12時間くらいしかUPされていなかった、奇跡の初書き。
ノボリとクダリ、のつもりで書いた
この度は、大変申し訳ございませんでした。クダリも心から反省しておりますので、今回の件については何卒、何卒酌量の余地を頂けます事をお願い申し上げる所存でございます。弟がやらかしてしまいました件につきましては、全責任を私が負う覚悟でございます。クダリは私が言いますのもなんですが天使でございまして、昔から天使でございまして。何度思い返した所で甘やかした自覚しかございません、兄としてこれほどの失態があっていいものでしょうか。何件か実例をお出ししますと、カレーでいえばクダリは昔から中辛派でございます。私は星の王子様にリンゴを摩り下ろして頂きたかったのですが、クダリが好むならと涙ながらに中辛を食べ続けました。幼少期のカレーには、しょっぱかったという記憶しかございません。カレーといえば、クダリはニンジンが嫌いでございまして、自炊をするようになりましてからは、如何にニンジンを粉砕し混入するかに全ての精神を使っていたような気が致します。摩り下ろせばいいと思いついた時には既に遅しでございました、それもこれも幼少期に星の王子様リンゴ磨り下ろしinを食べられなかったせいかとも思いますが…既に遅しでございました。クダリは立派に、ニンジンを食べられる大人になっておりました!素晴らしい事でございますブラボーでございます。このようにクダリは、自らの力で克服する立派な部分がございます。別の例を挙げますと、幼少期クダリの将来の夢は飛行機、でございました。機長、ではなく、飛行機、でございました。僕、すっごい飛ぶ!が口癖でございました。天使でございます、ただの天使でございます。私はクダリの夢を壊してはいけないと、必死であらゆるものを隠蔽いたしました。周囲の大人達に固く口止めをし、クダリと一緒に『飛行機になった僕』というタイトルで、沢山の飛行物体クダリを描きました。テレビなどで機長が写ったときは、奇声を上げながらテレビに体当たりをいたしました。新聞などは奇声を上げながらスライディングでございます。当時何度か両親に、心のお医者様のいる病院へ連れて行かれるハプニングはございましたが、私と致しましては全力を尽くした出来事でございます。今現在思い返してみましても、一切の後悔もございません。実際のところ、クダリが飛行機になると言っていたのは5ヶ月ほどの事で、正確には4歳2ヶ月から4歳7ヶ月頃まででございます。いつの間にかサブウェイマスターという夢を語り出した時には、感極まって涙いたしました。弟が、人間に進化した!と。素晴らしい弟でございましょう?私当時を思い出しただけでも涙が…というわけで、そろそろお解りになられたかと思います。私にはクダリを叱る、もしくは窘めるというスキルが欠落しております。常に欠品状態でございます入荷の見込みはございません。私もいい年になりましたので、流石に自覚がございまして。双子とまでいかないまでも、兄弟でここまで弟を甘やかす兄はさほどいないのではないかと。それに少々…甘やかし方を間違っている気がしないでもない気がいたします。クダリがこのような失態を犯しました事も、私の長年蓄積していった悪行によるものでございましょう。誰も来なくて暇だったから、という言い訳は流石にいただけませんが、それもこれも私が目溢しをしたせいでございますので。何卒、この通りでございます、罵声ならば私めに。折檻も仕方がない事と思います、どうか気が済むまで私に致してくださいまし!!
力強く床に叩きつけられた両の掌が、バチンッと凄まじい音を鳴らした。ゴンッと響いた鈍い音は、額までも床に擦り付けられたから。
こんなに威圧感を感じる土下座を、今まで見た事があっただろうか?
クダリとバトルが出来ると高揚していた気持ちが、一気に冷めていく。その空しい感覚を、トウヤは深く深く感じていたというのに。トウコはただひっそりと、土下座するノボリに近づいて行った。
嫌な予感しか、しなかったのに。何故強い意志で、止められなかっただろう。
「ノボリさん、顔を上げてください」
跪き、ノボリの肩に手をおいて。女性らしい、優しい声を出したからだろうか。トウヤはただただ、悔やまれてならない。
ひしゃげた帽子のまま顔を上げたノボリに、トウコは言った。
「弟さん、後ろでトラップカードセットしてます」
「やめたげてええええぇぇ!!トウコ、やめたげて!!もういいよ、今日はお暇しよう?ね?ノボリさんそんな、目を見開いたまま滝のような涙流さないでください怖ッ!顔怖ッ!クダリさんすみませんデッキ持ってないんで!次!!次持ってきますんで!!」
21戦目、颯爽と現れたクダリ、最初の第一声が
『すっごいデュエルする!』
だったなんて、もう絶対にノボリの耳に入れてはいけない。ノボリが少し遅れて現れてくれて本当によかった。そもそも、遅れなければこんな大惨事まで発展はしなかったけれど、それはそれ。
けれど、トウヤがどんなにどんなに気を使い、必死で場を取り繕おうとしたところで。
「小中学生男子の必須スキルデュエルって聞いた。ノボリが来るまで場を持たせようとした気遣い!」
マイペースすぎる人がいては、どうしようもない。
「何処ソースだそれ?!いやもういいですそれでいいです!それでいいですけど、ノボリさんのドヤ顔は嫌です凄く嫌です!うちの子天使、みたいな顔しないでください!クダリさんどう考えてもデュエリスト探す鷹の目でしたからね!!」
ああ、言わないでいい事まで言ってしまう。
ひしゃげた帽子をかぶったまま正座するノボリと。
マイペースに戦略を組み立てていく、こちらも正座のクダリ。
トウコもマイペースに、クダリの並べたカードを覗き込む。
トウヤはただ、ノボリの前に足を崩して座り込み。
「ほらクダリ、お二方に言わなければならない事があるでしょう」
もういい、今更すぎてもういい…思ってしまう事を促すノボリを、ぼんやり眺めていた。
促されたノボリは、かくんと首を傾げ。いつ瞬きするのだろう、思うほど閉じない眼を、カードから離し。
「長台詞のノボリも、美声だね!」
叫んで。猫のようにきゅっと目を細め、笑った。お二方に、言ったはずなのに、向けた視線の先はノボリで。
「ほんと……揺るがないっすね、お二方…」
トウヤはもう、叫ぶ元気すらない。テレテレとてれるノボリと、脳内デュエルを始めたクダリに、バトルしろし、言う元気もない。
地下鉄の中、トラップ発動!元気な声を張り上げるクダリと。チェーンします神宣!同じく元気に答えたトウコの声だけが、何時までも何時までも響いていた。
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