VARIA animal collection2XXX.

 冷房を効かせ過ぎた寒いリビングの床の絨毯の上で怠惰な王子が転がっていた。
 傍らでは炎を帯びた匣兵器が、頭に載せられたティアラを重そうに首を傾げている。
「あれ〜? センパイめずらしいですねー。ケイタイとか使ってなにやってんですかー? この部屋寒くないですかー?」
 偶々飲み物を取りに降りて来て通りがかったフランは、一度背中を身震いさせる。
「王子だから寒くねえし。メールに決まってんじゃん?」
 顔を上げずに携帯電話の画面を見たまま返事を返した。
「へー、意味わかんないけど、どこおくってんですか?」
「ん」
 フランの方へとベルは携帯電話を差し出して見せびらかした。
「なになに〜、ミンクのニューティアラ、めちゃんこかわいーだろ? ですかー。憎たらしいばっかでたいしてかわいくないですけどねー。誰に送ってんですかー? センパイこんなの送る友達とかいないでしょ?」
「ボンゴレの方の嵐の守護者」
「? なんでそんな人とメールしてんですー?」
「決まってんじゃん。ミンクがあんまりにもかわいいから自慢してんのに。見ろよこれ、秋ヴァージョンのミンク用ティアラ。王子とおそろ♪」
「へー。……迷惑なんで、決してミーには送って来ないでくださいねー」
「めーわくなわけねーし。お前にはさっき送ってまだ返信ねえんだけど? 早く返信しろよ」
「あ……センパイのアドレス着拒してるんでー」
「なんでオレからのメールちゃくきょしてんだよ! 今すぐ解除しろ!」
「いでっ! 休日まで上司みたいな人から呼び出されたくないんでー」
「オレ上司じゃなくて、センパイか王子だし」
 ベルがフランを殴ったのと同時に携帯電話からメールの着信音が鳴った。
「……なんにせよ、センパイなんかパワハラ上司と似たようなもんですよー。早っ、もう返信きたんですかー? ミーにも見せてください」
「ダメ」
「いいじゃないですかー」
「ダメじゃね、ふつー。……のやろ」
 黙読していたベルは不機嫌な口元になって、フランへとまた電話の画面を押し付けた。
「どれどれー、『くだらねえメールしてくんじゃねえ! こっちは十代目との任務の大事な打ち合わせ前の雑談中だ! てめーんとこのイタチなんか見たくもねえってのっ! ……まあ折角だからこないだ撮った瓜の昼寝ショット送ってやる。心して拝めよ』ですかー。……そいつってミンクじゃなくてイタチだったんですねー」
「ミンクだし! んのクソ猫なんかミンクの爪先にもおよばねーし! ブサな写メしてくんじゃねっての。な?」
「いや、な? とか言われても、センパイの堕兵器がかわいいわけないです。それの爪先にも及ばないってことは、嵐の守護者の兵器はまったくかわいくないってことしか判りませ〜ん」
「かわいーの、ミンクは。な?」
 同意を求めて隣にいたミンクを見るとベルを見て一声鳴いたから、ティアラを避けて頭の後ろを撫でてやった。
「そうですかー?」
 それらのやりとりを不可解に歪めた眼差してフランは見守っている。
「決まってんだろ。んっじゃ次これおくろ♪」
 体を擦りつけて来たミンクが見上げた時にタイミングを合わせて、軽いシャッターの音とともに写真を撮った。
「……また送るんですかー?」
「たりめーじゃん。かわいーっつうまでおくんの。ついでにお前んとこにもまた送ってやっから待ちうけにしとけ」
「え〜? それじゃ永遠にメールやめれないじゃないですかー。あとミーはほんとうに心の底から必要ないので、送んないでください。これ遠慮とかじゃないんで」
「なんで?」
「いや、だってかわいいのが前提でしょー? そもそもこいつがかわいくな……」
「キィっ!」
 ミンクを見たフランをベルが不思議そうに見た時に、部屋が一瞬にして紅蓮の炎に包まれた。
「いんですよー。人語を解さないでくださ〜い」
 ベルの命令は受けずとも勝手にフランへ飛びかかったミンクは、より一層の紅い色で燃え始めた。
「しししっ、やっぱかわいーのミンクは、お前とちがって賢いし」
「ミーとミンクじゃ生き物としてのレベルが違うじゃないですかー? どう考えてもミーのが高度な出来なのでー。そういうの親バカっていうんですよー」
 熱さは物ともせずにフランによっていい加減に避けられた。
「ちがうもん」
「ならミー今度、センパイがかわいいっていうまでカエルの写メ送り続けます」
「ぜってーいんね」
「今センパイがしてるのはそういうことです。そう思うんなら今すぐやめた方がいいと思いますよー」
「ミンクはかわいーけど、カエルはかわいくねーし」
「このカエルは確かにかわいくないですが〜、その堕兵器よりはかわいいですよ〜」
 ベルがカエルを可愛くないと言ったのを不愉快に思い、フランは目の辺りを不自然な三角形にしてミンクへと指を指して怒りだす。
 頭に被せていたカエルが哀しい顔をしているように思えたので、慈しむように何度も手の平で撫でてやった。


(おわる)



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