下種な男たちの会話を、半ばあきらめの気持ちで聞いていた霧香だったが、見る見るう ちに顔が蒼ざめていく。 そんなことをされてしまえば異常なデータ入力により回路がショートしかねない。 いまだ理解のできないサングラスに向かって白衣の男は言葉を続ける。 「わかりやすく言うと、クスリやってる女相手にするみたいなもんだ。それよりももっと 強烈だろうけど。 たとえば首筋に息を吹きかけられただけでイッてしまうとかさ」 「へぇ……そりゃ面白そうだな」 よだれでも垂れたのか、汚らしく口元を拭うと、男はズボンをおろした。 下着の上からでもわかるほどににペニスは勃起しきっている。 「それじゃあ……そうだ。何もしなくても濡れさせるとかはできねぇのか?」 「できると思うが、そういう準備も含めて楽しむものじゃないのか」 「時間がねえんだろう」 「わかったわかった」 ひらひらと手を振ると白衣の男はノートパソコンを霧香の近くにあった大型のコンピュー ターに接続した。 かたかたとベッドの横でキーボードの音が響きだす。 「おい、今から俺が気持ちよくしてやるからな」 下卑た笑いを顔に張り付かせて、サングラスは霧香の頬を撫でた。 敵意をむき出しにして、霧香が怒鳴る。 「黙れクズめ! 」 「自分の立場をわきまえろよ?」 「お前のような人間にはこれがお似合いだっ!」 霧香が男の顔につばを吐きかけた。 サングラスが霧香の顔をわしづかみにする。 そして、そのまま拳を振り上げた。 「人形の分際で!」 「そこまでだ、ストップ! これでよし。体のコントロールをセクサロイドモードに強制 移行させた。もう殴る必要はないぞ」 白衣の男に声をかけられ、サングラスが拳をおろした。 そして霧香を観察していると、様子がだんだんおかしくなっていくのに気づいた。 先ほどまでの刺すような鋭い視線はもう感じられない。 とろんとした瞳で、焦点すら定まらないようだ。 わずかに開かれた唇からは、はぁはぁと荒い息が漏れ出す。 「わ、私に、んっ。ぁあ、触るな……」 切なそうに眉をしかめながらも霧香は気丈な姿勢を崩さない。 しかし、それは逆に男の嗜虐心を煽ることとなった。 「すげぇ変わりようだなおい」 サングラスが霧香の胸に手を伸ばす。 それは愛撫などという代物ではなく、ただ自分の欲望を満たすための乱暴な手つきだった。 豊かな胸の形が変わるぐらい、力加減もなく揉みしだく。 それでも、今の霧香は心地よい快楽を得てしまう。 「くぅ……あっ、はぁん」 堪えようとしても堪えきれずに、どうしても口から甘い声が漏れてしまう。 「クズにいじられて気持ちいいのか?」 「うるっ、さい……ひっ!」 唐突に男が乳首をつまみあげた。 それだけで霧香は背筋をのけぞらせてしまう。 「おい、これもう感度を倍にでもしてるのか」 「いや、まだそのあたりの数字はいじってない」 「それでこれかよ。淫乱ロボットだな」 むにむにと胸の柔らかさを堪能しながらサングラスが霧香にささやきかけた。 「……ふぅ、ぁあ」 霧香は反論することもできず、ただ甘い声を噛み締める。 すでに霧香の股間からは粘液が溢れかえっている。 とろとろと流れ出した愛液はベッドからこぼれ落ち、床に淫らな染みをつくった。 霧香の愛液は性欲を増進させる甘い香りつきのローションである。 たちまち、倉庫の一角に淫猥なピンクの空間ができる。 その香りに酔ったのか、白衣の男が血走った目で叫んだ。 「それじゃあお待ちかねの感度百倍だ!」 「そっ、それだけはやめてぇっ!」 なりふりかまわず霧香が絶叫する。 そこにはもう戦闘用アンドロイドの姿はなく、ただ蹂躙されるのを恐れる女がいた。 残念だな。白衣の男はにやりと笑ってキーボードを操作した。 「ひぁああああああああああああ!」 霧香の体ががくがくと大きく痙攣する。 ベッドがぎしぎしと音をたてた。 霧香の股間から液体が飛び散った。人間で言う潮吹きというやつだろう。 「お、おいこれ大丈夫なのかよ」 サングラスが不安げに問いかけた。 「いきなり快感系の負荷が高まったからだろう。すぐにある程度は落ち着くと思うが」 白衣の男の言葉通り、霧香の痙攣はしだいに小さくなっていた。 それでも、先ほどまでと同じというわけにはいかずに、ひくひくと小さく震えている。 股間からはだらしなくおしっこをもらしている。厳密には尿ではなく、ただの水なのだが。 「あぁ、ひぁ……」 ぱくぱくと口を動かして、唇の端からはよだれをこぼしている。 もはやまともな意識はほとんどないようだ。 「へへ、すげぇな。だだ漏れじゃねぇか」 サングラスはごつごつした指を霧香の股間に伸ばす。 製作者の趣味なのか、必要ないと判断されたのか。 霧香には大事な部分を覆い隠す陰毛がなかった。 霧香の秘所は成熟しきった女体をモデルにしているボディラインとは異なり、淫肉がは み出ることもなく、少女のように楚々としたものであった。 しかし、今は枯れることなく溢れる泉と化している。 ぴちゃり。とろとろの愛液に触れ、それが覆っている部分に触れる。 「あああぁ! くぁ……ああ」 途端に霧香の口から嬌声があがった。 「ちょっと触っただけでこれだ。挿れたらどうなるんだろうな」 べろりと唇を舐めるサングラスの男が、醜く膨れ上がった自分のものに手を添えて、霧 香を味わおうとしたとき、邪魔が入った。 先ほど去っていった科学者である。 「なんだ。まだやってなかったのか」 「お楽しみを邪魔すんなよ」 「邪魔はしたくないが仕事だからな。さっき言ったとおり今からバラさせてもらうぞ」 「おう。手足からにしろよ」 「胴体だけのとしたいのか、呆れるな。まあいい」 おい、準備は整った早く来い。科学者が背後にいた数人に声をかけた。 技術者らしき男たちが手にした工具を構え、霧香の上半身に集まった。 まずは手からバラすつもりらしい。 「よし、さっきも言ったとおりこいつの皮膚に刃物は効かない。間接部分の表面を酸で溶 かせ」 科学者が一歩下がると、技術者が作業を開始した。 手にした特殊な噴霧器を霧香の肩に吹きかける。 じゅうじゅうという音と、わずかに鼻をつく匂いがあたりに漂った。 霧香の皮膚が溶け、内部の機械がしだいに露になっていく。 しかし、そんな状況でも霧香は快感を感じているようだった。 「ひっ、ひぃぃぃ! あっ、あぁあ……きもちいひぃ! もっと、もっろぉ」 舌足らずな声で更なる責め苦を要求する。 「なんだ? 体溶かされて感じるたぁすげぇマゾだな。よし、もっと気持ちよくしてやるぜ」 霧香のもだえる様を見ていたサングラスが、腰を突き出した。 血管の浮き出た肉茎が霧香の秘部に触れる。 そして、そのままずぶずぶと慎ましやかだった秘唇を押し広げ、中に侵入していく。 「あがががぁぁ! くっ、くるぅぅぅ! はひっ、ひっぁぁ、中がすごひぃ」 もはやかつての女軍人としての面影などどこにも見られない。 ただ欲望をむさぼる一匹の牝がそこにあった。 霧香の中は柔らかく、熱く、ときに強く、ときに弱くサングラスのものを締め付ける。 「こ、こいつはすげぇぞ」 予想をはるかに上回る快感に腰を動かすことも忘れていた男が、慌てて腰を動かし始める。 だが、数回腰を動かしただけでサングラスの股間は頂点に上ってしまった。 人間とは比べ物にならないほどの快感に、サングラスの男はあっという間に果ててしまう。 びゅくびゅくと、みっともなく痙攣すると、ペニスは肉欲の証を霧香の中に吐き出しはじめた。 「おぁあああ! 出てるぅ! 出てるよぉぉぉぉ」 痙攣する体を無視して、霧香の肉がうねうねと動き、男の吐き出した精液を一滴も漏ら すまいとする。 優しく吸い込むようにして、ペニスはさらに奥へといざなわれた。 萎えかかった肉棒を、やわやわと揉みしだくようにして奮い立たせる。 細かい指先の動きを淫肉でやられるのだから堪らない。 サングラスの男のものはたちまち硬度を取り戻した。 「抜かず何発ってやつか、おい」 再びサングラスの男が腰を動かし始める。 相手のことなど考えない乱暴な腰使いにもかかわらず、霧香はよがり声をあげてそれに 応えた。 一方、霧香の肩口から二の腕のわずか上辺りまでは、完全に皮膚が溶かされていた。 「よし、関節を破壊して腕を切り離せ」 「いいんですか? 壊してしまって」 「もう関節部分の分析は済んでいるからかまわん」 そこで言葉を切ると科学者は、よだれを垂らし白痴と化している霧香の顔を、汚らしげ に見つめた。 「それに乱暴にされたほうがこいつも喜ぶだろう」 「わかりました」 技術者の一人がわきに置いてあったチェーンソーを手にし、霧香の左肩にあてがった。 このチェーンソーは超振動ブレードを使用しており、通常のものなど比べ物にならない 切れ味を持つものである。 まともなものでは霧香の体に傷すらつけられないと知っていたのだろう。 準備のいいことである。 反対側にも同じようにチェーンソーが置かれる。 「やれ」 冷たい声を合図に、刃物にスイッチが入れられた。 ギィィィィィン! ギッ! ギギッ! 耳障りな音とともに火花が散り、ゆっくりと刃が霧香の鋼の体に沈んでいく。 「……っが! ぐががががががががががががが」 霧香の体が今までになくのた打ち回った。 口からはもはや甘い声でなく、絶叫が飛び出す。 それでも、霧香の下半身はサングラスとの行為になんら支障をきたさない。 それどころか、今まで以上にペニスを締め付ける。 「おっ、こいつ本物のマゾだな。腕切られてるのに感じてるぞ」 以上な状況に興奮しているのか、サングラスは狂気の混じった声で喜んだ。 ごつごつと腰を叩きつけるようなピストン運動を加えられても、霧香の口からは絶叫し かあがらない。 しかし、その苦痛のうめき声にはわずかながら、媚声が混じっている。 それはしだいに比率を変え、霧香の右腕が落とされる頃には、あきらかな喜びの声となっ ていた。 「あぎっ! あぎぃぃぃ! すご、すごいぃ! 腕が、腕がなく、なくなってるのに気持 ちいぃ! いくぅ、いっちゃうよぉ!」 「おら! いっちまえ!」 切り落とされ、ぱちぱちとショートしている右肩の切り口を、思い切りサングラスの男 が殴りつけた。 その衝撃で、左側のチェーンソーに力が加わり、残された霧香の左腕もちぎれ飛んでいく。 「ひがぁぁあああ! はっ、はぐぅ、っぎゃぁぁぁっ!」 ぐるりと霧香の瞳がまぶたの裏に潜り、白目をむいた霧香の顔が歪む。 股間からは、愛液が噴出して、サングラスの腰を濡らす。 「おい、まだ足が残ってるんだぞ。お楽しみはこれからだぜ。おい、足の皮膚をはやく溶 かせ!」 せかされた技術者たちが、大急ぎで霧香の足の付け根に酸を吹き付ける。 あっという間に銀色の関節が顔をだす。 サングラスの男が技術者からチェーンソーを奪い取り、霧香の太ももに押し当てる。 「おい! やるんならちゃんと関節に……」 「うるせぇ!」 仲間の制止を振り切り、完璧に常軌を逸したサングラスはチェーンソーのスイッチを入れる。 再び、金属の刃が回転する耳障りな音が倉庫に響きはじめる。 それと同時に、下卑た笑い声も。 「いひひひひひ! さぁお待ちかねの足だぜぇ!」 刃物を振り回しているのに、本能のなせる業か腰の動きは止まらない。 当然、サングラスの男の姿勢はふらふらと安定しない。 太ももを斬りつけたかと思うと、腰にいってしまったり、危なっかしいことこのうえない。 霧香は表皮が残っているところにあたれば腰をくねらせて喜び、機械部分にあたれば悲 鳴とも嬌声ともつかぬ声をあげた。 にもかかわらず、秘所はそのあたえられた機能のすべてを使い、男のペニスを愛撫する。 入り口から奥へ向かって膣壁がうごめいたかと思うと、今度は逆に奥のほうから丹念に マッサージするように、波打つ。 きゅうきゅうと心地よい締め付けは緩めず、ただ奉仕するためだけに、女アンドロイド は存在していた。 「ひっ! ぎぃっ! ぎぅぅ、あ、痛い! いらひよぉ! あああああいたひぃ、きもち ひぃよ。すごひぃいぃ」 コツをつかんだのか、サングラスは霧香の右足を上手に切り刻み始めた。 部品が破壊されていく音に混じって、ぐちょぐちゅと粘膜がこすれあう音が聞こえ、男 の興奮を煽った。 ぶちぶちとコードが切断されるたびに、狂ったように霧香はよがり、さらなる責め苦を 要求する。 「こいつで止めだ!」 サングラスの男が今まで以上に腕に力をこめて、猛スピードで回転する刃を霧香に押し 付けた。 ガッ! ギィィィン!! ……ゴトッ! 硬質な音をたてて、かつて右足だったものがベッドに沈み込んだ。 「ひぎぃいぃぃぃ!! ごぁぁぁっ、ぎっぐっぅぅぅぅ!」 哀れなアンドロイドがのたうちまわり、拘束されていない上半身がはねる。 まるで吊り上げられた魚のように霧香はベッドの上を転げまわった。 切断部分から火花が飛んで、サングラスの腰に当たっているのだが、まるで意に介した 様子がない。 「はぁぁぁ、最高だぜぇ……」 足を切り落とした瞬間に、男も達していた。 背筋を震えるような快感が通り抜けていく。 しかし精液を吐き出しながら、なおも男は腰を動かし続ける。 男のものはまるで衰えていなかった。 はじめと変わらぬ、いやむしろ一まわり大きさを増して霧香をえぐる。 暴れまわる霧香をむりやり押さえつけ、ののしる。 「どうだっ! お前も気持ちいいだろうっ!」 サングラスの男は霧香の顔面を全力で殴りつけた。 しかし霧香はまるで反応しない。 限界を超えてしまったのだろう。 うつろに開かれた霧香の唇からは、ひゅうひゅうというかすれた音と、神経に障る電子 音しか流れてこない。 「ピィ――。……ザッ、ザ――」 「何とか言ったらどうなんだ!」 血走った目で、もはやアンドロイドとも呼べない、残骸に拳をふるうサングラス。 周囲の人間は完全に引いてしまっている。 「変な音だしてんじゃねぇよっ!」 狂人はむりやり手を霧香の口にねじ込むと、小刻みに振動している舌を摘み上げた。 ぬめる舌を握りつぶすようにして掴むと、男は三度目の絶頂を迎えた。 亀頭が膨れ上がり、今までで一番大量の射精を開始する。 びくびくと痙攣しながら、肉棒は白い粘液を霧香の中にぶちまける。 「はぁぁぁ……ほんとにすげぇ……ぜっ!?」 唐突に男の頭蓋にくぐもった音とともに穴が開いた。 ワンテンポ遅れてそこから血が噴出する。 サングラスがゆらりとバランスを崩して、後ろに倒れていく。 ペニスが軽い音をたてて抜ける。 それは未練たらしく精液を出し続け、霧香の体を汚していく。 しかし、すぐにそれは上から降り注ぐ鮮血によって覆い隠されてしまう。 その間も、あたりには無数の銃声が響いていた。 天井を見ると、いつの間にあったのか、天井から吊るされているロープに捕まった吉村 の姿がある。 一人ではない。 無数の人間が吉村に続いて、天井に開けられた穴から侵入しつつ、眼下に向かって銃を 乱射している。 そのうちに倉庫のドアが打ち破られ、さらに兵士が突入してきた。 倉庫にいた人間たちはなにが起きたかわからぬうちに、次々と倒れていく。 数分後、倉庫を制圧し終えた吉村が、周囲を警戒し続ける部下から離れて霧香の元へや ってきた。 「これは……」 かつての面影のかけらもなく、ガラクタと化した部下を見下ろす。 あまりにむごい有様に、吉村は言葉を失った。 なまじ美しい顔が残っているだけに、よけい哀れさを増している。 体の奥から溢れる怒りを抑えきれずに、吉村は手にしていたヘルメットを床にたたきつけた。 そして大きく息を吐くと、できるかぎり冷静に、通信機に向かって霧香の確保を告げた。 「ぐっ……わ、わた、わたし……は」 声帯が破損しているのだろう。 かすれた声が自分の耳に飛び込んでくる。 霧香はきしむ首を動かしてあたりを見回した。 忙しそうに多くの人間が自分を取り巻いている。 ふと視線を動かすと自分の体が目にはいった。 ひどい姿である。 ああ、そうだ私は、敵に捕らわれてばらばらに……。 ノイズだらけの映像が脳裏に再生されて、霧香はすべてを思い出した。 「……なに!? 霧香が意識を取り戻したのか!」 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 誰の声かまるでわからない。 声紋データが照合され、それはすぐに吉村のものだと認識される。 正常なら起こらないタイムラグによって、霧香は嫌でも自身の惨状を意識させられた。 「おい、大丈夫なのか竜宮軍曹!」 心配そうな顔がレンズに映って、なぜか霧香は感情が揺らぐのを感じた。 「た、たい……ちょ……お……」 「意識はあるんだな! 生きているんだな!」 自分を人間のように言う、その言葉がひどく嬉しい。 「ごめ、ごめい、ごめいわくを……おか、お、おかけ、しま……し、た」 声帯だけでなく言語機能も損傷しているらしい。 信頼する隊長への言葉が上手くでてこずに、霧香はひどくもどかしい思いをする。 「なにを言う。お前のおかげで隊員たちは全員無事だ。本当に……すまなかった」 ぽとりと、霧香の頬にしずくが落ちた。 「……たいちょお?」 歯を食いしばって、吉村は体の奥からくる想いを押さえ込む。 「なんでもない。それよりも、俺をまだ隊長と呼んでくれるのか」 「たい、ちょうぅうは、たい……ちょ、うです、……から」 「竜宮軍曹……」 「たいちょ、う」 「なんだ? どうした?」 「どううか……こ、こ、これい、じょう、……見ない、で……くださ、さ、さい……わた、 わらしも、女です」 「す、すまんっ!」 吉村が慌てて部下から目をそらす。 「すき、好きななぁ、人に人、こんんな姿を……見ら見られ、れるのは、つ、らいですか…… ら――」 「な、なにい!?」 慌てた吉村が聞き返すが、霧香はすでに意識を失っていた。 目を閉じ、微動だにしない部下を見つめて、隊長はただ立ちつくす。 モニターを見つめていた一人が大声をあげる。 「あーーーっ! 無理をさせるなといっただろう。 まだ起動しただけだというのに!!」 棒立ちの吉村を押しのけて、技術者たちが霧香におしよせた。 霧香の体は軍事機密の塊であるから、発信機など様々な監視装置がついている。 当たり前だが、初のアンドロイドの運用状況をモニターするためである。 霧香を強奪した連中もほとんどの発信機を発見、破壊したものの、たったひとつだけ見 つからなかったものがあった。 そのため霧香の居場所が確認でき、奪回部隊が無事に霧香を回収できたのだ。 二週間後、霧香は無事修復され吉村隊に復帰した。 修復作業中に回収されたデータから判明した、プログラムシャットダウン直前の霧香の 吉村への言葉から、アンドロイドも恋をするのかという論争が勃発し、経過を見守りつつ、 データを収集するべしという結論が下された。 その結果、霧香の吉村隊への配属が半年間から無期限に延長されることとなる。 「隊長! またお世話になります!!」 相変わらず葉巻をふかしている基地司令の前、霧香がきりりと引き締まった顔で敬礼する。 吉村は嬉しいような、困ったような、判断のつきかねる心境でそれを受けた。