あなたのいぬになりたい



「ねぇ、孔明。ほんとにコレ着なきゃだめ? 」
「もちろん。お気に召さないようなら他にもっと面白いのがありますけど、そっちの方がよろしいですか? 」
「い、いいよ、なんかものすごく不安だからいらないよ! 」
「じゃあ、四の五の言わずにさっさと着替えてくださいよ」

短く唸りを上げながら劉備は黒い布地を握りしめ立ち尽くしている。その様子を孔明は足の短い卓の上に浅く腰掛け眺め回している。にやにやと下品な笑いを隠そうともせず、その侮蔑を孕んだ視線を恥ずかしげに身を捩っている劉備に惜しげもなく注ぐ。
劉備は自分が今蔑みの対象となっていることをいやが上にも思い知らされ、なんとかその視線から逃れようと身を縮込ませた。だがそれも孔明の執務室に二人きりという非常に緊密な距離間ではなんの意味もないことだった。すぐ斜め下からわざとらしい溜息が上がるのを聞く。

「劉備殿。さっきご自分で着るって言ってましたよね。あれは嘘だったんですか? 私を騙してたんですか? 」
その冷たい声と眼差しにはっと息を飲み、慌てて部下の足元にひざまずく。
「ご、ごめん! そんなつもりじゃないんだけど……ただちょっと恥ずかしくって……」
「ははは、男の恥じらいなんて一銭の価値もありませんよ。まったくそそりもしないんだから」

表情を変えずに口だけを半月型に反らせる。その不気味な笑いに劉備はぴったりと敷物につけた尻の方から得体の知れない寒気が這い上がってくるのを感じた。
だが彼には逆らえないのだ。
夕刻頃、孔明に「面白いことをするので今晩、部屋まで来てください」と言われ、なんだろうかと胸を躍らせていってみればそこに用意されていたのは例のぴったりと体にフィットする奇妙な黒服だった。
うろたえる劉備に対し用意した張本人はさも当然とばかりの顔で「着ろ」と命じたのだった。
前回かいた赤っ恥のため当然劉備も一度は拒否しようとする。しかし軍師である彼が「言うことを聞かないなら戦に私が協力することは二度とないと思え」と脅してくるものだからもうぐうの音も出なかった。

どんな辱めも甘んじて受けなければならなかった。それが二人の至って「正常」な関係だった。
時には無理に性交を迫られることもあったが、だいたいがこうしておかしな格好をさせられたり恥ずかしい言動を取らされたりという他愛もないことだった。
劉備は何故彼が自分だけにこうも執着を見せるのかといつも不思議に思ったが、この行為の結果得られるはずの軍師の知恵とその先にある天下のことを思えばそんなことは取るにも足らないことだった。
今はただ我慢の時だと思っていた。

「で、着るんですか着ないんですか」
上目遣いに睨み言葉を返す。
「わかったよ。着るよ、着ればいいんだろ、くそう……! 」
怒りと羞恥に震える足を押さえゆっくりと立ち上がる。黒服はとりあえず足下に放った。
にやつく男から数歩離れた場所で直立しまず腰帯に両手をかけた。しっかりと結ばれていた紐の結び目を解き帯を外す。軽く丸めこれも敷物の上に放る。前に垂らされた膝掛けも同様に外す。
孔明は足を組み顎に手を置いたままじっと劉備の一挙一動を観察している。一瞬たりとも逸らされることがない鋭い視線に晒される劉備は体を強ばらせぎこちない動作で上着を頭から引き抜いていく。次いで下穿きに手をかけ一瞬戸惑ったがこれも思い切りよくずり下ろす。
「あと少しですよ。もたもたしてないで早く脱いでください」
ついに薄い肌着だけになってしまったことに今更激しい羞恥心が沸き上がり劉備はうろたえた。
同じ男といえども明らかに性的な興味を持って注がれる眼差しに己の裸体を晒すことには未だに抵抗があった。いや、むしろ相手が男だからこそこの異常な行為に吐き気がした。性的興奮など起こるはずもなかった。
肌着の布帯に手を触れながら劉備は媚びるような半笑いを浮かべ目の前の男に哀願の眼差しを向ける。
「孔明……や、やっぱり、ぼく、無理」
「は? 今更何言ってんですか。あんた、そんなこと言えるような立場でしたっけえ? 」
大仰な声色でお前は今あらゆる常識・常理から逸脱したことを言ったのだと言わんばかりに詰ってくる。
劉備はすっかり萎縮してしまいおずおずと帯を外し床に落とした。
開いた肌着から垣間見られる男の象徴を隠そうと前を掻き合わせ慌てて背を向ける。
「あんまり、見ないでよ……」
背後で短い嘲笑の音が聞こえる。
「男同士なのにどうして? 何も恥ずかしいことなんてないでしょう? そうやって男の前でストリップするぐらいで恥ずかしがるなんて、劉備殿ってスキモノだったんですね」
様子を見るように一拍おいてまた言う。
「そんなに興奮してるんですか? 」
「そ…そんな、ことない……! 」
もうほとんど泣き出しそうに潤んだ目をぎゅっと瞑り罵倒に耐える。小刻みに震え始めた指先を襟にかけてゆっくりと開いていく。
「とにかく着替えればいいんだろ? それで君の気が済むなら……」

背を向けたまま最後の砦を取り払い音を立てて落とした。
日常品が並び他のどこの部屋とも変わることない平凡な部屋の真ん中で、しっかりと衣服を着込んだ男にじろじろと眺め回されている全裸の自分。冷たい外気が裸の皮膚の上を掠め改めて自分の置かれている状況の異常性を認識した劉備はカッと熱くなる体を力一杯に抱きしめた。ぐちゃぐちゃと思考が煩雑になり始め、一刻も早くこの場から逃れたいという衝動だけが身にのたくった。
「へえ、一人で戦に挑んだ割には案外体は綺麗なままですね。もっと痛めつけられたかと思いましたが」
なんだつまらないと言いたげに息を吐き肩甲骨の浮いた痩せ気味の背中を眺める。全体的に色白な体に短く切り揃えられた黒髪がよく映えていた。
そこから背骨をなぞって真っ直ぐ下へと視線を滑らし臀部へと到達する。
引き締まった小さな尻は極度の緊張のため必要以上に力が込められ、遠目にもふるふると震えているのが見て取れた。孔明はそれを期待に打ち震えてこちらを誘っているものだと勝手に思い込んでしまった。
「どうしたんですか? お着替えもできないようなら私が手伝ってあげましょうか? 」
その言葉に追い立てられるように劉備は薄い布地を拾い上げくしゃくしゃになったそれに片足を突っ込んだ。自然背を丸め足を大きく広げる恰好になるので足の間のものを見られるのではと危惧したが、それでも真正面から眺められるよりはましだ、という考えがようやく劉備の手を動かしていた。
着るように命じられた時ついでに付け足された命令にも従順に従っていた。下に何も身に付けずに着ろ、という凶悪な命令だった。
片一方に足を通しすぐもう一方にも爪先をくぐらせる。腰元まで思い切り引き上げると下半身がぎゅうと締め付けられる気がしてつい内股を擦り合わせてしまう。
「それ、いいでしょう? 最新型の極薄タイプ。大きさもワンサイズ下げてみました」
「な、なんでそんな……」
「いやらしいお尻の形がくっきり浮き上がっていい感じですよ」
くぐもった笑い声が背を掠めぞくぞくと粟立ってくる。
「バッチリお似合いです」

一刻も早くこんなことは終わりにしたい。それだけで頭がいっぱいになっていた劉備は背後から聞こえる嘲笑をなんとか無視し服を更に引き上げる。妙に短く切り取られた袖に両腕を通し胸を隠す。背後はジッパー式になっているので自分では上げにくい。どうしたものか。これでは自分で着替え終われない。
ちらと振り返ると孔明は卓から身を乗り出してまじまじと劉備を見つめていた。
そのまま勢いよく立ち上がる。
尻に敷いていた書類や傍らにあった筆入れが床に無惨に散らばるが彼自身は全く気にも留めようとしない。
劉備の背中に鼻先を近づけ舐めるように上から下へと視線を滑らす。背に吐息がかかりぞくぞくと何かがせり上がってくる。
いやだ、気持ち悪い、と思ったその瞬間、冷たく濡れた感触が中心に触れ肩が飛び跳ねてしまった。実際、彼は舐めていた。舌先を窄めてほんの少しだけ皮膚に触れ、擽るように上下に嬲る。
瞳は欲にギラギラと光り獣のようで、ちらと見てしまった劉備はその常軌を逸した様に怖気をふるいながらただ悲鳴を噛み殺すしかない。
永遠に続くかとも思われた行為は意外と早く終わりを告げた。
顔を離した孔明はなにやら早口に捲くし立て始める。
「やっぱり、少しくらい肌が見えていた方が良さそうですね。その方がずっといい……。劉備殿もそっちの方がいいでしょう? とにかく劉備殿、服をちょうど腰の辺りまで下ろしてみてください。ああ、これで完璧ですね……」
「ちょ、ちょっといきなりそんな……」
戸惑いながらも素直に服はずり下ろす。
「できました? それならほら、こっちにきてお尻をべったりつけて……そう、ここに座ってください」
促されるまま卓の前に座り込む。孔明は机上に残っていた文具を手荒に払い落としその後に悠々と腰かけた。
「ねぇ、きょ、今日はあの、何をするの……? 」
上半身は裸な上、下半身もいやに薄い布地で覆われているだけなのでひどく心許ない。下に目をやると性器の形だけでなくその淡い色味さえも透けて見えてしまいそうだった。じんと下っ腹が熱くなってくる。
顔を真っ赤に染め目を泳がせる様子を孔明は実に満足げに見下ろしふんと鼻を鳴らした。
君主の癖に、こいつは気持ち善がってるんだ。
「今日は面白いことをするって言ったでしょう」
うん、と劉備は頷く。その瞳はもう酩酊したように据わり始めていた。
「だって、いつも同じようなことばかりしてはつまらないですもんね? だから今日は少し趣向を変えてみようと思います」
衣の端から延びた裸の足先が劉備の太股をさっと掠める。あっと息を飲み全身を震わす。
孔明はその様子にほくそ笑み更に足指を滑らせていく。
「今日は足だけで可愛がってあげます。ほら、面白そうでしょう? 」




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