1 からがら公園


 秋の気候のいい日がわりといいと思うんですよ。
 その日も穏やかでしたが、にわかに冷たい風の吹き出しそうな日でしたね。
 あー、でも秋じゃなかったかも知れませんー。
 山に近い公園へ生えていた木の葉の色は緑で、公園に生える芝は黄緑の鮮やかな色だったので、 人の気配のしないベンチに座って、黙って本を読んでたんです。
「ナンパじゃないから警戒しないで聞いてくれる?」
 不意に上空に差した影が喋りかけて来たので、影のクセにうっとうしいなーと思いました。
 特に残念だなーとも思わずに、顔を上げてミーは上を見上げたんですよー。
 視界にはひどく澄んだ冷たい青空の方が先に映って、黒い服にすべての光を遮られました。
「ナンパじゃないなら、なんですかー?」
「ああ」
 その男はミーの右手を取って、おもむろに取り出した指輪を中指へはめさせたんですね。
「……プロポーズですかー? 知り合ったばかりでそんなに軽く見られてるのはちょっと困りますのでー」
 まったくの初対面の人だったしでびっくりしちゃいましたよ。
「違うよ。ちょっとムカついてみてくれる?」
「はー?」
 無理ですよねー。だってむしろ吹き出したいのを堪えてたんですよー。
 そのくらいおかしな前髪してたんですね、その人。
 ミーは温厚な方ですし、そんなのはまったく怒るどころじゃなかったです。
「早くしてよ」
「無理ですがー」
「どうしてだい?」
「別に怒りたくなるようなことされてませんしー」
「じゃあ」
「世の中にはあんたなんかより、もっと怒りたくなる人がたくさんいますからー」
 今現在主にミーの目の前にいる人とかのことなんですがー。
「してあげるよ」
 一瞬の出来事でした。ナイフ刺さないでくださいよー。
 目の前を霞めた凶器に背筋がざわついてて、ミーの指が藍色に燃えるのが見えたんです。
 凶器は当たったわけではなく、避けたわけでもなく、意図的に最初から避けられてたみたいなんですよねー。
 それにしたってあんまりだと思うんです。
「なにをー」
 するんですかーと続けようとしたんですけど、声が喉からそれ以上出て来なくて固まっちゃいましたよ。
 あまりの怖さに恐怖なのか畏怖なのか怯えなのか判断は付きませんでしたー。でもミーはその人を怖いと思ったんです。
 立ち上がって逃げようとしたけど脚は震えるわ、ベンチにぶつかるわーで散々でした。
 思ったよりも痛く足をぶったんで、ベンチに縋って座り竦んじゃいましたよ。
「待ちなよ。怒れとは言ったけど、逃げろとは言ってない」
「そんな目の前に立たれたら逃げれるもんも逃げれませんがー」
「君、今日からうちで働きなよ」
 売り飛ばされるのかなーって頭からすーっと血の気が引いたのを感じて、何度も何度も首を横に振ったのを覚えてます。
 そしたらー、不思議なことに指がよけいに藍色に燃えていったんですよねー。
 これまた不思議なことに熱いだとかはぜんぜんなかったんですけど、気味が悪いんで指輪は指から外しました。
 もう摘まんでる指先まで震えが止まらなくなって、やっとでその人に指輪を返すのに差し出したんです。
「それ、今日から君のだから」
 でもその男はしつこくまたミーの指に指輪をはめ直しました。
 すると指はまたキレーな透明なインディゴで燃え拡がったんです。


 記憶はずっーとあったんですよー。ですけどねー曖昧でずっと風景はぼんやりとしか見えてなかったんです。
 う〜ん、ほんとは視えてなんかなかったかも知んないですよねー。
 だってミーは目隠しされてたので。
 車に揺られてる間ずっと脳内で周囲の風景を想像してたんですよー。ただそれだけだったんです。
 だから本物の景色とは違ってますよねー。外側見えないですし。
 いちおー歩いて車乗ったけど、駐車場に着くまでは捕獲されたエイリアンみたいな、かわいそうな状態でしたよ。
 それまではテレビでしか見たことない黒塗りのイカツイ車の後部座席で、とても偉い人になった気分でした。今じゃ珍しくもないですけど。
 眼さえ隠されてなければですけどねー。
 右へ左へと目をきょろきょろさせて探ってたんですが、これがてぬぐいみたいなうっすらした布っぽいのに意外と頑丈で景色が見えないんですよ。
「そんなことしても無駄だよ」
 なんでわかったんですかねー?
 指を取られて冷たい金属片がチャラチャラ音させてたんです。
 鎖みたいなものがミーの指に巻かれました。
「あのーなんでこんなことをー? これって誘拐じゃないですかー? 犯罪だと思うんですけどー」
「理由があるとするなら君が群れていなかったからだ」
「群れー?」
「ああ、群れは人を弱くするからね」
 目隠し外されたんですけど、それは本当にただのてぬぐいだったんですよ。
 指には鎖が巻かれてましたし。なんでそんなの巻いたのか意味分かんないなと思ってました。
 でも指輪からもうおかしくてキレーな炎は出てませんでした。ちょっとがっかりしました。
 駐車場で車から外に出ると、そこには人口の光しか射していない庭園があったんですー。
 運転してたやつも車から降りたみたいなんですが、後ろを振り向かされることはなかったので、その人は見れなかったんですが。
 いっぱい喋ったら疲れたので、今日の話はここまでにしますね。

(つづく)



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