その後、誰彼かまわず降りかかる不幸は


 長閑な和やかな穏やかな春はとうに終わり、喧噪と気怠さと鮮明に満ちた夏が過ぎた。
 秋は涼やかに静けさに満ちた真っ只中にある。
「久々にやなモン見たぜ。ったく散々ないちんちだったな」
「所詮センパイの兄貴ごときがマーレリング持ちなわけなかったですよねー」
「決めた。お前の心臓抉り出してやる」
 掌には既にしっかりとナイフを持っている。
「ほんとのことじゃないですかー。嫌です〜。やっぱアホでも兄貴の実力疑われるのは嫌なもんなんですかねー?」
「オレのがつええし!」
「センパイ、早々にグロってたじゃないですかー」
 昨日に起きた出来事を思い返しながら、フランはベルをからかいの眼差しで見た。
「てめーだって戦わなかっただろが」
「だって開匣できないから戦えないですー。これもう取っていいですよねー?」
「ダーメーだっ! ポーズとかムダなのこだわってっからだろっ!」
「戦う前の心構えっていうか、そういうのって大事じゃないっすかー」
「うるせっ!」
 手にしたナイフを一々と喧しい後輩へと向かって投げ付けた。
「だっ! …………ベルセンパーイ」
「どした?」
「ミーがいなくなったら、今日あったこととか忘れちゃいますか?」
 不意に歩みを止めたフランと、一歩踏み出していたベルとの距離が離れた。
「しししっ、なにお前とうとう自害すんのか?」
 立ち止まったコーハイを振り返り、ナイフをどこかへと閉まった。
「しませんがー」
「おめーみてーなクソ生意気なコーハイ、ムカついて忘れよーとしたって忘れらんねっての」
 何時も通りの真顔で真剣に尋ねていた後輩を茶化して、彼は何時も通りに笑う。
「あ………じゃあミーもセンパイ忘れられなそうです」
「バーカ。お前はオレがいなくなったらオレがいたの忘れろ」
「嫌です〜。呪います〜」
「アタマわりーからカンタンだろ? 王子は天才すぎてムリだけど」
「………ミーも自称超天才なんで、センパイ忘れませんよー?」
「オレは自称じゃねーし! おめーは忘れんだよ、センパイめーれいな」
「クソムカつくセンパイに一生呪術かけたおしますのでー」
「んなもん効くかよ……」
「効きませんかー?」
 小首を傾げて目を点にしてベルを眺めた。
「…………かわんねーよなんも。全部終わってもおめーはここにいんだろ。んで、そやってカワイクねー口ばっかきくんじゃねーのか? どーせ」
「なんでそんなの判るんですかー。過去が変わったら現在も変わるじゃないですかー。センパイにはいいこともあるかもですがー」
「わりー方にはかわんねって、王子が保証してやっから」
「………ほんとですかー?」
「おめーにはカエル被せないとなんねーし?」
「なんでソレ義務みたくなってるんですかー……あー、そっか。そしたらカエル被んなくてもいいんですねー」
「いや被すから」
「コーハイじゃなくなったら、もうセンパイをセンパイって呼ばなくてもいいですし。ねー、ベルさん?」
 下からベルを戯弄したフランは、目の端だけを柔く解して覗き込んだ。
「未来が変わろーが、おめーはオレのコーハイだから! 覚えとけ!」
「忘れろって言いましたー。ミーは素直なコーハイなので、センパイのめーれいだから忘れますのでー」
「チッ、んな時ばっかスナオなコーハイやんな。なら再めーれいな。忘れんな。覚えとけ。どこで会ってもなにがあっても、ぜってえセンパイって呼べよっ! 呼ばなかったらサボテンな?」
「よくわかんないけど、サボテン嫌なのでそうしますー」
 彼等はどちらからともなく、変わる未来が辛いのは今だけだと思う言葉は飲み込んだ。
 また限りなく静寂に近付いた秋には、木の葉の落ちるカサカサした音だけが辺りに舞い落ちる。


(おわる)



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