七日目の墓碑1 薄曇り


 器用な指先で太陽の火を赤い石へと灯す。
 それを眺めていたベルの横で、フランは前髪に隠れたベルの目をじっと見てその色について考えた。
「これやるよ」
「なんですか、それ」
「石ころ? 庭におっこちてた。キレーだったから拾ってきたけど、べつにいんねーし」
 見えたままの返答だけを述べて、ベルはフランへと手の平を差し出した。
「んじゃもらいます」
 簡素な会話でフランの手に渡った、何の飾りにも嵌まらない紅の石には傷が付いて、赤い光が鈍く閉じ込められている。
 フランも太陽の火に透かして見ると、石の奥で炎のように光はまた揺れていた。


 冷えた赤色の塊の内部で一両日中影を追う。
 空腹も感じずに眠気にも襲われない。
 だが怠い体は立ち上がろうとして脚が縺れ、その場に直ぐに止まった。
 太陽を背にして赤色に凭れ、ショーウィンドウのマネキンになったつもりで、只管に動かずに影を追う。
 西側にあった影は北へと回り、ゆるりと静かに東の方角へ沈んでゆく。
 太陽はずっとそこにあるはずなのに、眩しさすら感じずに熱もありはしなかった。
 だが逆光で遮られた人の顔を見て眩耀を視覚で悟った。
「あの〜」
 漸く一声を発して、歩み寄って来た影へと呼びかけた。
「ここから出してくれませんかね〜?」
 ティアラは髪の上で銀に光を撥ね付ける。
 撥ね返された光は視る力を奪い、瞳が痛くて涙が零れる。
「センパイ」
 見えなくなった目で見た吊り上げられた唇から洩れた乾いた笑いは、とてもよく似ていた。
「…………の、おにーさん………」
 風すらなく砂埃も立たない、砂漠の真ん中の細長い四角の中で、金色の髪が砂嵐に舞ったのを確かに見た。
「ししっ、いーぜ、出してやっても。そんかわり」
「なんですかー?」
「ベルを殺してこいよ」
 舞わない煤けた砂塵の赤さで目を瞑らされ、フランはそこで瞳を開けた。
 窓の外にはいつものような唯の朝が来ていて、乾涸びた砂の国はどこにもない。
 風景の中には養分の行き渡った葉脈の隅々までが青々とした木々が、曇り空の下で揺れている。


 銘々に食器の触れ合う音を響かせる食堂には、明瞭に判別できる話し声もなかった。
 しかし大概どことなく騒がしく、出掛けの活気で満ち溢れている。
「なんかついてる?」
 朝食を食べるのもそこそこに、フランはベルの顔を真剣に眺め始めた。
「センパイのカオですか? とくに何も付いてないですね」
「んじゃなんなの?」
「………夢にセンパイのおにーさんが出て来たんですよ」
「へえ。ジル元気だった?」
「相変わらずアホっぽかったですよ。というかアホそのものでした」
「………お前さ」
「なんですかー?」
「オレの夢は見ねえの?」
「そんな悪夢、見たことありませんねー」
「んじゃ今度夢ん中でおめーのこと惨殺してやっから」
 ベーコンを切っていたナイフをフランへと向けた。
「人の夢の中でまでえぐいことしようとすんのやめてくださいー。兄弟そろってサイアクなんですが」
「サカユメ? とかいうだろ? 夢で死んだらながいきすんじゃね?」
「センパイに殺されたら、たとえ夢ん中でもそのまま永眠できそうですが」
 パンと少量のサラダを平らげてから、立ち上がって皿を片付けようとした。
 運ぼうとした食器はかちゃかちゃと耳に障る音を立てている。
 過ぎった一抹の不安をそれでもベルは隠して、何時ものように自分の食器の片付けをフランへと押し付けた。
 暗雲は終日立ち込めるばかりで流れもせずに、道行く人々の顔を一際翳らせた。

(つづく)



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