七日目の墓碑3 漫ろ雨


 背中の裏のビニールシートから焦がされた砂の熱が伝わっている。
 どういうわけかそこにあったクーラーボックスから、勝手に取り出した氷枕をフランは額に当てる。
 そうして表情の涼しさから更に体温を奪おうと躍起になった。
 顔色には変化もなく汗も流れなかったが、通常通りに体感している熱は体温を上げて体を重く鈍くさせた。
 向こうの海を見透かせる炭酸の瓶も取り出して、寝転がったまま器用にビー玉を押し外すとラムネを飲み始めた。
 一息で飲み終えたラムネの瓶を辺りの砂地へと放り出す。
 太陽は黄金の軌道に沿って、燦々と黄色く白い砂浜を明るく照らしている。
 空き瓶はより一層の光を集めて輝いた。
 高くまで伸びた椰子の翼のように豪快に拡がった葉が、所々で日射しを遮った。
 それでも位置を変えずにぼんやりと太陽の鬱陶しさを眺めた。
「そんなカッコで暑くないんですか〜?」
 肩を覆った毛皮の塊に、横目で目にしただけで暑苦しさを忌避する顔をした。
「ぜんぜん」
「あー。まあそうですよねー……………。それは置いといて、そのイスいちいち運んでんですかー?」
 首だけを右へと向けて返事がして来た方を眺めた。
 そこにはやはり豪奢な椅子に尊大に腰を降ろした一人の王子がいた。
「炎で浮いてっし」
「へー、シュミわるいですねー」
 目前には爽快な海があったが、泳ぐ気にもならずに只管砂浜に埋もれている。
 話に上の空で金砂のあちこちにある虹の光へフランが目を凝らすと、それは貝殻の形をしていた。
「わるくねーし」
「わるいですよー」
 腕を伸ばしただけの範囲に落ちていた巻貝を取って耳へと当てる。
 風が吹き抜けた雑音は波の音と似ていたが、大して面白くもなくまたそれを砂へと投げた。
「わるくねえよ。なぁ、お前いつになったらやんの?」
「あ〜、今日は暑くてたるくてめんどくさくなっちゃったので、また今度ですねー」
「オレは殺してこいってめいれいしてんだっ! できねえんならお前が死ねっ」
 明るい日差しの中空で数匹の蝙蝠が合図を待って羽ばたいた。
「嫌です〜。ミーは自分のタイミングでやりますので」
 砂の上のビニールシートに突っ伏すと、ジルを無視して寝息をかき始めた。
 夢の中でもうひと眠りした頃に意識に入って来たのは、海水が流れる音だ。
 近くにない海を奇異に感じて目を窓に向けると、寝る前に開いておいた窓から白雨が吹き込んでいる所だった。
 感じた少しの寒さに身震いし、タオルケットを肩にかけたまま起き上がって窓を閉めた。


 午後の任務を終えて帰宅する中途の間に、動きの鈍った後輩の肩をベルは腕で引いてしっかりと立たせようとした。
「なんかお前」
「?」
 表情は変えず肩に当てられた手を見て、フランは怪訝な眼差しを向けた。
「ふらついてっけど、どした?」
「あー、ちかごろ夢見が悪いので、あんまり寝れてないんですよねー」
「へー」
「連日アホ兄貴が出て来るので。センパイもう出て来ないように言ってくれませんかね? 双子だからテレパシーとか使えますよね?」
「つかわねえし、死んでっし。たかが夢だろ? 殺っちまえよ」
「大分感じ悪いですよ? 夢のくせに。センパイ殺せってめーれーしてくるし」
「ふーん」
「ミーとしてはもちろんセンパイを殺るつもりなんですけど、他人に命令されるのは腹立だしいというか不快というかー。うっとうしいんですよね」
「お前にオレが殺せるわけねーし」
「許可もらったら、そんなのカンタンなので」
 ぼふぼふと幾度か頭のカエルと叩き、通信機能のスイッチを入れた。
「誰かいますかー?」
『フランちゃん、どうしたのん?』
 ルッスーリアが出た所でフランは無言で通信をぶっつりと切った。
「……………。許可もらえませんでしたー」
「あってもムリ」
「いてっ」
 ベルが頭のカエルを小突くと、全く痛みも感じないのにフランはカエルの代わりに悲鳴を上げた。
 距離は縮めずに二人はまた歩き始めた。
 一日の大半を雨が降り続けていて、闇の淵の暗さは増した。
 側溝にも大分水が溜まって溢れ出て来た用水路の泥水が、彼等の靴底に滲みこんで素足までを濡らす。

(つづく)



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