クリスマスの温度 後編




「痛……、アキラ、大丈夫?」
「……あぁ」
まだ少し乱れた吐息で答えを返す。するとケイスケは微笑んで額に唇を落とした。
「やっぱかわいい」
「……っ、だからそういう事をすぐに言うなっ」
「でも、こんな事はアキラにしか言わない」
「そういう意味じゃな――っ!」
 声を遮るように唇が重なり、中途半端に降りていたアキラのジャージと下着を取り払った。そしてさっきアキラの白濁を受け止めた指を後孔に沈める。
「ん、……くっ」
 慣らそうとしているのはわかっていても、やはり違和感を感じて呻き声があがる。
 決して快感だけではない行為のはずなのに、どうして受け入れられているのだろうか。ふっとアキラの中にそんな思いが浮かぶ。
 ラインを使ったケイスケに無理矢理陵辱されたあの時の記憶。それは今でもたまに夢に出てくる事がある。しかし、ラインが抜けたケイスケに抱かれた時は、はじめこそその時の事を思い出したが恐怖や嫌悪は全くなかった。
 そしてそれはやはり今も変わらない。

「アキラ……好きだよ」
「え? っ……ぁぁっ!」

 少しぼんやりとしていた思考が、ケイスケの声と再び雄に絡められた指の刺激で急激に現実へ戻ってくる。
 絶頂に達した事で萎えていたそれは、後孔の刺激によって再び勃ち上がり先走りを溢れさせはじめていた。そして前後からの刺激は違和感を消し去り、快楽と変わってアキラの体を駆け回り止まらない。いつの間にか声を我慢する事すらできなくなり、部屋の中に乱れた吐息が響いた。
 もう何度言われたかわからない名前を呼ばれ、ケイスケと視線を合わせる。その瞳に見えた熱に捕らわれて、アキラは体を小さく反応させた。
「ごめん」
「……ぁ」
 突然ケイスケは今までにない切羽詰まった声で謝って、後孔を慣らしていた指を引き抜いた。反射的に出てしまったそれを惜しむような声に、恥ずかしさからアキラは自分の腕で視線を覆い隠す。
「本当はもう一回って思ってたんだけど。もう……俺」
「だから、言わなくていいっ」
 ケイスケが何を言いたいのか。それは潤んだ瞳や上擦った声を聞いてアキラにもわかっている。だからこそそんな事を口にされても羞恥心を煽るだけだ。
 視界を覆ったアキラの耳に衣擦れの音が入りこんで、息を飲む。
 先に何が起きるかわかっているだけに、アキラの熱は触れられていなくても冷めるどころかむしろ上がっていた。
 そしてズボンと下着を下ろしたケイスケの腕がアキラの足を胸につきそうなくらい押し上げる。視界を覆ったままの腕をそっとどけてアキラを見つめながら、自らの高ぶった雄を後孔にあてがった。

「アキラ、いくよ?」
「う……っあ……あぁっ」
「く……っ」

 大きな衝撃に、アキラは思いきり背中を反らせてケイスケにしがみつく。慣らしていたとはいえ、指とそれでは質量が違い過ぎて苦しさに喘ぐ声があがった。
「アキラ……ごめん」
 また。
 唇を肩へ押し当てケイスケがそう言った時にまずアキラは思った。トシマを出てからも、こうして体を重ねる度にケイスケは必ず謝罪を口にする。
「――ごめん」
 それは誰への謝罪なのだろうと、滲んだ視界の先に感じる熱に思った。
 アキラに?
 それとも他の誰かに?
 ケイスケの事だから、きっとその全てなのかもしれない。
 苦しさの中でそう考えている間にも、ケイスケはうわごとのように何度もそう呟きながら慎重にアキラの中へと押し進め、やがて全てを収めきってようやく顔を上げた。
「大……丈夫?」
 今にも泣き出しそうな表情で問われ、同じ言葉をそっくりそのまま返してやりたい気持ちになる。吐息だけを乱して無言のままでいるアキラの答えを待っている視線を感じ、返事をする代わりに左手を差し出してそっと頬を撫でた。すると強ばっていた表情がほんの少しだけ緩む。そしてゆっくりと動きはじめた。
「ぁあっ、……ぁっ」
 トシマを出てから何度もこうして重ねた体は、それを拒む事はなくケイスケから与えられる刺激に素直に反応する。だんだんと声も我慢していられなくなり、羞恥に彼の首へと腕を回してしがみついた。ケイスケもそんなアキラを強く抱きしめながら律動を加え続ける。そして互いに近づいた視線が絡み引き合うように唇が重なった。
「ん、ふぁ……んんっ!」
 二人の舌が絡まって一段とキスが深くなる。その時ケイスケの雄がアキラの敏感な場所を突き上げ、反射的に体が反り返った。
「ごめっ……ここ、いい?」
「ち、違っ……あぁっ」
 自らそうだと言っているような高い声をあげ、快感に体や声が震える。そのせいで中を締め付けているのかケイスケも余裕なく息を乱しながら、見つけたその場所を集中的に突き上げた。
「ケイ……スケ」
 名前を呼ぶ掠れた声が二度目の絶頂が近いことを告げると、深く頷いて再びケイスケの指がそっとアキラの雄に絡みつく。そして二度目の絶頂を促すように動きに合わせて扱きはじめた。
「くっ、は……ぁあ」
「アキラ――っ」
「う……ぁ、あぁぁ――っ」
 一段と強く突き上げられ、限界点を超えたアキラはケイスケのシャツを皺ができるくらい強く握りながら絶頂を迎え再び白濁を放った。そしてケイスケもその刺激に促されアキラの中へと全てを放つ。そしてしばらく絶頂の余韻に体を震わせ、二人の吐息だけが部屋へと響いていた。

「ケイスケ?」
 少したって二人の呼吸も落ち着き、それでもなぜか動かずアキラの肩に顔を押し付けたままでいるケイスケの状態に違和感を感じて、だるさが残る体を動かしながら声をかけた。するとケイスケはそれにびくりと反応して、繋がったままっだった体をゆっくりと離しようやく顔を上げる。
「お前……」
「っ、……アキラ」
「何泣いてるんだよ」
 顔を上げた瞬間にケイスケの涙がアキラの頬へと降り落ちた。泣きそうな顔をしていたのはわかってはいたが、あまりに突然の状況にアキラは困惑するしかない。

「幸せなんだ、アキラとこうして一緒にいられる事がすごく」

 掠れた声で、涙が溢れ続ける瞳を愛しげに向けて呟くように話し出す。
「でも、こうやって幸せだって感じれば感じるほど、俺は償うために生きているのにそんな事でいいのかなって……考える」
 また一粒、涙が降ってくる。そして目の前の表情が自虐的に歪んだ。
「トシマでの事、忘れちゃいけないってわかってる。でも、さっきみたいに幸せだって感じてる時、俺は……自分が感じる快楽に溺れてるんだと思うんだ」
「もし本当にそうだと思っているなら、ケイスケ、お前はちゃんと自分の事をわかってない」
「えっ?」
「お前は途中からずっと泣きそうな顔してた」
 確かに最初はそれに溺れかけていたのかもしれない。しかし、確かにケイスケはアキラと繋がっている間ずっと泣きそうな顔をしていて、そして何度も何度も謝り続けていた。そんな事をしているケイスケが、自らの幸せだけに溺れていたとはアキラには思えない。
「それに本当に自分だけの幸せや快楽に溺れている奴なら、それに悩んでおまえみたいに泣いたりしないんじゃないか?」
「でも……」
 まだ何か言いたげなケイスケの涙を、アキラの指が拭う。
 今までトシマであった事は互いに触れようとしなかったのと、新しい環境に慣れるので精一杯だったせいもあってこうしてゆっくりと話をしたのははじめてだった。それでもケイスケはよく夜にうなされていたし、体を重ねる時もさっきのように謝罪を口にしていたのもちゃんとわかっている。
「お前は忘れてなんかない。溺れてもいない」
「……アキラ」
 その言葉にケイスケの涙が大量に溢れ出てきた。そしてそれはまた頬に落ちてまるでアキラが泣いたような涙の跡を残す。しかし、同じ涙でもさっきまでのものとは何かが変わったような気がした。
 それを感じて改めてアキラもトシマでの事は忘れないと心の中で誓う。こうしてケイスケが本当に一人で抑えきれなくなった時に、いつでもその涙を受け止められるように。
「ほら、もう泣くな……」
「ごめ……んっ」
「そろそろ片付けてあっちに戻るぞ。冷えたら風邪ひく」
「う、うん!」
 とりあえず汚れてしまった体と床を簡単に拭き、残りは明日にまわす事に決めて二人はベッドへと入った。体はだるくて重いままだったが、掛け布団の下の温度はとても心地よく感じられる。それはケイスケも同じなのだろう、穏やかな表情のままアキラの髪を指で弄んでいた。
「あ、アキラ」
 何かを思い出したかのように急に髪を弄んでいた動きが止まってケイスケが呼ぶ。顔はその胸に埋めたまま、アキラは「どうした」とだけ返事を返した。
「ありがとう」
「別に俺は何もしてない」
「うん。でもやっぱりありがとう……」
 そう言ってアキラの体を思いきり抱きしめると、小さな声で耳元に囁いた。
「アキラ、おやすみ」
「あぁ……」
 よほど疲れていたのだろう。数分もしないうちにケイスケから寝息が聞こえてくる。起こさないように顔を上げて様子を見ると、それは聞こえた声と同じようにとても穏やかに見えた。ついさっきまで悲しげに歪んで涙を溢れさせている顔を見ていたせいか、その寝顔にアキラは安心する。
 ふとアキラは嵌められた指輪に視線を落として、ある事を思い出すとそっとケイスケの耳元へと口を寄せた。

「メリー……クリスマス。言い忘れた」

 静かな部屋でも聞き取れないくらいの声は、すぐにその静寂の中へと消えていく。聞こえてなどいない事はわかっていても、やはり恥ずかしくなってまた顔を埋めて目を閉じた。
 いつもよりほんの少しだけ街全体が浮かれている中、それを彩るように雪は降り続いている。
 どうして人が特別な日にうかれるのか、眠りについていく意識の中で、アキラはそれがなんとなくわかったような気がしたのだった。

終わり

*あとがき*

 後編でした。長かったうえに全然まとまってない気がします。何よりもケイスケをどこで泣かせるか散々迷ったんですが、幸せを感じたからこそケイスケの中にあるトシマの記憶が逆流したって意味を込めて事後にしました(笑)
 あとはやっぱり裏行為を書くのは難しい!話を締めるのも難しい!題名を……(以下略)
 そんな力不足な話になってしまいましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。
 ケイアキ好きだー!
9/27

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