双六遊び
8 otto B スクアーロの部屋のテレビこわす
F 怒りんぼのボスの部屋の花瓶壊す
「できなかったら前後左右サボテンな?」
「テレビ壊しなんかちょろいもんですよー」
「ならさっさとやってこい」
「アホ隊長のテレビ壊したら、次はセンパイの部屋にある趣味の悪い赤いベッド壊します」
「てめ、ざっけんな!」
背中を向けて遠ざかろうとするフランの背中目がけて、ベルはナイフを何本か投げ付けて刺した。
「あだっ! 見てろよ〜堕王子〜」
刺さったままのナイフを気に止めずにスクアーロの部屋まで走った。
「………っとこんなもんですかねー?」
幻術でささっと出したハンマーで、軽くテレビを叩き壊してみながら頷いた。
「!」
整然とした部屋へ一瞥をくれようともしなかったが、部屋を出かけた時にふとあることを閃き独りで楽しそうな顔をした。
「……おっし、今だってミンク。ボスうしろ向いてっから」
「センパーイ、それずっこいです」
フランが一仕事を終えて向かった先のXANXUSの部屋の前で、ベルはミンクを花瓶にけしかけようとしていた。
「キィッ」
命令を受けたミンクは珍しくベルの傍を離れようとはせず、扉の中へと押し込まれそうになって小さく威嚇の声を上げた。
「ずるくねーし。壊しゃいんだろ? んじゃちっと行ってボスに花瓶借りてこいカエル」
白い目で見て来たフランへと小声でベルは命令を下す。
「嫌です〜。かっ消されるじゃないですか〜? 自分で借りてくださいよー」
「行けよ。お前なら大丈夫だから」
「大丈夫じゃないと思います〜。ナイフ使えばいいじゃないですかー?」
「見つかったら怒られんだろ!」
「花瓶壊しできないなら、ボスが大事にしてるブランデーの瓶壊すんでもいいですよー?」
「………難易度あがったんだけど? どっちかっつーとそっちのがムリくね?」
「貴様ら、ボスの部屋の前で何をしておる!!」
廊下の端から目敏く二人を見付けたレヴィが怒声を浴びせる。
「うわっ、来たぜ。うっせえのが」
「早くやんないからですよー」
「おい、術かけろ」
「ミー知りません」
「てめー! ちょっとはきょーりょくしろ!」
「ゲロ! 知りませんのでー」
「ボスに何をするつもりだ、ベルっ、フランっ」
「なんもしねえし。おめーにかんけえねえし」
「………るせえっ。さっきからそこでなにしてやがる」
扉に当たって叩き割れたグラスの音が部屋の中から響いて来た。
「ボス、今すぐ追い払…」
「オレはベルとフランに訊いてんだ。なんのつもりだ、てめえら」
「いや〜、カエルがボスに新年の挨拶したいっつうから連れて来た」
「センパイもうお正月は終わりですよ〜? こないだ挨拶はしましたしー。ボスお年玉ください」
「なっ、無礼なことを言うなっ」
「変態で雷でオヤジなレヴィさんは引っこんでてくださーい」
「おいっ」
「しししっ」
「…………」
「ベルセンパイはケチってくれなかったので、懐が寒いでーす」
「スクアーロとルッスからもらってたろが」
「それはそれ、これはこれです」
「施してやる」
その辺にあった2ユーロの硬貨を指で弾いた。
「ボス、サンキューです」
両手の平を合わせて硬貨を上手くキャッチした。
「とっとと消えやがれ。目障りだ」
「さっさと行けっ! 下らんことでボスの邪魔をするんじゃないっ」
ベルとフランの腕を掴んで早く遠ざけようと躍起になった。
「触んないでくださーい。………ついでに雷オヤジもお年玉ください」
「やらんっ」
「変態はぬいて呼んでやったのに〜………やっぱケチですねー変態って〜」
「フランっ! 貴様っ、今度という今度は許さんぞ」
レヴィはぼっそりとカエルから呟かれた一言を聞き逃せずに、フランに食ってかかる。
「ボスが見てますよー。それにミーは変態って言ったんであって、レヴィさんのことだなんてー、一言も言ってないですー」
「うぬうっ」
肩を震わせながらやり場のない怒りを握り拳に籠めた。
「行くぞカエル。んじゃまたね、ボス」
ひらひらとXANXUSに向かって手を振ってから、フランのフードを引っ張って廊下を歩きだした。
「失せろ」
「……これっぽっちか〜」
「……お前も意外にがめついの?」
「ミー意外とお金必要なんですよ。家族みたいな人達を養わなきゃならないので。あの人達あんまり甲斐性ないから大変なんです。なんたって…まあいいや。………今度はタイ焼き五個でお願いしますねー、ベルセンパイ」
「てめっカエルっ」
「だってミーはそつなくこなしましたしー」
「ボスとスクアーロじゃ難易度★じゅっこと★いっこはんぐれーの差だっての!」
「でもちゃんとやりましたのでー。くれないんならもうセンパイのことセンパイって言いません」
「わあったっての。ちゃんとセンパイって呼べよ」
「はいー、呼びますー。タイ焼きごちで〜す」
「チッ」
ほくほくと顔を綻ばせてフランはベルの後へと続いた。
夜半になって漸く任務から帰宅したスクアーロは、部屋の電気を点けるなり絶句した。
「ベルーっ、フラーンっ、オレの部屋まで今すぐこお゛お゛おおおおおおい!!!!!」
「うるせーし。なに、たいちょー、オレ明日任務で早いんだけど?」
「どうかしましたー?」
数分の後に邸内に響き渡った声を聴くつもりもなかったベルとフランは、揃ってスクアーロの部屋へと赴いた。
「これはどっちがやったんだあ゛あああっ?」
来るなりにベルの髪とフランの頭のカエルを引っ掴んで、テレビへと顔を向けさせた。
「いだだ。いだいって隊長。オレしんねえし」
「イタイですよー。隊長が寝惚けて壊したんじゃないですかー? 剣振りまわしてー」
「どう見てもハンマーで叩き壊してんだろうがああ! 朝はこんなになってなかったぞおっ! シラ切んなら二人とも三枚おろしだあっ」
「オレしらねっ」
「ミーも知りませんー」
「とぼけんなあっ、このナイフはベルのだろおがあっ。こんなの持ってんのお前らのどっちかしかいねえっ!」
「フラン、てめー」
見えているなら確実に吊り上がっているだろう目尻を隣へと向けたベルは、フランのパジャマの肩を揺さぶった。
「えー? なんのことですかー? 大体センパイのナイフがテーブルにおいてあったら十割十分センパイがやってるじゃないですかー?」
素っ惚けてフランは明後日の方向を眺めている。
「人にぬれぎぬ着せんのにわざわざナイフ置いてきたろ!」
「知りませんよー」
「フラン、お前の仕業かあっ」
「え〜? ミ、ミーじゃありませんよー。ベルセンパイがー」
「お前今テーブルにっつっただろおがっ! オレはそこまでいってねえぞおお!」
「……あ、……隊長アホだから気付かないと思ったんだけどなー」
「誰がアホだあっ!?」
「え? 言ってないです、気のせいです」
「しししっ、バカ♪」
「だってセンパイがやれって言うんですもん」
「ベルっ! てめーはまたくだらねえことさせやがって」
「カーエールーっ」
「だってほんとのことです」
「なんのつもりだあっ」
「オ、オレ関係ないじゃん?」
「後輩の不始末は先輩の不始末だろおがあっ」
ボーダーの衣服の首元を力いっぱい引っ張って、ベルの頭を殴り付けた。
「いでっでっ、隊長、違うって。フランが自分の意思で壊したんだって。カエル、おめーは前後左右とカエルの頭までサボテンだかんな! あとタイ焼きにじゅっこな!」
「なんだタイ焼きって」
「えーん、えーん、隊長ーセンパイがミーのこと脅しますー」
丸い黒目から涙など一滴も流さずに、またもや恍けた顔をしてフランはスクアーロの後ろに隠れた。
「っざーとらし。てめー、後でおぼえとけよ、クソガエル」
「いい加減にしろおっ、お前ら二人ともそこ座れえええっ」
「だからカエルがさー」
「だってセンパイがー」
「いいから正座しろおお!! 座んねえと首撥ね落とすぞおおっ」
剣幕に押されてそれ以上は口答えせずに、ベルは胡坐をかき、フランは尻を付いて折り曲げた膝を両腕で抱えるように床へと腰を降ろした。
「正座しろおっ」
「やなこった」
「疲れるんで」
結局は大人しく聞き入れるはずもなく、説教が終わる前には夜が明けていた。
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