツ、背丈が160cmくらい有る 「ちひろちゃん」4人 皆、名札をつけていて、名前は全員違っている。 ただ、苗字は 無い。皆、ちひろちゃんの顔。 名札を良く見ると、ズボンの7人は男の子の名前、スカートの7人は女の子の名前にになっ ている。 そして苗字だけの名札の、所長と副所長と紹介された、じいさん二人。 この16人(?)が従業員だと言われた。 所長から 「皆さん。遠いところお疲れ様です。 先ずは昼食にしましょう。 その後、部屋割りと、ここでの決まりごとをお話します。 食堂の入り口を入った所に荷物を置けますから置いて下さい。 それから、各自、隣の洗面所で手洗いやうがい等を行ってください。 食事の席は、従業員の指示にしたがって着席してください。」 確かに、食堂の隣に男女別のトイレと共同の洗面設備が有った。 そして、女性ちひろちゃん4人、と、男の子のひちろちゃん3人、がテキパキと配膳をして いる。 女の子ひちろちゃん3人は、ぼく達一人一人の顔を見ると 「あなたが、○●さんですね。お席はこちらです」 と手を繋いで案内してくれる。 喫煙者と禁煙者を分けて案内しているし、事前に、履歴書などで、顔写真と名前、嗜好な どの個人データを記憶させられている? 「ここにお座りになって、お待ちになって下さい」 と、膝に手をつけて、丁寧に、お辞儀をする。が、あの短いスカートのせいで、お尻が見 えている。 お尻 なのか?それとも、肌と同じ色のパンツやスパッツなのか? ぼくの順番が廻ってきた。 当然 「あなたが、吉屋さんですね。お席はこちらです」と手を繋いで案内して・・・・・ くれなかった。 「吉屋お兄ちゃんですか?千裕お姉ちゃんの和彦お兄ちゃんですね?」 『はい?』 「あの?私の間違いでなければ、千裕お姉ちゃんに宝物を渡して、お姉ちゃんの大切な物 を持っているお兄ちゃんよね?」 『そうだけど?』 「時間が無いので詳しくお話できないのですが、私たち14体は全員、弟と妹として作られ たんです。 で、お兄ちゃんはココに座ってね。」 それから小声で 「もしもし。みんな?やっぱりお兄ちゃんだったよ」 誰と話してるのだろう? 「どこまで詳しくお話したら良いのかな?」 だから?誰と? 「あの?お姉ちゃんのねじは?今でもお持ちですか?」 『あ、家に有るよ』 「よかったぁ。じゃあ、あとで、またお話しよ?もしかしたら弟や妹かもしれないけど。 一応、この14体の中では私が一番のお姉ちゃんなんだよ。つくられた順番では」 しばらくして、女の人ちひろちゃんが、お盆に載せたお膳を運んできた 頭の中に直接話しかけてくる。 「和彦お兄さん。他の人に聞かれるといけませんので、暗号でお話します。 ココロで思ってくだされは通じますよ。」 『え?』 「はい。和彦お兄さんは特別ですから。私たちが暗号を使うときだけは通じ合えます。 みんな同じ顔で驚かれたみたいですが、どうしてもこの形でないと、今の技術では人と 同じ様な感情表現などが出来ないんです。 だから顔は同じものを使っていますが、体だけは、男女の区別と、5等身の100cm、から 8等身の160cmまで、20cm違いで4種類、合計8種類有るのです」 それで通信(?)が終わる。 話しかけられている最中は、ちょっとだけ変な感じがする。 試しに 心の中で 『妹や弟の皆さん?千裕ちゃんは?今はどうなってますか?』 と思ってみた 「あ!。私たちの事は、通信中は本当の弟や妹と思って良いですよ? 言葉使いも、態度も。 で、お姉ちゃんの話は、ゴメンなさい。長くなるので後でお話しますが、 耐久力、持久力、防水などの性能を良くするために何度か手術されていますが、生きてます。」 「あ、一応、この施設での訓練中はできるだけ、その訓練に集中してくださいね。お話は 休み時間や自由時間にしませんか?」 「私たちは、通信には力を結構使いますから、出来るだけ、会話か筆談にしておきたいんです」 何人かの「ちひろちゃん」が直接頭に話しかけてくる。 「でも、あのねじを今でも持っていてくれたから、目で見える範囲内にいるときには通信 できるんだよね。」 え?そういうモノなの?ねじは? 突然(?)右隣に座っている男の人が声をかけてきた 「なんか見てると、従業員の女の子たちに嫌われてるように見えるよ? 入って来るときに、手を繋いでないし、従業員の娘は無表情だったし。単に前を歩いて 来て席を指差して帰っていったよね。 ほら、みんなには笑顔だよ?それに、丁寧にお辞儀してるし。色々話してるだろう? ソレに配膳の娘も黙って置いていったよね? 絶対、避けられてるよ。」 アレ?そうだっけ? 案内の幼女は確か『一番のお姉ちゃん』って嬉しそうに言っていたし? 確かに手を繋いではくれなかったけど?配膳の人も笑顔だったし。変だなぁ? 確かに配膳の人は、声に出しての会話はしてないな。でも、案内の子とは話してたのに? アレも頭に直接語りかけていたのか?表情も頭に直接入れたデータなのか?一体どうなってるんだ? 後で聞けば良いか。とりあえずは食べるものを食べよう。 「いただきます」 皆でいっせいに声を出していだたく事に。 千裕ちゃんたちは、別室にいるのかな?見かけないな? 従業員のおじさん2人はいるのだけど? そういえば、学校でのちひろちゃんは、昼食べていたっけ? 気にしていなかったなぁ。 ココにいる千裕ちゃんたちは、何を動力にしてるのかな? 食事?電気?他の何か? そういえばこの施設は、蛍光灯などの照明が今の所見かけないな? 後で聞けば良いのか?。 照明が無ければ夜は真っ暗だぞ。 色々心配になってきた。大丈夫なのか? またも隣の人が声をかけて来た 「従業員で1メートル位て、成長が止まる病気なのかね? 男3人女3人なんて偶然にしても集まりすぎ、そういう人たちに就職先を斡旋したのかな?」 あれ?ロボットって気がついていない? 『気になるのなら、聞いてみたらどうですか? ぼくはそこまで気にしてなかったよ』 「そうなんだ?」 なんだろう?同じ顔なのだから気が付きそうなものだけど? それともみんなには、そうは見えていないのか? どうなっているんだろう?いったい? 『それよりも、照明設備が今のところ見当たらないのが気になるよ それに、多分テレビとか視られないと思うし。』 「え?・・あれ?携帯電話が圏外だよ?何も情報取れないじゃないか。 あとは、部屋が違えば使えるのか?それからラジオとテレビが使えるか、あとで試して みよう。」 ぼくは携帯電話を持っていないから気にしてなかったなぁ。 そうか、この場所では、通話もメールも出来ないのか。 『どうなってるんだ?』ココロで叫んでいた。独り言のように 「兄様?大丈夫ですか?どうかしましたか?」 また通信が着た 「困った時などは、私たちが付いてるから安心して下さい。 実際に頼りない弟たちですけ ど、いないよりは安心だと思いますよ? それから必要な情報はちゃんと送りますから心配しないで下さいね。」 頂くものを頂いて食事の時間が終わった。 食器類を指定された場所に置くと、女の子、男の子、の千裕ちゃんが受け取って、次々に 洗っていく。 そして、指示にしたがって、荷物を持って最初に集められた部屋に移動する。 部屋割りを行い、それぞれ指定された部屋に荷物を置きに行く。 「部屋に行ったら、動きやすい服に着替えて、また此処に来てください。 女の人たちも、スラックスやジャージ類で、長袖、長ズボンが良いですよ。 携帯電話などは電源を切って、うで時計や金銭なども部屋に置いてきてください。」 男の人、女の人、千裕ちゃんが案内してくれて、 部屋ごとに、鍵を開け、着替え終り、全員が部屋を出ると、鍵を閉めてくれた。 そうして一日目が始まった。 女の人4人は、エプロンを外していた。 副所長と14人の千裕ちゃんが並んでる前に、ぼく達は整列させられた。 「今日は夕食まで一緒に遊びます。 そして食後にお風呂、そして、睡眠です。 明日、6時にこの場所に集まってください。」 「えー?6時ぃ?」 「はい、6時です。皆さん頑張って下さいね。」 「兄ちゃん、5時半までに起こすからね。覚悟してよ。」(また通信ですか?) 「今から軽く体操をして、その後、施設を見て歩きます。迷わないように!」 小学生の時、朝、校庭や公民館に集まって行う、あの体操だ。 千裕ちゃんたちも、なのだが・・・・・ 手を上に上げると、 女の子千裕ちゃんのスカートも上がる。と、股間の割れ目が見える。 女の人千裕ちゃんのドレスの裾も上がり、太ももがちらちら見える。 ぴょンぴょん飛べは、もちろんの事。 何であんな制服なんだ? でも、みんな騒がないな?入社したばかりで、緊張してるからかな? とにかく、約10分間の体操が終わった。 「では、今から、施設内を案内します。男の人と女の人に分かれて案内します。 男の皆さんは男子従業員に、女の皆さんは女子従業員に、付いていってください。」 「その前に、男性の吉屋さんと女性の相沢さん こちらに来てください。」 何だろう?兎に角、副所長の所に行く。相沢さんと言っても千裕ちゃんではなかった。 「皆さん。相沢さんは弟さんと妹さんが、吉屋さんは従姉弟のお姉さんと弟さんが、従業 員として働いています。」 男の人千裕さん、女の人千裕さん、女の子千裕さん、男の子千裕さんが1人づつ出てきた。 「ロボットに親戚や兄弟姉妹はいない!」 反論しようとすると 「話をあわせて下さい。お願いします。」(通信で着ました。わかりましたよ。) 「そこで、何回か私たち従業員の手伝いをお願いしようと思っています。今も、施設の案 内には参加しないで、私たちの手伝いをお願いします。」 女の人千裕ちゃん3人と男の人千裕ちゃん3人に連れられて皆が出かけて行き、副所長、女 の子千裕ちゃんと男の子千裕ちゃん3人づつ、親戚や弟として紹介された2人とぼくたちに 2人が残った。 指示通り、約二メートル四方の紙を2枚、鉛筆、消しゴム、サインペンなどを床に並べて いく。 「吉屋さん。お気付きだと思いますが私もロボットです。」 相沢さんが話しかけてきた。 「私は、昨年秋に動き出した最新型で、顔を今までより軽く作って有ります。ですから、 顔が違うのです。表情が少ないのが欠点かな?」 はぁ、そうですか。興味は無いけどね。そういう事には。今は。 でも実際に作る事になれば、数グラムの差に一喜一憂するんだろうなぁ。 『ぼくの名前は、吉沢和彦と言って人間です』 「ええ、存じております。実の姉に当たる千裕さんのおなかのねじを持っている人ですね。 ロボットも人も、大きな区別をしないで、仲の良いオトモダチだと考えてくださってい る数少ない人だと聞いています。」 なんかズレてるな。ぼくにとっては、千裕ちゃんが特別なロボットであって、他のロボッ トは機械なんだけど? でも、仲良くしてくれるのは嫌ではないけどさ。 しばらく、副所長さん、そして、ロボット達と雑談しているとみんなが戻ってきた。 副所長さんが 「この施設の事わかりましたか?」 反応が無い。 「床に置いてある紙に。この施設の案内図を皆さんで描いてください。 男の人は(向かって左の紙を指して)あっちの、女の人は(向かって右の紙を指して) こっちの紙に描いてください。 それを使って、吉沢さんと相沢さんに施設の案内をして頂きます。 男性と女性、どっちが早く、わかりやすく、案内図か描けるか試してみましょう。 では、始めて下さい。」 一挙に騒がしくなった。一体どうなるのだろう? しばらくして、男性の方が終わったようだ。 「女の人が終わるまで、見直しして置いてくださいね。間違っていると吉屋さんが迷いま すよ?」 そして、女の人たちも終わったようです。 「大丈夫?相沢さんが迷わないように描けましたか?」 千裕さんたちが、描かれた案内絵を持ち、立って広げた。 「皆さんは、これから、図面をいっぱい描いて、それを使って説明して、物を作り、販売 します。 つまり、この案内図の様なものを描く機会は多いと思います。 今まで、食品、服、家電品、本、オモチャ、などでの、店頭ポスターや新聞折り込み広 告、電車やバスなどでの釣り広告をどれくらい注意深く見ていたかが、これからの仕事で 大切になるはずです。 さて。相沢さんと吉屋さん。今から約3分間、この案内図を見ていただき覚えて下さい、 それから、施設内を歩いて、本当にこの絵の通りに設備が在るか見てきて頂きます。」 子ども千裕ちゃんたち6人も真剣に見ています。 「他の皆さんには、続けてこの施設でのお約束を覚えていただきます。 食事は従業員が準備しますが、配膳などはセルフサービスです。 好き嫌い、食べ残しなどは認めません。 事前調査では、特に食品アレルギーなどはお持ちで無いと聞いています。」 などなど、副所長さんが話をしています。 千裕ちゃんのうちの一人が 「時間になりましたので、一緒に探検してきます」 と子供たち6人と一緒に僕達は出かけました。 すぐに 「ああ言っていますが、皆さんの案内図で施設内わかりましたか?お兄ちゃんと8号」と 通信が入ります。 『8号?』 「相沢さんの本名、です。実際に人と同じ名前は4月1日につけられたのですけど、それま では、この番号が名前でした。」 「実際にあの図面では配置がわかりません。お姉様たち。」 「お兄ちゃん、悪いけど女の人向け設備を一緒に見てから、男の人向け設備を見ていきま すね。」 「私達、女性従業員の部屋です。お兄ちゃんは何時でも出入り自由ですよ。ロックは電子 ロックで、従業員は遠隔操作出来ます。 中にあるお風呂やシャワー、トイレ、布団、インターネット接続、テレビ、ラジオなど を使ってください。8号もメンテナンスなどで使ってください。」 「私達は皆さんの行動を、分担して見ています。一人一人ドコにいるか。施設内と周囲約 100から300メートルの範囲内であれば大体わかります。脱走はすぐに追いかけられます。 それから、この施設からは、携帯電話、PHS、トランシーバ、テレビ、ラジオ、電波時 計、などの無線は全部圏外になってるので、持っていても意味は有りません。 パソコン通信なども出来ないように電話やブロードバンドは一般に利用できないように しています。」 それから部屋、共同風呂、トイレなどを見て回り、男子の設備へ 「私達、男子従業員の部屋です。お兄ちゃんも8号も、何時でも出入り自由、ロックは電 子ロックで、従業員の遠隔操作は同じ。 中にあるお風呂やシャワー、トイレ、布団、メンテナンスキット、インターネット接続、 テレビ、ラジオなどの利用も、女子部屋と同じで適時使ってください。」 一通り見て回るも位置関係を覚えきれない。困った。 「お兄ちゃんは、迷わせないから安心して良いよ。私達が、お手伝いしますよ。ほら」 頭の中に地図が描かれます。なんか、スゴイ事になってる。 いったい、どんなスゴイ技術を使っているの?脳波通信?言葉だけでなく、図面も? 一通り見て回り、大広間に戻ると・・・・・ 二人一組で、一人が相手の足首を持って、足首を持たれた人は手を使って、一定の場所を 小走りして往復する競争をしています。 あ、千裕ちゃんたちぃ、ワンピースで逆立ち(?)してる。捲れてるじゃない。お尻と背 中出てるし、胸も見えかけてる。 って!下着着てないの?それとも肌と同一色の下着?でも、下着の線が無いし! 女の子たちと言い、この施設ではノーパンノーブラなのか? それにしても、誰も騒がないのは何故?