3 ある術士の卑怯さを咎める
やっぱり続き気になっから話せ? ですかー?
いいですけどー、ならちゃんと最後まで聴いてくださいねー。
そのままそこで待っててくださいとリーゼントの人にお願いされたんで、さっき出したのをちょっとやってみながらぼーっとしてました。
するとまたくものひとが入って来たんですよ。
だからエース君? それは人違いですよ。最終的にそんな名前じゃなかったんで。
「ミーはなにをするんですかねー?」
「言っただろ。幻術をかけるんだよ」
「だけどあんたは幻術が嫌い、なんですよねー?」
「ああ」
「それなら、どうしてミーに幻術を使わせるんですかー?」
「嫌いだからさ」
「嫌いだからー?」
「シミュレーションをするためにね」
「シミュレーショーン?」
「ああ」
「よく解りませんがー、クロームさんにやってもらったらいいじゃないですかー」
「あの子じゃだめだ」
「どうしてですかー」
「理由を君に話す必要はない」
「そうですかー」
「もういいかい? 今日の成果、見せてくれる?」
「はあ」
「……どういう、つもり?」
ミーが出した黒猫へと歩みよって、喉元をちゃっかり二、三度撫でておいて不満を呟きやがったんです。
猫は機嫌よくごろごろと首を鳴らしてました。でも頭の上に乗っていたちっこいふわっとしたきいろの固まりは、猫に怯えてあんまり上手くない歌を歌いながら逃げて行きましたー。
「あー、教えてもらった成果ですねー」
「ただの猫とは戦わないよね?」
「戦う時もあると思いますよー。例えばドラ猫がお魚を盗んでー裸足で追い駆ける時とかー?」
「ドラ猫? お魚? 君、ふざけてるの?」
トンファーを握った指に力が籠もったのが見て取れたんです。
「ふ〜ざけてなんか〜」
振り下りされた凶器を避けられないと思って、ミーは金属の板を視たんですよ。
そしたら金属同士のぶつかり合う音が響いて消えました。
盾にした金属も砕けて破片になると飛び散って消えちゃったんです。猫ももういなくなってましたー。
「へえ、やればできるじゃない」
「ミーは卑怯者なんですかー?」
そんなのはとても困るんですがー。
だって卑怯者じゃヒーローになれないじゃないですかー?
「使う人間によるね」
「卑怯者が使う術だって、言ったじゃないですかー」
「……六道骸という人間にどこかで挨拶されることがあっても、決して答えちゃいけない」
「ろくどう、むくろー?」
どっかで聴いたことあるような気はしたんですよねー、その時。
「ああ。あとその指輪、離さないで持っててね。今日はもういいや。哲、案内してやって」
「へえ。それじゃどうぞこちらへ」
廊下へ出るとどこもかしこも和風な造りになってたんです。
でっかいリーゼントの男の後に続いてミーも廊下を歩き始めました。
「リーゼントさーん」
「草壁です」
「リーゼント草壁さーん、あのー、ミーは本当はどうしてここへ連れて来られたんでしょうか?」
「………それは雲雀から直接聞いたと思いますが」
質問の意図を測りかねていたのか、一瞬考えてリーゼントさんは答えました。
「ヒバリさんていうんですねー。あの人」
「雲雀恭弥、それが彼の名です」
クロームさんが言っていた雲の人の雲は、雲雀から取られた渾名のようなものなのかとなんとなく雰囲気で思ったんですがー。
「そうですかー。あなたはー?」
「草壁です」
「さっき聞きましたー。下の名前はー」
「哲矢です」
「ああー、なるほどー。リーゼント草壁さんはヒバリさんをなんて呼んでるんでしょうかー?」
「? それは」
「さっきに呼応する形だとー」
「へえ、恭さんですかね」
なにが訊きたいのかよく解らない風だったがとりあえず答えてはくれたんです。
「くものひとじゃないんですねー…」
「へえ?」
「いえなんでもないですー。ミーはここで働くそうでーす。今日からよろしくお願いしますー。働くということはくものひとさんの部下になったということですよねー?」
「部下ですか、それは少し違いますね」
「それはリーゼントさんの部下になったということではないんでしょうかー?」
「草壁です。…私共の部下という言い方は正しくありません。あなたの立場は、この機関内とは切り離された所にありますので」
「それではどーりょーなんですかー?」
「同僚というのも違います。あなたにはある技術的な仕事をして貰うために、ここへ来てもらいました」
「幻術がどーのとかー?」
「ええ、そういうことです。ですから立場の全く違ういわば客分です」
「そういう感じなんですねー。よくわかりましたー」
「あと急な話ですみませんが、しばらくはここで生活して貰うことになってます」
「うちには」
「帰れません」
「困りますー。心配されますー」
「電話とメールは自由に使って貰って構いません。ただし全て居住地が偽ってあります。旅行でも修行でも失踪でも、好きな言い訳をしてください」
「荷物だってー」
「必要なものは言ってくだされば揃えますので。購買部もあります。もし手紙を出す必要があるようなら出させますが、現在の居所はやはり偽って貰うことになります」
「……購買部ー? 手紙、ですかー」
しばらくの間、修行の旅に出てきまーす。長くて遠い旅になると思いますがー、ミーは必ず立派になって帰ってきまーす。だからー、心配しないでくださーい。あと冷蔵庫に牛乳が入ってますが、飲まないでくださーい。でも賞味期限が切れたら飲んでもいいでーす。それとば…。
手紙を書きかけた所で遺言のようだと思って破り捨てちゃったんですよ。
遺言状なんて送り付けたら家族にびっくりされるじゃないですかー? だから止めといたんです。
オレだったら喜んでる? センパイに手紙なんて書きませんよ、ミーは。
してやっぱエース君じゃん、ってミーの話聞いてましたー? 名前ぜんぜん違うじゃないですかー?
それで結局家には電話をかけて、急な留学が決まったのでしばらく帰れませんのでと言いました。
うん、わかってますー、わかってますー。そんな急な留学は入ってません。
だけどそれ以外に思い付いた理由がなかったんだから、しかたないじゃないですかー?
無理を通したもので、道理には引っ込んでてもらいました。邪魔だったんで。
センパイ、センパイ? あれ、寝ちゃったんですかー?
人の話の途中で寝るなんて最低ですー。堕王子。あ、起きてました? いてっ。
(つづく)
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