駄菓子菓子
明日の任務に赴くためにいっぱいに袋に買い込んだ菓子を見せ合い、ペーペー達はお互いの購入して来たおやつに付いての評価を述べる。
「んっだよ、そのびんぼくせーかし」
「でもですねー、三百円で押さえるにはこういうので嵩増しするしかないと思うんですよー」
被ったカエルの中から取り出された菓子類は、ボリュームはあったがどれもこれも美味しくはなさそうな、然し不味くもなさそうな中途半端な出来の味だった。
「こんなカエルみてーな味の菓子食った気しねえし!」
フランが陣取って広げた部屋の一角から取り出した菓子を、勝手に袋を開けて一口食べた。
「カエルみてーな味ってどういう意味ですかー? そんなものに商品価値ないので、売ってるわけがないですー。それともセンパイ、カエルも食べたことあるんですかー?」
「このぼんやりした薄味、どー食ったってカエルだろが!」
「えー、こんな美味しい味してるのになー」
ベルが放ったもさもさとした菓子は、フランにとってはいつもと同じに思えた。
自らが開発したわけでもない三十円の駄菓子の美味さを語る。
庶民にとっては不味くはない菓子も、高級な菓子ばかりを食べ慣れている王子には、全く美味く感じることはなかったかのように振る舞われた。
「これが本物の遠足用の菓子だっての」
自分の周囲へと広げた、豊富なバリエーションの様々な味の菓子をベルは誇る。
「だからー、それっていっこで三百円するお菓子じゃないですかー? おやつ三百円までが常識ですー。あとナッポーはおやつに入りますのでー」
至極丁寧に正論を述べて、カエルは王子の菓子類を振り落とそうとした。
「オレは王子だから特別なの! ナッポーなんか弁当の一部にもはいんね−しい、持ってかねえから!」
「特別とかないんでー。師匠と遠足行く時は、必ず気をつかってナッポーを入れたもんです」
「どう考えても気いつかうとこまちがってんだろ! 王子三百円以下の菓子なんて買ったことねえもん!」
「嘘吐かないでくださいー。こないだ三十円の駄菓子、おいしそーに食べてたじゃないですかー」
だが嘘はフランが垣間見た現実とは符合せず、易々とばらされてしまう。
「あれもらったやつ」
先輩としての沽券を守ろうとして、元より深く吐くつもりもなかった嘘を、更に簡単な意味のない嘘で塗り固めた。
「でも他のときに違うのだって買ってましたー。あの時のは二十円のでしたねー」
一緒に行った駄菓子屋で購入されていた、安価で食べ易い菓子をフランは思い出す。
「んじゃーなんねんなんがつなんにちのなんじなんぷんなんじゅうなんびょう?」
「え〜っとあれはたしかー、……今年のーしがつー、二十七日ですねー。時間は午後五時四十三分…秒数まではちょっとわかんないんですけどー」
卓越した能力を持っていなければ正確に覚えているはずもない日付を、いい加減な記憶を堂々たる態度で糊塗し、真実に起きていた出来事に見せかけた。
「ぶっぶー、はずれ。オレその日買い物してねーもん」
「してましたよー。とぼけないでくださいー」
「あ゛っ? るっせえの、んなのインチキ言えんじゃん?」
だが王子は無謀な策略に騙られもせず、カエルの馬鹿げた意見を一蹴する。
「でも言ってませんー。ミーは正直者ですのでー」
正直さを前面に押し出して、思い切った嘘を更に真実へと近付けようとした。
「いーの。オレはこんだけ持ってくの!」
「あ〜、そんなこと言うなら、センパイがおやつ三百円分以上買ったの隊長に言い付けますから〜」
「へ〜。……お前にもちっとだけ分けてやろっかと思ったけど、やっぱやーめた!」
「! ミーその」
殊勝な先輩の意見を耳にすると、即座にカエルの顔色が変わった。
「なに?」
「今から考え方変えようと思うんですー」
「どう?」
「おやつってー、要は持ってきた人が食べれるだけならいいんですよ」
右手の人差し指を立ててベルに見せながら、真っ当な意見をしてみせる。
「っそ」
「だからー、センパイのお菓子はミーも食べるの手伝ってあげるので、そんぐらいあってもいいんです」
「ダメ。もー気ぃかわったからお前にはやんねーもん」
「ちえっ、ケチくさいですねー。最初からくれるつもりなんてないんですよねー、センパイは。やっぱ隊長に言い付けようと思います」
「王子がケチなわけないじゃん? んじゃさー、これ全部運んだら、ちょっとだけ食わしてやってもいいけど?」
「う〜ん、ほんとですかね〜? センパイの言うことだから当てになんないけど、期待しないで運んであげようと思います」
「超絶ゲンキンじゃね? やっぱ菓子やんのやめよっかなー」
「いいえー、決してお菓子が欲しいばかりじゃないんですけどー。ちゃんとしたコーハイだから運ぶんであってー」
高級菓子を入手するのに働いた悪知恵で、先輩を思いやっている態度の良い後輩ぶって見せた。
「んじゃ、菓子やんねえけど運べよ」
「なら運ぶギリないんで、やめようと思います〜」
然し返された手の平に、あっさりと手の平を返し返す。
「キチンと運べよ、カエル!」
「いや〜、その頼まれ方では運べませんよね〜」
彼等が言い争う黒い夜半の窓の外で、雨は翌日に向けて激しさを増してゆく。
それでも任務が中止になることはなく、購入された菓子が無駄になることもない。
(おわる)
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