キアズンテクアル


 太陽は朝からピカピカと眩しそうに輝いている。
 陽気も申し分のない出かけるのにも丁度よい天候は一向に気に留めず、一心不乱にノートへと文字を書き込んでいた。
 机に広げられていた、どこかの国の言葉が載っていたガイドブックを断りもなく取り上げてベルは笑う。
 邪魔だけを目的に部屋へと押し掛けて来たのに呆れて、フランは微かに目元を吊り上げた。
「ミー今勉強中です。これ次の任務で行く国の言葉なんですよ。ジャマしないでくださいー」
 フランはベルが来るまでの間、暫く滞在する国で不都合がないように、日常生活に必要な言葉をまとめていた所だった。
「オレが教えてやるよ」
「え〜、結構です」
「遠慮すんなって、アイサツからな。リピートアフターミー」
 後輩の遠慮へと聞く耳を持たずにベルは強引に講習を続ける。
「……ハーイ」
 フランはフランで反抗すらも時間の無駄だと諦めて生返事をした。
「チャオ。これイタリア語な」
「チャーオー。そうですがー?」
「こんちは。日本語な」
「こんちはー。ですよねー、聞いたことありますー」
「ボンジュール。これフランス語」
「ボンジュールー。そうですー」
「わかった?」
「というか全部知ってます。どうせならもっと知らないの教えてください」
 だが教えられたのは当たり障りなく通常から使っている言葉ばかりで、一向に教えるつもりのなさにフランはまた飽きれた顔をする。
「んじゃシャローム」
「シャーロームー?」
「それヘブライ語ね。ズドラーストヴィチェ、ロシア」
「ズドラーストヴィチェ〜」
「次ドイツ語。タークヒェン」
「タークヒェーン〜」
「サルウェー、ラテン語。相手がいっぱいん時はサルウェーテな」
「サルウェー、サルウェーテー」
「いちいち語尾のばすなって。発音おかしくなんだろ?」
「……なんでアイサツばっかりなんですかー?」
「アイサツ大事じゃん?」
「……これから殺す人にアイサツしてもしかたないですが?」
「いーの、すんの」
「今回の任務の国とも違うじゃないですかー? 大体殺す時にターゲットがどこの国の人かなんて、考えないですよ」
 とうとう投げやりな眼差しで首を振りいい加減な講義に抗議した。
「あー、じゃこれ教えてやる。ルロカニダル」
 それも気に留めずに、ベルは今さっき思い付いただけのような意味のなさそうな単語を口にする。
「? どういう意味ですかー?」
 聞いたことすらない訳のわからない単語に首を回して考え込んだ。
「カエルのバカっつー意味」
「そんな言葉聴いたことないですよー?」
「王子語だし」
「…………そんなの通じないのでー。ミーは天才って意味ですねーきっと」
「ちっがーから。これでやくせ」
 フランが使っていたノートとペンを取り上げて、作った言葉の解読方法を教えた。
「へー。で、なんでしたっけー?」
「ルロカニダル」
「あ、わかりましたー」
 ベルの書いた表と照らし合わせて文字の下にペンで訳した字を書いていった。
「これテストでっから覚えとけよ」
「なんのテストだよ〜。……ならセンパイはレワビ(ルキ)ですねー」
 頭のカエルの瞳は目映い外からの光を溜めてギラギラと輝いている。
「…………王子語にんな言葉ねえから」
 少し考えてから意味を理解してベルは何時もの後輩の暴言を否定する。
「ありますー。ミーが今作りましたー」
「王子語じゃねえし、それ」
「王子語の亜種であって王子語じゃないんで」
「カエル語かよ、んなのしんねっての」
「カエル語でもないです。ミー語です」
「んじゃこれわかる? レタロハアル、ヲッチョーガスユーナヲ」
 暗記してしまっていた自前の暗号へと、ベルは普通の言葉をスラスラと置き換えてゆく。
「ならミーはこうですー。……ムアパヲ……ハアル……ヲッチョワ、ガレワビー」
 一方のフランは単語を一つ一つペンで指して考えながら、漸くのことで一行を吐き出した。
「ラミザロカ!」
「……バリー」
「てめー今なんか違うのいったろ? 効かねーかんなそーいうの」
「え〜、言ってないですー。センパイなんか死ねばいいのにって思っただけですよ」
「ぜってー言ってるし。おめーなんかザラキだ、ザラキ!」
「もうフツーの言葉じゃないですかー。それだとアジトもろとも全滅ですけどー?」
「お前の師匠とかいるほーな!」
「……もういいんで邪魔しないでください」
 一頻り相手をし飽きてから以降は、先程熱心に見ていた本をもう一度手にした。
「あ、うめースシの店調べとけよ」
「ないですー」
 パラパラと捲るだけ捲って生返事を返す。
「調べてねえだろっ!」
「調べなくたってだいだいないのは術士の勘でわかります。それに違う国に行くんだからそこのおいしいの食べたいんですけどー?」
「術とかかんけーねえし! じゃそっちのうめーの調べとけよ」
「調べますけどーセンパイのためじゃないんでー。ミーのために調べるのでー」
 当てにならないガイドブックから、フランはめぼしそうな店を探し出した。
 見たこともない風景の明媚さに表情のない目元を微かに瞠って、任務についてはそっちのけでどこに行こうかと考え始める。
 開いたページの中で何時からか観光名所になっていた古代の遺物は、揺るぎもせずに高い空へと聳えていた。


(おわる)




上の読めないとこはこんな感じで置き換えてください。
大したこと言ってないので読めなくても問題ないです。

あ→ん い→を う→わ え→ろ お→れ
か→る き→り く→ら け→よ こ→ゆ
さ→や し→も す→め せ→む そ→み
た→ま ち→ほ つ→へ て→ふ と→ひ
な→は に→の ぬ→ね ね→ぬ の→に
は→な ひ→と ふ→て へ→つ ほ→ち
ま→た み→そ む→せ め→す も→し
や→さ ゆ→こ よ→け
ら→く り→き る→か れ→お ろ→え
わ→う を→い ん→あ

がぎぐげご →ざじずぜぞ
ざじずぜぞ →ばびぶべぼ
だぢづでど →がぎぐげご
ばびぶべぼ →だぢづでど
ぱぴぷぺぽ →ぱぴぷぺぽ

きゃきゅきょ →きゃきゅきょ
しゃしゅしょ →ちゃちゅちょ
ちゃちゅちょ →ひゃひゅひょ
にゃにゅにょ →りゃりゅりょ
ひゃひゅひょ →じゃじゅじょ
みゃみゅみょ →ぴゃぴゅぴょ
りゃりゅりょ →しゃしゅしょ
ぎゃぎゅぎょ →にゃにゅにょ
じゃじゅじょ →みゃみゅみょ
びゃびゅびょ →ぎゃぎゅぎょ
ぴゃぴゅぴょ →びゃびゅびょ
『っ、ー、〜』はそのまま



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