薄いブランケットを剥がして、エメットがミントグリーンのシーツをかけた。



初めての色に、インゴはぱしりと瞬きをする。
インゴの部屋のシーツは白、必ず白。エメットの部屋は、茶系のシーツで統一されていた。窓は大きいけれど、晴天は滅多に拝めない部屋。本棚で分断されすぎて、濃い影が出来る事も多い。それでもミントグリーンのシーツは皇かに、薄暗い部屋に浮かび上がっていた。
ベッドの横で床に座り込み、ノートパソコンと戯れていたインゴの手が止まる。エメットの手伝いをしようとは一切思わないけれど、薄ら光沢さえ感じるミントグリーンには目を奪われて。
ギュッギュッとマットレスの下に押し込まれたシーツの端に、そっと触れてみる。もしかしてと予測した通り、つるりとした肌触り。一気にテンションが上がって、ノートパソコンを床に置く。エメットがシーツを付け終えて、本棚に引っ掛けてあるブランケットを取りに行った隙。
「あ!あぁ〜…折角きっちりつけたのに」
滑り込むように横からベッドに乗り上げたインゴは、勢い余って反対側の床に手がついた。エメットの呆れ声に、それでももう一度身体を乗り上げて、満足げに頬擦りをする。
すべすべで、ひんやりとしていて、新しいシーツ特有の匂いがする。清潔感があって、とても気持ちがいい。



「とても良い色です」
無邪気に笑うインゴに、エメットは満更でもない顔。完全に怒るタイミングを逃してしまって、そもそも怒る気もなかった事に気がついて。
「インゴ、猫みたい。ベッドメイクを邪魔する悪い子は、ブランケットの刑!」
大げさに、ばさりと高くブランケットを広げてみせた。ふうわりと広がったブランケットは、重力に従いインゴの身体をふさりと隠す。
ブランケットの下、最初はピクリとも動かなかったインゴは。それでもクツクツと笑みを洩らしながらもそもそと、ブランケットの中蠢いて。悪戯に伸ばしたエメットの指が、インゴのどこかに触れた途端、ぱしりと掴もうとして。慌てて指を離し、別の場所に触れればまたぱしり。
いい年した男兄弟が、やるような遊戯ではない
どちらもそんな事はわかっているけれど。休日だ、ふたりきりだ、何をしたっていいだろう。ふたり同時の開き直りで、暫くの間はきゃらきゃらと、笑いながら遊びは続いた。








「とても良い色です、良いシーツです」
漸くブランケットから顔を出したインゴの髪はくしゃくしゃ。遊ぶ間に丸まってしまったブランケットを足元に、頬擦りしたまま褒められて。エメットは笑う、当然の事。
「当然でしょ。だってインゴに一番似合うシーツ、選んだからね」
くしゃくしゃのシルバーグレイは、ミントグリーンにとても映える。へーゼルの目も、白い肌も。
「それでは、エメットにも一番似合うシーツですね」
素敵です
無邪気に笑うインゴは、ゆっくりと降りてきた唇に抗う事もない。笑みに形作られた唇で、触れるだけのそれを受け止める。
戯れの延長線、だから性的な意味はない。そう考えて、自らエメットを引き寄せる事はしなかったけれど。
「僕としてはもう一手間、欲しいところ」
エメットは、戯れの延長線に欲を混ぜてくる。



部屋にいる時は、寒くない限り素肌を晒すインゴ。本日はスウェットのパンツのみ、とても脱がしやすくてありがたい。などと思う暇もなく、ぽんぽんと脱がせてしまって。裸体である事を一切恥じないインゴが、ぱしぱしと瞬きをする間に背後に回る。
ミントグリーンのシーツに投げ出された、しなやかな足。インゴの頭が胸に来るまで引きずり上げたエメットは、嬉しそうに何度か太股を擦って。それから徐に、足を開かせる。
「ぁ…するのですか」
少し戸惑い気味のインゴが、更に身体を起こそうという素振りを見せて。けれどエメットは、それを止めた。んん、不透明な声と共に。
「もう一手間」
「…ッあ」
曖昧に流されて、戸惑っている間に。明らかな動きでエメットの手が、インゴのペニスを扱き始める。やんわりと、いくらでも時間はあると余裕を見せて。
「ぁ、ぁ…ん」
やんわりと。けれど確実に追い上げられる感触。ゆっくりと芯を通し始めたペニスが、頭をもたげて行く。シーツに立てられた居心地の悪そうな足は、少し力を入れるだけでつるりと滑る。
エメットの動きは、けして性交を匂わせるそれではなかった。鼻歌を奏でそうな勢いで、のんびりと。追い上げられて、インゴも気がつく。
ただリラックスして、体から力を抜いて。欲を吐き出せばいい、それだけ。



「んぅッ…ふふ」
気付けばただおかしくて、小さく笑ったインゴの耳に、エメットがかぷりと噛み付いた。
お返しとばかり、ハーフパンツにシャツ一枚という格好のエメットの膝、少しだけ食い込むように爪を立て。
「痛いよ」
さして痛くもなさそうに、文句を言った声は聞えないフリ。ハーフパンツの裾を掴み、後頭部をぐりぐりとエメットの胸に押し付けて。ずくずくと疼く熱、身体を侵食する痺れに身を任せ。
「ふぁ…んッ!」
我慢する事無くあっさり吐き出した精子は、それほど量がないけれど。真新しいシーツに飛び散ったそれは、乳白色とわかるほどには主張した。
何度かに分けて飛び散ったおかげで、一瞬で汚されてしまったミントグリーンのシーツ。
「うん、素敵な僕のシーツになった」
それなのに。ひどく満足そうにエメットが、耳元で呟いてから米神にキスをくれる。この貪欲で独占欲の塊のような、愚かしい行いに。インゴは思わず、声を上げて笑った。








エメットのもくださいませ
言って今度はインゴが、ハーフパンツをずり下ろす。エメットもそれに抗う事無く足を立て、向かい合わせになったインゴのそれに、絡めるように固定して。
「一緒にやればよかったですね」
何の気なしに言っただろう言葉には、特に返答をしない。好きな事は、何度やっても楽しいもの。
「向かい合わせじゃ、僕のインゴにかかっちゃうよ」
それよりも聞きたいこと。お互い立てた足のせいで、あまり空間的ゆとりはない。少し顔を寄せればキスの出来る距離。
咄嗟に固定してしまったけれど、離れた方がいい?
お伺いを立てたエメットに、インゴは笑った。
「私は、シーツごときにエメットの精子、くれてやるほど寛大ではないのです」








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