双六遊び

5 cinque F 校庭五周


 秋の乾燥した空の下で土はからからに乾いていたが、冬の一層乾燥した今は朝方に降りた霜のせいで雨が降らずともいつも少しの水分を含んでいた。
 数日前に降った雪が日の当たらない場所で根雪になって、外の水道のバケツの水は氷を張っている。
「さー、いいお天気ですねー」
 晴れてはいたが透き通らずに靄のような雲で覆われた空は、よいという程の天候ではなかった。
「あー、そーだな」
「絶好の校庭五周日和ですねー。……行きましょうか、センパーイ」
 それでもフランはどことなく機嫌の良さそうな声でベルの部屋を訪れた。
「あー、いーぜ。………こうてーじゃねえけどな」
 大人しく外に行く格好をしていたベルは迎えに来たフランに従って部屋を出た。
「……………あれ?」
 意外な素直さに目を点にしてベルの顔を下から覗き込む。
「なに、あれって?」
「めんどくせえからやんねえしとか言うんじゃないかなーとかですねー」
「男に二言はねーから」
「そー、ですかー。じゃ行きましょうかー」
 建物の外では耳たぶまでもがカチカチに凍えている。
 フランは鬱陶しさに外していたカエルのぬいぐるみが付いた耳当てを、カエルの被り物へと装着した。
「それいんなくね?」
「寒いじゃないですかー?」
「ぜってー寒くねえだろ。……つか特注かよ?」
「当然じゃないですかー。あ、もちろん経費で落としましたよ」
「………そんな無益なもんに出してもらえんのか? ケイヒって」
「センパイもミーのカエル作る時経費使いましたよね〜? 経理係が言ってました」
「たりめーだろ? なんでんなくだらねーのつくんのに自腹切んなきゃなんねえんだよ」
「そんなの人に被せてんですか〜?」
「任務用に無線つけたし。さーてと、走っか」
「ミーも耳当てに無線がよく聴こえるように妨害電波除去システム入れてもらいました」
「うわっ、くだらね」
「いいんですよー、これ。相手に対しても音がクリアになるんです。こないだなんて隊長の悪口言ったら、丸聴こえであとから刀振り回されちゃいましたよー。難点は普通に会話してる時に声が聴こえ辛くなることぐらいですかねー?」
「…………そこ一番大事なとこじゃん? すげームダなんだけど」
「なんか言いましたー? さて、そろそろがんばりましょうかー?」
 どこからか取り出したメガホンでベルへと喝を入れる。
「ミンク」
「んー?」
「いけ」
「え〜っと、どういうことですかー? センパーイ、とめてくださ〜い」
 匣から出されたミンクは迷うことなくフランを目がけて飛びかかる。
 追われたフランはしかたなしに、追い着かれないよう燃やされないよう庭を全力で走り始めた。
 悠々と首の後ろで手を組んだベルも歩き始めた。


 数分が経過してミンクは五周きっかり走ると走り始めた植木の前で止まった。
 フランも少しだけ出発点を過ぎてから止まる。
「………はー、はー、はー」
「疲れたな。カエル、水持ってこい」
「…………センパイは五周もしてないじゃないですかー? 逆にミーが走って疲れたんですけどー?」
 息を切ったフランは後ろから楽々と追い着いて来たベルを、疲れ切った弱々しい眼差しで睨んでいる。
「してたし」
「ずるいですよー」
「ずるくねえし」
「いいえ、ずるですー」
「オレだって走ったし」
「歩いてませんでした〜? 競歩程度の早さじゃなかったですか〜? 途中で何回かセンパイ追い越しましたよね〜、ミー?」
「五周はしたし」
「…………こういう場合は変身セットなんかで手を打とうと思うんですが。ヒーローとかの」
 暫く考えていて自分のためにしかならない妥協案を出した。
「なにいろ?」
「赤いのとかで」
「にあわなそーだからダメ」
「じゃ似合いそうな色のやつがいいです」
「めんどくせー。どこ売ってんだよ」
「こないだ行ったお店で見ました」
「あんの? んじゃ、買ってやる」
「はーい。お願いしまーす」
「………たんじゅーん」
「なんか言いましたー?」
「なんでもね」
「じゃー、行きましょー、行きましょー」
 気分の乗らないベルはフランに背中を押されながら街まで歩き続ける。
 然し数時間後に訪れたガラクタを売る店では、結局カエルに合うサイズの変身用マスクは見つからなかった。
 打ちひしがれて涙を流しているフランを連れて、今度はベルが口元へと笑みを浮かべて店を出た。
 酷く彼等に冷たく当たる風は触れる頬から体温を奪う。
 凍りかけの空気を吸い込むと肺までが凍ってゆく。
 それ以上寒くならないように、ベルはきつく握っていたフランの指先をより一層強く握る。
 握られた痛みでフランは痛そうに悲鳴を上げた。



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