双六遊び
17 diciasette F クジャクオカマに花束プレゼント
任務を終えて帰って来た時には、ベルは何も持っていた様子がなかった。
フランはそのことに少しだけ安堵して、食事を終えてから部屋で緩々と寛いでいた。
テレビを見ながらうつらとした時に誰かが部屋の外に来たのが解った。
叩かれるほんの一瞬前に開いた扉から薔薇の香りが部屋に入る。
「ほら、花束。渡しとけ」
「え」
「オレ渡すのヤダし」
「……なんで買って来ちゃったんですか〜?」
「そりゃ買ってくんだろ? つか買って来てやってんのにお前はなに怒ってんの?」
「怒ってないですよ〜」
「目つり上がってんぞ」
「怒ってないですよ〜」
「んじゃお前にやっから」
「…………い〜り〜ま〜せ〜ん〜。自分で渡さないと今日の予定クリアしたことになんないので〜」
花束はベルの手から受け取られずにそのまま残され、怒らせた丸いような三角なような瞳のままで部屋のドアは無理矢理に閉められた。
「なにあいつ」
部屋に引っ込んでしまったフランに首を傾げてから、持て余した花束をベルはルッスーリアへ届けに行った。
「やる、これ」
「んっま、どういう風の吹きまわしかしら〜?」
オレンジの薔薇と黄色のオンシジウムの派手な切り花の花束を大袈裟に喜び両手で受け取った。
「バツゲームだし」
「失礼ね、ベルちゃんてばっ! なによっ、バツゲームって!」
「バツゲームはバツゲームじゃん?」
「なんでそんなことしてるのかしら?」
「スゴロクでさ、出た目んとこやんの。フランがお前に花束わたすって書いてて、オレが当てたから買ってきただけだし」
「そういうことなの〜。それじゃフランにもお礼しないとね」
「…………お前ヒトの話きーてた? オレしょうがねえから買ってんだけど」
「こんな綺麗なお花貰ったんだから、なんだっていいわ〜。ちょっと待っててね」
「そーかよ」
「おいしいビスコッティを貰ったのよ〜。これ、どうぞ。二人で食べなさい」
ルッスーリアは飾り棚から取り出した菓子の入った袋をベルへと持って来た。
「んなのいんねえけど」
碌な礼も返さずに透明な袋を受け取り、今度は菓子を持て余してフランの部屋の前まで戻って来た。
「カエルー、菓子。ルッスからな」
叩いていた扉は固く閉ざされたまま開く気配もない。
「…………そこおいといてくださーい」
ややあって漸くの答えが返ったが、先程の冷たいような声のままだ。
「二人で食えっつってたし」
「じゃあ半分ほどおいといてください」
「ふーん、わかった」
暫くベルが外にいる気配がしていたが、立ち去った後には夜の静けさだけが残った。
「…………?」
恐る恐る廊下に出てみると、袋に残されていた数本のビスコッティは全て半分に折られていた。
「…………半分ってこういうんじゃなかったんですが〜。まあ堕王子だし、しかたないですねー」
朗らかな目尻になって口の中をぽそぽそとさせながら、ドアを開け放したまま半分のビスコッティを頬張ってゆく。
「ひなびた味ですねー」
一言も誉めることはなかったが、全て食べ終えてから指先に付着していた甘い香りまでを舐めた。
空腹と言うほどに腹が減っていたわけでもないのに食べ足りなさを感じ、もう少し分けて貰うつもりで目と鼻の先のベルの部屋へと急いでドアをノックした。
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