命知らずのなんと多い事か。
振り上げられた足を見るたび思う、何故よりにもよってエメットのケツを狙うのかと。痴漢撲滅運動に、男性の囮が必要な事態も嘆かわしい事ではあるけれど。
何時もふうわりと笑う、優しい声はけして相手を警戒させない、基本的には紳士的な態度。それだけを見れば、確かにエメットは、その手の趣向の持ち主にはいい獲物なのかもしれない。
けれど実際は、彼らが本懐を遂げる時間、5秒。
ぴったり5秒だ、エメットが痴漢かどうかを判断するために、好きにさせておく時間。その後はもう、さようならお客様、インゴが小さく呟く程には強烈なお灸が待っている。
エメットの凄いところは、リアルなゲイだけではなく、痴女にも容赦がないところだろうか。流石に手は上げないけれど、ブツブツとお経のように続く耳元での説教は、ドMホイホイではないかと一部で問題になっていたりする。
涼しい夏を更に涼しくするエメットの痴漢撲滅活動は、ホールに引きずり出して事務所に連れていかれるまでの間に、エメットを舐めきった犯罪者とエメットによる乱闘が(リアルなゲイに限る)行われるので、遭遇する事を楽しみにしている市民も多い。遭遇したらその日一日は、ハート型のピノが出たくらいのプチ幸福感、らしい(インゴによる市場調査の結果)。
とまあ、ある意味では名物になってしまっている感が否めない痴漢撲滅運動。エメットはいつも鳥肌を立てているけれど、乱闘が始まった時の生き生きとした顔は、一見の価値がある。インゴはそれを眺めているのが好きだった。
最初は、それだけだったのに。



『エメットがとても楽しそうで私も嬉しいと同時、私のケツとエメットのケツの相違について本気出して考えてみる機会が増えてしまいました…』



こっそりクダリに打ち明けて、色気がないからね!とズッパリ切られた経験を経て。今やインゴ、一度くらい触ってくれても良くってよ…思うようになってしまった。
それくらいインゴは、痴漢にあった事がない。エメットと一緒に、それっぽい格好(鉄道員市場調査の結果から厳選された服)をして一緒に囮をしているにも関らず。
エメットのケツと、何が違う?
色気とはなんぞや。
この二点から、インゴはいつの間にか飛躍していた。片方の心理だけを分析するだけでは、真のマーケティングとはいえない、と。












五丈のシャツには、襟元や袖に黒いラインが入っていた。その上からグレーのジレを羽織り、ちゃんとボタンを閉めている。自分達の目の色のようなへーゼルのデニムジーンズに、濃い茶のベルト。黒い書類ケース。ふわふわの髪は適当にワックスで整えただけ、シルバーフレームの眼鏡が眠たげなへーゼルを引き立てていた。
シルバーフレームの眼鏡が。

眼鏡が。

コンセプトは、流行をほどほどに取り入れながらもまだやぼったさを残す大学生風、だったはず。ちょっと几帳面な部分も見せる事が出来れば完璧、とも言っていた(鉄道員達が)。服装はいつも自前で、けれどインゴは眼鏡の存在など知らない。別れたときには確かに、眼鏡などしていなかったはずなのに!
完璧です兄様、でも眼鏡はイケメン度を上げるだけです兄様、ねえそう思いません?!
うっかり横に立っていたサラリーマンに同意を求めそうになって、咄嗟に口を噤む。危ない、兄様大好き!が振り切れるところだった。
普段ならば3〜4車両離れての囮。実際にどのような感じでエメットが佇んでいるのか、インゴは知らなくて。思い知る、クダリがバッサリと、色気について指摘してきた意味。
出入口のポールに軽く指を絡め、8割ほど乗客で埋まった車両内。目を引きすぎるわけでもなく、完全に溶け込むわけでもなく。ただぼんやりと黒い景色を眺める姿は、よく見れば何処かそそる気がした。これはきっと贔屓目ではなく、実際痴漢されやすいというデータは出ている。
ゆっくりと近づくにつれ、ちろちろとエメットの背に視線を向ける乗客がいる事に気がつく。既にカモが葱を背負い始めているようで、けれど今回は。

眼鏡エメットのケツ、私が頂きます!!

何故か闘争心に燃え、エメットと乗客の間に滑り込み。最初はなでなでから、思っていたのに勢い余ってガシッと鷲掴みにしてしまったケツ。やってしまってから、5秒ルール無視で即座に裏拳が飛んできたらどうしよう…恐怖に駆られ咄嗟に目を閉じて数秒。何もない事に安心し、それでも恐る恐る目を開けたインゴは。真っ黒の景色に反射して、エメットとばっちり目が合っている事に気がついた。
…えええぇぇ
今にもそんな声が出そうなほど、それはそれは見事な呆れ顔だった。





「…何やってるのかな、インゴは」
当然ながら、真っ先に聞かれて口篭る。きっちりボリュームを抑えた小さな声は、けして責めているわけではないようだけれど。
痴漢です
以外言えないから困る。
「寂しくなった?」
今度は、明らかに子供をあやすような甘ったるい声。ケツを鷲掴みにされて尚、エメットは確りインゴを甘やかす。向かい合わせならばきっと、頭を撫でられていた。インゴはここで、大きく息を吐く。
結局は、エメットを前にすると、ぐずぐずに甘やかされたい欲求が全面に押し出されてしまう。
「違います、ただの探究心です。痴漢をする側の心理を、私は知りたかっただけです」
だからこそ多少取り繕った言い回しで、痴漢をしていますと宣言したインゴに、エメットが小さく噴出す。また突拍子もない事を、思われていると一目瞭然。
それでも不服げに頬を膨らませれば、ほんの少し傾いた身体がインゴの胸に預けられ。慈母のような目でガラス越し、インゴを見て。
「持ち場を離れてまでやる痴漢、凄い楽しみ」
薄い唇が、ニィと笑みを形作った。エメットは本当に、本当に楽しそう。
痴漢行為をするのは私なのに
インゴはなんだか、エメットに嵌められたような気がする。そして思い知る事になる、自分の兄はけして、慈母ではないと。











「3日前だっけ、したの。確かにそろそろまたしたいよね。ほら触っていいよ、インゴが大好きなペニス。でも激しく触っちゃ駄目だよ、インゴはすぐに欲しがるんだから。少しくらい、我慢出来るよね?」
ブツブツとお経のように続く耳元での説教…説教ではないけれど、状況としてはこんな感じ。飴鞭飴鞭飴鞭を短時間で延々繰り返す。はっきり言って洗脳だ。小さな小さな、けれどくっきりと聞える声を拾ううち、耳は段々と飴の部分だけを拾うようになる。正確には、鞭を受ければ飴が貰えるのだと、それがまるで凄くいい事のように思えてくる。
インゴは勿論、エメットの話術に嵌る事はないけれど。最初からエメットに従順なのだから、あまり意味がなかった。
デニム生地の上から、反応しているかどうかもわからないペニスに触れようと、必死で手を動かす。ある程度の動きならば、それとなく添えられた書類ケースのおかげで、気付かれる事はない。
それなのに、多少は安心出来る筈なのに。インゴの手には、その形すらわからなくて。
うぅ…
つい悔しげな呻き声が零れ落ちてしまう。自分のテリトリーとはいっても職場内、沢山の乗客を前に、言われるまでもなく激しい動きは出来ないから。





人が沢山いる場所で、こっそりエメットのペニスに触れる…それだけで、異常に警戒心ばかりが強まっていくのに。触りたいという欲求もまた、同じくらい高まってしまって。
輪郭を。ペニスの輪郭を指で確かめたくて、何度もなぞる。何度も何度もなぞって、でも。デニムのせいか、それともエメットがその気にならないだけか、何も変わらない。
「あ〜あ…インゴのが先に、立っちゃった。やらしい子だねぇ、痴漢してるのインゴなのに」
それどころか、気付けば腰を、エメットの尻に擦り付けていた。
挿れたいわけではない、勿論。ただ刺激が欲しくて、普段ならばすぐに触って欲しいと強請る事が出来るのに、今はそれも出来ないから。
もどかしい、何でこんな事をしているのだと逆ギレしそうなほど、もどかしい。
「ッ…にいさま」
たまらず漏れてしまった声は、大きすぎなかっただろうか。あまりにも、色に濡れすぎてはいなかったか?言ってから急に恥ずかしくなってしまって、思わずエメットの股間から手を離してしまう。
丁度いいタイミングで、トレインが減速を始めた。早く扉が開いてほしいと思う、開いたらすぐに飛び出て雑踏に紛れ、多少の反省と共に勃起してしまったペニスを慰めたい。出来れば、エメットがいないところで。
けれどインゴは、それが叶わない願いである事に、何となく気付いていた。くるりと振り向いたエメットが、寸前まで股間を弄っていた手を掴み、相変わらずニコニコと笑っているから。
「次の駅で降りて、ちょっとお話聞かせて貰えますか」
逃げられるわけがない。
エメットはどんなに優しく笑っても、慈母ではなかった。インゴには甘すぎるほど甘いけれど、捕食は常に完璧だ。逃げられるわけがない。











フード可愛い
囮を開始する前、エメットがそう言いながらインゴの頭を、フードですっぽりと隠したから。エメットがそうしたのだからと、ずっと被り続けたそれ。
吐き出された精子が飛びすぎて、インゴの唇や頬、髪の先端、フードの内側まで飛び散って。
「ぁ…にいさま、ひどいです駄目です、ちゃんとインゴの口に出してくださいませ」
それが酷く勿体無い事の様に思えて、インゴは眉を潜めた。
先ほどまで、触れたくても触れることの出来なかったペニスの輪郭。それをゆっくりと舌でなぞり、先端を強く吸う。途端また、強く額を押されて。不服から不機嫌へ、緩やかに感情が移行していく。
けれどエメットはただ笑って、精子でぺたりと頬に張り付いた横髪を、指先で摘んでインゴの舌の上。
「駄目だよ、僕らまだ勤務中なんだから。ほら早く、自分で処理して、それ」
あまりしすぎたら、欲しくなっちゃう
擦り付けながら告げた言葉で、現段階での挿入はないものと宣告された。緩やかな感情の移行が、完全な不機嫌になってしまっても仕方のない事。
「欲しくなればいいでしょう、私は別に」
「駄目、絶対駄目。最後までしちゃったら、インゴ暫くの間、とんでもなく可愛くなるから駄目」
反論しようとしても、すぐに否定されて。腹立たしい、ただのイケメン眼鏡のくせに、腹立たしい。それなら最初から、しゃぶらせなければ良かったのに。





「…今の私は、可愛らしくないのですか」
とろりとした精子が、頬をゆっくり流れ落ちていく感触。指で掬ってぺロリと舐め上げ、挑発的に見上げれば、今度はエメットがうぅと呻く。
トイレに担ぎ込まれて、同じ個室に一緒に入るなんて。ベタすぎる展開に、最後までと期待しない方がおかしい話。
ズキズキと痛みを伴い始めたペニスが、便器の上晒されていて。触れて欲しいと、自己を主張しているというのに。放置なんて許せるはずがない。
「諦めなさいエメット、貴方は私を可愛がればいいのです」
とろとろと流れ出る先走りを指に掬い取り、狭い個室の中、左足を持ち上げて。左足に絡まったままのジーンズにかけたチェーンがジャラリと音を鳴らすけれど、少しの重みなど気にせずに。ゆっくりとなぞって見せたアナルは、確りと熱を帯びていた。
立ったままのエメットからは、見えにくいかもしれないけれど。
「んッ…わたくし、が。先に、痴漢などという、悪行をして、しまったのですから。お仕置き、させてあげます」
くぽりとアナルが開く。指一本くらい、容易に咥えこむそこ。
ああもう、信じられない
呻くような呟きが聞こえて、少し乱暴に手を取られ。インゴは笑う、ニィと、口元だけで。嵌められたら嵌め返せ、トラウマになったら5倍返し。エメットの教えを実践するのはとても楽しい。





「信じられない、こんなローションも何もない場所で」
ブツブツ文句を言いながら、それでも打ち付けてくる腰に喉が鳴る。
普段は完全に事前準備を終わらせて、万全の体制で臨む挿入だけれど。たまには乱暴に、少しくらい妥協して、ガツガツされてみたいものです…思っていたインゴはだから、多少の痛みなど気にしない。
腸液と精液だけで開かれたアナルは、ヒリヒリと痛む。けれどエメットのペニスが、肉壁を引きずるように出入りする様は、とてもリアルで。
「ふぁ…ッぁ、あ、ッ…んんん」
油断したらすぐに漏れてしまう吐息を堪えるのに必死。腕を引かれて裏返されて、バックからの挿入にしてくれてよかった。タンクの上、蓋に縋って袖を噛む。夏用とはいえ、長袖のパーカーで本当に良かった。
ぱさりぱさりとフードが揺れて、どれだけ激しく突き上げられているかがわかって、それがまた快感。
「でも、ここいいね。インゴ何回出してもいいよ、処理簡単」
エメットが耳元で、ククと笑う。便座を跨ぐように足を広げたのだから、ぽたぽたと垂れ続ける精子はそのまま排水溝へ。確かに後始末は簡単で、だからこそエメットも遠慮なく扱かれる。
「ぁふッ!!ん、んっぅ、ぅぅうう!」
何時もより手荒い、全ての動きが性急で怒涛のよう。
もしこれがお仕置きならば…
インゴは思う、癖になりそうだと。普段からけして、けして真綿に触れるような扱いではないけれど。余裕がないエメットも、珍しい事ではないけれど。時間に追われての大雑把な性交も、それはそれでいい。
少し身体をずらせば、ワックスで適当に纏めただけのふわふわな髪が、へなりと垂れ下がっていた。シルバーフレームの眼鏡はそのままに、けれどもう、少し几帳面なやぼったい大学生には見えない。目が合って、ふうわり笑われたところで。欲に塗れた姿は、皆同じなのだと思う。
イケメン眼鏡の余裕など、許しません
「ッ、ッ!!…にい、さまぁ」
インゴは知っている。ちゃんと知っている、エメットを煽る、魔法の言葉。
















「トイレ清掃用のプレートが出しっぱなしになっているという苦情が来たんですが、どうやら悪戯だったようですね。地味に悪質ですよね」
そんな報告は、右から左。女性職員からの報告を聞いて、本日の痴漢は0件、以上。エメットが痴漢に合わないなど滅多にない事なので、鉄道員達は少しテンションが高い。自分達の努力は報われたと。それもまた、右から左。
「そういえば、一応聞きますが…その」
「私はいつも通りです」
どうせ色気なんてないです
かぶりっぱなしのフードは、相変わらずそのまま。何故ならエメットが、フードの上から頭を撫でるから。真っ黒のパーカー。背中には髑髏に何故か羽根の生えたバックプリント。ダメージジーンズにチェーンがジャラジャラ。足音が響くほど重いショートブーツ。エメットにとっては、インゴが最高に可愛くなる格好!らしい。とってもROCK YOU!!!!と叫びたくなる格好だと思うけれど、エメットが胸を張って言い張るのだからそういうものなのだと思う。


「…インゴさんは」
「可愛いでしょ、インゴは黒だよ、それ以外ありえない」
「え、あ…でも。エメットさんみたいな私服でもお似合い」
「…あ゛?」
「出すぎた事言いかけましたすみませんでした!!!」


こんなやりとり、いつもの事。
『まあでも、例え色気があったところで、エメットがいたら無理』
そう締めくくってケラケラ笑ったクダリの言いたい事は、よくわからないけれど。
「エメットが可愛いと言うのなら、別にこの格好で異論はないです」
半泣きになった新人鉄道員を慰めるように告げ、インゴは目を閉じた。
確かに無理ですね、クダリ様。エメットが傍にいると、色気とか全部吸い取られてしまいますので。ただのイケメン眼鏡マジ怖い。
そんな風に、自分に折り合いをつけて。








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