双六遊び

2 due すごろくを作って遊ぶ


「ベルセンパーイ、これやりませんかー?」
 フランが持って来たのは、余っていたカレンダーから破かれたまだ終わっていない一月だった。
「…………。カレンダーごっこ?」
 それが具体的に何をするのか想像も付かなかったが、とりあえず目を付けた紙で思い付いた遊びを答えた。
「いえー、スゴロクです」
「すごろく? どこが?」
 だがそこに広げられた紙は、どう見てもカレンダー以外の何物でもなかった。
「これの日付にですねー、相手にやらせたいこととかやらせたくないこととかを書くんです」
「へー」
 フランは床に置いたカレンダーの日付のメモ欄をペンで上下に分けた。
「それでサイコロを振って、出た目の数んとこに相手が書いたのをやるんです。つまりセンパイが書いた項目はミーがやって、ミーが書いた項目はセンパイがやるんですねー」
「ふーん、日付でスゴロクすんの?」
「そうですー。どうせヒマなんだからやりましょうよ」
「おめーにどうせとか言われたくねえんだけど」
「だってヒマでしょ? そんな風にごろごろしてるよりはいいと思いますよ」
「ししっ、毎日ナイフ刺してやる」
「あー、言っときますけどー、一回以上おんなじルール入れちゃダメですからー」
「なんでそんなの決まってんだよ」
「ミーが今決めたので」
「ああっそ」
「ですー。で、ですね他にもルールを作る上での決まりがあってー」
 フランは掻い摘んでベルに決まり事を説明する。
 納得したようなしなかったようなベルは、三日の欄から適当に思い付いた嫌がらせを記入し始めた。



決まり事
1 一度使ったルールはもう使えない。
2 二人とも一回休みの日を十日ずつ入れる。
3 共通ルールの日も十日設ける。一回休みと被せてもいい。
4 ベルが決めたルールはフランが実行し、フランが決めたルールはベルが実行する。
5 どちらかが先にゴールしたら、それ以降はまだ上がっていない方がやる。
  ※その場合もサイコロは順番で交互に振る。

表記について
◎の日は同じことをする日。
■はベルが決めた一回休み、□はフランが決めた一回休み。
BはBelphegor、FはFranの頭文字でルールを決めた方。


1月日程表
1 uno 雑煮バイキング
2 due すごろくを作って遊ぶ
3 tre ◎■□一回休み
4 quattro B デパートで荷物持ち F 福袋買ってくれる(レッドになるやつ)
5 cinque B ナイフの手入れ F 校庭五周
6 sei ◎ B 王子のためにおいしい寿司屋さがせ F 食べますー
7 sette B ■一回休み F □ 一回休み
8 otto B スクアーロの部屋のテレビこわす F 怒りんぼのボスの部屋の花瓶壊す
9 nove ◎■□一回休み
10 dieci B ■一回休み F おいしい果物おみやげにくれる
11 undici B 休みつかれたので王子に足つぼマッサージ♪ F □一回休み
12 dodici ◎水族館に行く
13 tredici B 王子を王子様って呼ぶ F ミーをカエルって呼ばない
14 quattrodici B ■一回休み F 正義の味方ごっこ(ミーが正義の味方でセンパイは悪者)
15 quindici ◎ゴンドラに乗る
16 sedici B 寝る前に絵本を読む F □一回休み
17 diciasette B ティアラみがき F クジャクオカマに花束プレゼント
18 diciotto ◎■□一回休み
19 diciannove B ミンクブラッシング F □一回休み
20 venti B ■一回休み F ミンクをミーに向けない
21 ventuno ◎公園でランチ
22 ventidue B ムッツリの雷集めるやつを耐電性じゃないのにすり替える F □一回休み
23 ventitre ◎とっておきの場所に連れていく
24 ventiquattro ◎■□一回休み
25 venticinque B ナイフの的になる F 幻術の実験台になっても文句言わない
26 ventisei B ■一回休み F 歌を歌う(五曲)
27 ventisette ◎二人で幸せそうになれるところにいく
28 ventotto B かわいくなる F いいセンパイになる
29 ventnove B ■一回休み F □一回休み
30 trenta B 持ってるモノの中で一番いいモノを王子に献上 F □一回休み
31 trentuno B 王子のためにフルコース作る F カエルの手入れ



「…………なんというか、ミーがこき使われるばっかりじゃないですかー? センパイの書いたやつ」
 すらすらと記入されて行った自分への命令を眺めまわして、フランはより無愛想な顔になる。
「お前こそ、ここぞとばかりに日頃の恨みはらそーとしてんじゃね?」
「センパイの日頃の態度が悪いのでしかたないですよー」
 どちらが先に采を振るかで揉めに揉め、結局はベルがサイコロを奪い取った。
 床に落ちた六面のサイコロの目は六を指している。
「ろっこ進む、と」
 二日から数えて六番目の日にベルは黄色いカエルのコマを置いた。
 8 otto B スクアーロの部屋のテレビこわす
「テレビ壊しですかー」
「ちゃんと壊せよ。つぎ、お前の番な」
 持て余したサイコロをフランへと渡した。
「まあ壊しますけどー。……えーい……あー、なんだたったのみっつですかー。おー、センパイちゃんと走ってくださいねー」
 フランはみっつ進めてコマを止める。
 5 cinque F 校庭五周

「ご。13っと。呼び方慣らすために今日から王子様って呼んでもいーけど?」
 黄色いカエルはまた少しゴールに近づいた。
 13 tredici B 王子を王子様って呼ぶ
「お断りです〜。………また3ですかー。あ、やった。これちゃんと壊してくださいねー」
 緑色のカエルのコマがまたみっつマスを進む。
 8 otto F 怒りんぼのボスの部屋の花瓶壊す

「壊してやっからおめーがべんしょーしろよ」
「嫌ですー。センパイが壊したらセンパイの責任なのでー」
「言ってろ。ろくか。さっすが王子」
 19 diciannove B ミンクブラッシング
「あ〜。それやめてください〜」
「ちゃんとブラシかけろよ」
「もー。………もー」
 フランがまたサイコロを振って出した目はまたもや三だった。
 11 undici F □一回休み

「一回休みか」
「永遠に人生を休んでてくれてもいいですよー」
「カエル永久に冬眠の項目つくりゃよかった。さん」
 爽やかに無表情な目元で自分を見たフランに軽い腹立ちを憶え、ベルは口元を微かに歪めた。
 22 ventidue B ムッツリの雷集めるやつを耐電性じゃないのにすり替える
「これも嫌です〜」
「んなのカンタンじゃん?」
「雷オヤジの私物にさわるなんて嫌なので〜」
「………ししゅんきかよ。出たんだからやれ」
「あ〜あ、ほんと嫌なんだけどな」
 振られたサイコロは明後日の方に転がって一の目を出している。
「水族館だってよ」
「それはまーいいですけどー」
 12 dodici ◎水族館に行く


「またさん? まあこれならいーけどな」
「え〜、これも嫌です〜。センパイばっかりいいの出てずるいですね〜」
「オレ王子だからとーぜんじゃね?」
「違うと思いますー」
 25 venticinque B ナイフの的になる
「ほら次」
「あっ、やったーごでした」
「ゲッ、てめーなに書いてんだよ」
「ちゃんと花束買ってあげてくださいねー」
 17 diciasette F クジャクオカマに花束プレゼント

「に、か。幸せそうになれるとこってどこだよ。お前となんかどこ行ったって幸せになれねーし!」
「それはミーのセリフですよー」
「おめーが書いたんだろが、これ」
「そうでしたっけー? 寝ぼけてたんですよ、きっと。まあ後で考えましょうよー」
 27 ventisette ◎二人で幸せそうになれるところにいく
「ミーはさんこ進みます。う〜ん、向けらんないだけいいですかねー」
 20 venti F ミンクをミーに向けない

「……んとオレもさんか」
「ミーがセンパイに上げるんですか? これ」
「たりめーだろ。ちゃんといいもん用意しとけよ」
 30 trenta B 持ってるモノの中で一番いいモノを王子に献上
「……さん、さんっと……また一回休みですかー。センパイってホント悪運強いですよねー?」
 サイコロを振って三マス進むとまた一回休みの文字が書かれていた。
 24 ventiquattro ◎■□一回休み

「やっぱ王子っていう功績じゃん? またさん? あ、オレこれであーがりっ。こっからは全部お前がやんだな?」
 ベルはもう進められるコマがなく、31の日付の隣のマスに黄色いカエルを置いた。
「あーあー。そうですねー、ミーがやりますよー」
「でもあとろくなのねーな? まいっか。とりあえずかわいいコーハイ欲しーし」
「もーこれで上がるかも知れないですしー」
「どー見てもムリなのわかんじゃん? これともっかいはやんねえと。よんでろ。んっだ、にかよ」
 当てたコマを見てフランは胸を撫で下ろした。
 緑のカエルは二マス進んだ。
 26 ventisei B ■一回休み

「もっかい。………に。やった、かわいくなれよ、カエル」
「なんですかー28のかわいくなるって」
「かわいくねーから、かわいくなればいーのにとおもって」
「それってミーのことですかー? かわいいと思いますー」
「どこが」
「どこもかしこもですよー」
「ふーん」
「え?」
「えってなに?」
「ふーんがどういう意味かと思いましてー」
「ふーんはふーんじゃん?」
「そうですかー。よく判んないけど、んじゃかわいくしますー」
 やはり意味の通じていない顔をしてフランは首を捻る。
 28 ventotto B かわいくなる

「あっとは30はもう出ちまってるし、くだらねーけど31か? …出ろ。んだよ、ご。はずれか」
「いち、に、さん、しー、ごーっと。これでミーも上がりですー」
 行き場所のなくなったコマを、一応出た目の数を数えてから置いた。



出た目まとめ表。(2日から数える)

ベル 6 5 6 3 3 2 3 3
8 otto B スクアーロの部屋のテレビこわす
13 tredici B 王子を王子様って呼ぶ
19 diciannove B ミンクブラッシング
22 ventidue B ムッツリの雷集めるやつを耐電性じゃないのにすり替える
25 venticinque B ナイフの的になる
27 ventisette ◎二人で幸せそうになれるところにいく
30 trenta B 持ってるモノの中で一番いいモノを王子に献上
最後は3で33日目になるので、この時点でゴール。


フラン 3 3 3 1 5 3 4 2
5 cinque F 校庭五周
8 otto F 怒りんぼのボスの部屋の花瓶壊す
11 undici F □一回休み
12 dodici ◎水族館に行く
17 diciasette F クジャクオカマに花束プレゼント
20 venti F ミンクをミーに向けない
24 ventiquattro ◎■□一回休み

26 ventisei B ■一回休み

ベルが八振り目でゴールしたので、フランの八振り目の26日とそれ以降は31に届くまでフランがベルの書いた方をやる。

八振り目以降出た目 2 5
最後は5で33日になるので、以下で終わり。
28 ventotto B かわいくなる



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