「あっ! また! ね、アキラ見た? 今の!」
「……いや」
流星群が近づいている。と告げるテレビのニュースを見ていたケイスケに誘われて、その日アキラは工場の裏手にある野原へとやってきていた。
二人で適当な場所に空を見上げて流れ星を探してみる。しかし、ただ空に光る星を見ているだけでも十分に満たされた気分になってしまうアキラは、隣で必死に流れ星を探しているケイスケとは違い、漠然と空を見上げているだけのせいかまだ流れ星を見る事はなかった。
「あーあ。また三回願い事を言う前に消えちゃったよ……」
「あっという間だからな」
「それもあるけど……」
「他にもあるのか?」
「えっ?」
空から視線を降ろして言葉を濁した事に疑問を返す。
すると、ケイスケは突然肩をビクッとさせて視線を泳がせ、そわそわしはじめた。たいていケイスケがこういう動作をする時は、考えているのはアキラの事だ。
そんなふうに勝手に真っ赤になられてしまうと、今度は何を考えているかが妙に気になってしまう。アキラはおもむろにケイスケの両肩を掴んで、少し強引に外れたままの視線を体ごと自分の方に向けさせる。
「わっ……」
「それもあるけど何だ?」
「あ、アキラ……っ」
「……」
「あの、だからその」
「……」
「うっ」
無言で返す視線で、言わないとこのまま離さない。という言葉を投げかける。
そのままの状態でケイスケの葛藤とアキラの沈黙はしばらく続き、やがて少し涼しい夜の風が二人の間を抜けていった。するとケイスケはとうとう観念したのか、
「アキラの、……い」
ぼそぼそと聞き取れるかわからない位の弱々しい声を返してきた。
「聞こえない」
「その……アキラの笑顔がもっと見たいなって」
「……」
自分の事だろうとは思っていたが、ケイスケが今もそういう事を考えているとは思ってなかったせいか、アキラは唖然として黙るしかなかった。
「あ……あとは」
「ちょっとまて。あとって、まさかまだあるのか?」
「うん。アキラが風邪をひいたりしませんように。とか、アキラが仕事で怪我しませんように。とか」
それと――。
指を使って数えながらさらに続きそうな言葉を大きなため息が遮ると、途端にケイスケは慌てたようにアキラを見返してきた。
「お前、自分の事を願うの忘れてる」
「そ、そうなんだけど、俺はアキラと一緒にいたいっていうのが、……一番だから、その、もう叶ってるっていうか」
そう言ってる最中にもケイスケの顔はどんどん赤くなる。いつの間に座り方も縮こまった座り方に変わっている。
それが一番だったとしても、他にはないのか?
面と向かって言われて少し恥ずかしくも感じながらも、それを悟られないように肩から手を離して座り直す。
「いいか、ケイスケ。俺は風邪をひいてない」
「わかってるけど」
「怪我もしてない」
「そう、なんだけど」
「それにちゃんと笑ってる」
「……え!?」
「たまに、だ」
そうかな……。
ケイスケが呟いた声が聞こえて、そうだ。と念を押してから、そんなに日頃自分は笑っていないのかと考えた。
テレビを見てる時、雑誌を読んでる時。たくさん思い浮かぶわけではなかったが、それなりにはあるように思える。
――笑ってるだろ。それなりに。
そんな結論にたどり着き、また視線をケイスケに向けた。
「……ん?」
するとさっきまでのそわそわした雰囲気とは一変し、なんとなくケイスケのまわりをどんよりとした空気が取り囲んでいるような気がして、驚いて息を飲んだ。
「ケイスケ?」
「アキラが笑ってるって事は、それをあんまり見てない俺の前じゃないんだよね……やっぱり」
それは相手はほとんどテレビや雑誌だし、ケイスケが部屋にいる時は二人で話をしている事が多い。だから、笑ってる顔をケイスケが見てないというのは間違っていない。しかし、どうもケイスケの落ち込み方は尋常ではないらしく、抱えた膝に額を強く押し付けながら、大きくため息まで吐いている。
「お前、何か思いっきり勘違いをしてないか?」
「だってアキラの笑顔を俺より見てる人がいるなんて……」
「俺は一言も相手が人だなんて言ってない」
「え? それって?」
「テレビとか……雑誌……」
さすがにあれだけがっかりしているのを目の当たりにすると、相手がテレビや雑誌だった。とは言うのが恥ずかしく思えて、アキラは言葉を濁した。
ケイスケもよほど混乱していたのか、しばらく黙ったまま今の状況を考えているようだ。
「それに俺は、お前といる時しか……笑ってない。多分。というかほとんど一緒にいるだろ、お前と」
沈黙に耐えかねて、笑顔の話が出てからずっと思っていた事を口にしていた。
「笑うのは稀……かもしれないけど」
「アキラっ!」
「わっ」
すると突然ケイスケがアキラの名前を呼びながら思いきり飛び付いてきて、そのままの勢いで草の上に倒れ込む。
さっきまでのどんよりした雰囲気から一転、嬉しそうに笑いながら、本当? と何度も聞いてくるケイスケが少しおかしくて、アキラは少し表情を緩ませながら頷いた。
「アキラ?」
「どうした?」
「やっぱり、俺はこれからもアキラと一緒にいたい。ずっと」
「……いるだろ」
「うん」
これからも。
トシマでケイスケがいなくなった後に感じたあの気持ち。それを思い出す度に胸が痛む。ラインから抜け出そうとしていたあの時、助かってまた一緒にと思った気持ちもこれからもずっと忘れない。
何度も頷きながら笑顔を見せるケイスケにの後ろに、また流れ星が落ちていくのが見える。
ずっとこんな風にいられればいい。
たとえ流れ星に三回願わなくとも、この願いは自分達で叶えてみせる。と、アキラは思ったのだった。
終
*あとがき*
確か流星群が見えるーってニュースを見て思い立った話です。ってか、二次創作をやる度に書いてる気がする星話(笑)はじめはもっと暗い話だったんですが、ケイアキは愛情表現が直球なケイスケにアキラが振り回されてちょっと崩れてるアキラが好きなので、イチャイチャ話にしてしまいました(笑)
トシマで色々なことがあって背負うものもたくさんあるけど、それの上に二人の幸せがたくさんあったらいいなー。とか考えながら思いっきりイチャイチャさせたいです。
8/21