双六遊び

26 ventisei B ■一回休み


 建物の外では生憎の灰色い雨がドラムの撥のように壁を打ち付て、激しい音を掻き鳴らす。
 薄暗い室内で電気も灯さずに、フランはずっと降り頻るのを眺めている。
 そうするのにも飽きて少しの後にベルの部屋の扉を叩いた。
「さ、どうぞ歌ってください」
 フランはベルの部屋へと勝手に入り込み、幻術で出現させたラジカセのスイッチを押す。
 途端に流れ出した曲はフランがカラオケで最も得意とする持ち歌だった。
「うたうたう日じゃねえし。一回休みじゃん? お前負けたから。つかお前の好きな曲じゃね? これ」
「センパイの美声で聴きたいのでー」
「そんな聴かすよーな歌じゃねって」
 だが珍しくも自分を立てた後輩にベルは謙遜を示し、フランのおだてには乗らずにいた。
「じゃー、ミーがうたいまーす」
 伴奏だけが空しく響く薄暗い部屋でテンションは低めなまま、ダンサブルな曲に合わせて歌い始める。
「うっせえんだけど?」
 鼻歌が最高潮に盛り上がってフランが拳を空へと向けた時に、ベルはラジカセの停止ボタンを押した。
「……ふー……チッ、つまんないの〜」
 ノリノリで熱唱していたのを邪魔され、とても面白くはなくなってベルを見た。
「おもしれーことすっか?」
 至極つまらなそうな後輩を気遣うように、心の広いふりをした先輩は面白そうな提案をする。
「どんなんですかー?」
 予感の不穏さはあったが、それでも万が一面白かった時の念のために尋ねてみたフランの顔へとベルが投げた何かが当たった。
「カエルにボール当て」
 投げられたのはどこからか取り出されたショッキングな黄色のゴムボールだった。
「楽しくありませ〜ん」
 額を直撃したボールの痛みをさすり、ベルを嫌な顔で見る。
「んじゃ、カエルにパイ投げ」
「食べ物は粗末にしちゃダメですー。大体どこにあるんですかー?」
「ならカエルにナイフ投げ」
 いつものように取り出されたナイフは、いつものように空を滑ってフランの頭へと突き刺さる。
「…………昨日やったばっかです、これ。あ〜あ、なんか面白いことないかなー」
 刺さったナイフを抜いてベルへと向けて投げた。
「ねえよ。だいたいおめーといるだけで面白くねえし」
「ミーだってセンパイなんかといたって面白いわけないのでー」
 雑な床に転がっていたボールを取ると、フランはベルへと投げ付けた。
 だがそれは上手くキャッチされて、銀色のティアラに当たることはなかった。
 ベルは再びボールを手にして床の適当な場所でバウンドさせてから、フランに当たるように投げる。
 頭のカエルで跳ね返ったネオンイエローのゴムボールは、もう一度ベルの方へと戻った。
 だからベルは手首だけを使って球体をまたフラン目がけて打ち付ける。
 それから幾度もベルが投げては、フランも何度もカエルで打ち返し続けた。
 雨音の中へは時折カエルの弾いたボールが、音だけ聴くと奇怪に何かが曲がるように響いては消える。



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