とてつもなく馬鹿げた話のさきゆき


 何故に彼が不意にそのような質問をし始めたのかなどは、誰にも知る由はない。
 何時も通りのほんの気紛れだったのか、暇つぶしだったのか、後輩をいびろうとしただけなのか、本当に誰にも本意など解るはずはなかった。
 なぜならば彼すらそれについて深々と理解してはいなかったし、しようともしてはいなかった。
「お前って好きなヤツとかいんの?」
 梅雨もなく快適な乾燥気味の気候は、よく晴れ渡っていた。
「う〜ん、いると言えばいますが、好きって言うか、もっと重い愛かもですねー。ミーのは」
「へー、だれ?」
 適当に入ったバールのテラスへと設えられた席からは、海が見えている。
 夏の前の陽射しに波は白くキラキラと翻り、時折海鳥が鳴くのが聴こえて来た。
「ナイショでーす。なんでそんなこと訊くんですかー?」
「単なるきょーみほんいだけど、ソイツバカにしてやっから。……スクアーロか?」
「………。隊長はアホじゃないですかー? アホはちょっとー」
「んじゃボス」
「遠まわしに死ねって言ってますかー? 仮にボスだったとして、バカに出来るんですかー? 言っときますがチクリますよー?」
「………オカマ?」
「……ヴァリアーに所属している幹部にしては、とてもよくできたヒトだとは思いますがー」
「……………。………レ」
「ナイですからー、あんなボスマニアはほんとナイですからー」
「下っ端かよ?」
「一人ずつ名前挙げてくつもりですか? 当たんないですねー、それじゃ」
 置いてあった飲み物のグラスを手にすると、フランの掌に水滴が付着した。
「………オレの知んねえヤツか?」
「う〜ん、どちらかというと双子並みによく知ってるんじゃないですかね?」
「……………っておい、ジル!?」
「違います。アホな上に死んでるじゃないですかー。更に興味ないです。まー惜しいんですけどー」
「惜しい? あ、わーった! すっげナルシストで自分しか愛せねーとか?」
「…………それセンパイじゃないんですかー? フツーそれ好きな人がいる内に数えると思います?」
「誰なんだよ」
「そこまで解んないって、ほんとバカなんじゃないですかー?」
 しつこく尋ねるベルを呆れた目で眺めて溜息を吐いて、両手で頬杖を付いた。
「バカじゃねえし! 知っかよ、おめーのことなんか」
「あー、でもですねー、ミーが愛してる人も基本的にバカです」
「オレじゃねってぐれーしか判んねえだろが!」
「ミーはセンパイも結構バカなヒトだと思ってるんですが?」
 午後を回ってから日影になった陽ざしで居心地のよくなったテラスに、殆ど吹かない風が一瞬だけ強く吹いた。
「どういうイミだよ」
「そういうイミじゃないですかー? そんななんでミーの愛してるヒトを、思う存分バカにしてくれていいですよー」
「お前の好きなヤツがバカでも、オレはバカじゃねーから!」
「……………。センパイって壊滅的に他人の心の機微とかに疎いんですねー」
「んなもん疎くてもなんも困んねーし」
 一言だけ呟いてベルも片手で頬杖を付く。
 胸騒ぎのように早鐘を打つ心音を聞いてフランから目を背けると、自分の斜め後ろに見えた海を視界の端で見た。
 金の髪に隠れた視線を再び戻した時には、既にフランは体を捩って後ろの海を船が渡るのを眺めていた。


(おわる)



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