旅をする沼 |
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作者: 218 Summary: 化野×寒天いお |
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「せんせぇ……っ、お水… お…みず、っちょうだ…っぃ…」 化野邸の一室に、若い女の苦しげな声が響く。 「……悪いが、これ以上は一滴も駄目だ」 医家の化野は難しい顔をして、床から弱々しく手を伸ばす娘に言った。 布団の中で浅く呼吸を繰り返すその娘の容貌は、あまりに特異だった。 娘の全身は半透明で、娘を通して、向こう側の景色が透けて見えるほどだった。 化野がその面妖な姿の娘を預かることになったのは、およそ一週間前。知人の蟲師に頼まれたからだった。 娘は水蠱にとりつかれていた。 水蠱と共に旅をして、半ば水蟲と同化した状態で、娘は発見された。 発見されて、暫くの間、娘には意識がなかった。 ところが、化野の診療所に運び込まれてから二日後、娘が目を開けた。 色素のほとんど無い、硝子玉のような瞳を化野に向けて、娘は 「おみず…」 とだけ、呟いた。 最初は、意識が戻ったのかと思ったが、どうにも会話が成り立たない。 知人の蟲師によれば、体に色素が戻ってくるまでは、水蠱の意識と同化している状態に近いのだという。 娘が発見された時点で、大部分の水蠱は既に体外に抜けていたらしいが、体の構造に影響を受けるまで侵食されていたのだ。 直ぐに戻るはずもなかった。 水蠱という蟲に長く侵食された者は、水に触れていないと呼吸すら出来なくなり、遂には自身も液状になって溶け出すのだという。 娘は液状になる一歩手前で発見されていた。 幸い、娘の命に別状はないようだったし、娘を預けてきた蟲師も、処方した薬を飲ませれば、問題ないと言った。 ただ、蟲師から注意を受けたことが二点だけあった。 一つ――処方した薬を必ず毎晩飲ませること。 二つ――体が透けなくなるまで、一日に4合以上の水を与えないこと。 これさえ守れていれば、じきに元の姿に戻ると言う。 化野は二つ返事でこの娘を引き受けた。 医家として、困っている者を放って置けないということもあったが、化野は無類の好事家だった。 珍しいもの、奇怪なもの、特に蟲の世界に心を奪われた。 不謹慎かとも思ったが、目の前の娘の症例に、食指が動いてしまった。 寒天のような、文字通り透き通った肌を持つ娘は、こうして化野のもとにやってきた。 知人の蟲師は注意を伝えると、また来るとだけ言い残し、去ってしまった。 化野は娘がやってきてから、付きっ切りで娘の世話をした。 無論、やましいことを考えてのことではない。が、娘の姿にはついつい目を奪われた。 診療所が暇な時などは、何をするでもなく、眠っている娘を眺める時間が増えていった。 震える唇がうっすらと開いて、呼吸にあわせて胸の膨らみが上下する様を、飽きることなく眺め続けた。 睫毛の一本一本までガラス細工で作られたかのような娘は、しかし、触れれば柔らかく、心の臓は確かな力強さを持って動いていた。 娘は確かに愛らしい面差しをしていたが、それ以上の妖しい魅力で、化野を惹きつけた。 初めは興味のある症例という程度だったのだが、娘を預かって4日の後には、すっかり魂を奪われたように、娘の側についているようになった。 そして、二日目には目を開けて二言三言呟くだけだった娘は、その頃には会話が出来るようになっていた。 起き上がったり、大きな声を出したりは出来ないが、ある程度の受け答えは出来る。 常に胡乱な状態で、本人の意識が完全に戻っているのか、判別はつきかねたが、化野のことを「せんせい」と呼び、自分の世話をする者という識別は出来ているようだった。 ただ、直ぐに意識がぼんやりして、眠りに落ちてしまうことが多かった。 意識がある時は、娘は決まって、水を欲した。 三日目、四日目と、段々娘の意識のある時間が増えてくると、娘が欲する水の量も増えていった。 五日目には4合飲ませても、まだ足りない様子を見せ、六日目には、うなされた様に水を求めた。 化野は常に4合以上の水を与えないように気をつけた。 が、七日目のその日、娘は薬を飲ませても一向に静まらず、ひたすら水を求めるようになった。 「おみず……おみず、ちょうだい……」 娘は苦しそうに眉を顰め、半透明の指を化野の着物の袖に絡めた。 「…体が透けなくなるまでは、ならんよ」 娘が本当に気の毒に思えて、化野の心は痛んだが、治療の為と首を横に振った。 「はぁ…っはぁっ…お…ねがいぃ…だからぁ……っ」 娘は弱々しくも、必死に化野にしがみついた。 うす青く透けた瞳に涙を湛えて、娘は化野の着物から、手を放そうとしなかった。 娘の寝巻きは着崩れてはだけ、透けて光沢を纏った美しい肌が露わになっていた。 荒い呼吸や、唇から覗く歯や舌が妙に艶かしく感じられて、化野は娘から目をそらした。 娘はやっとという体で、化野の腕に縋り付き、小さな声で水をねだった。 見ないように、視界に入れないように化野は努めたが、自分の腕に抱きついた娘を振りほどくことはできなかった。 小さな頤の重みを愛おしく感じた。 苦しそうな呼吸に哀れみを感じた。 化野は患者を思う気持ちとは違う感情に囚われ始めた自分に動揺していた。 化野の腕に娘の胸が押し当てられる。 小ぶりだが、形の良い乳房が肌蹴た着物の間から覗いていた。 娘の肌はひんやりと冷たく、海月のような感触がした。 少しでも力を加えたら、そこから破れて溶け出してしまいそうな脆さを思わせた。 「………っ……っ」 娘が消え入りそうな声で何かを呟いた。 「何だ?」 思わず、化野は娘の唇の側に耳を寄せた。 「………っ……っ」 娘は再び呟いたが、化野はなおも聞き取れず、娘の顔を見た。 その刹那。 娘がそれまでとは比べ物にならないほど、素早く動いた。 初め、化野は何が起きたかわからなかった程だ。 気づいた時には、唇を塞がれて、舌を吸われていた。 娘は渾身の力で化野にしがみ付いて、彼の口中の唾液を吸いだすように舌を絡めていた。 「ん…っんむ……っんんんっ!」 化野は驚いて、娘を引き剥がそうとしたが、蛸のように吸い付いた娘は化野から離れなかった。 違う生き物のように化野の口内で蠢く娘の舌は、彼を翻弄した。 頭の奥が痺れて、腰が抜けてしまったように化野は娘のなすがままになった。 気が遠のいて、海の底へ引き込まれていくような錯覚を覚えた。 「っっは…ッ!!はあっはぁっ」 娘がようやく唇を離しても、化野の瞳は娘に吸い寄せられたまま、動かなかった。 舌がとろけるような甘い感覚に、化野はすっかり理性を失っていた。 「もっと……おみず…」 娘は化野と視線を絡めるように見つめたまま、擦れた声で囁いた。 今度は化野が娘の唇に噛み付いた。 片メガネがどこかに飛んで無くなっていたが、気にならなかった。 頭の奥で白髪の蟲師の苦み走った顔が浮かんだが、無視した。 化野は娘に舌を吸われる感覚に、すっかり虜にされていた。 娘は必死に化野にしがみ付き、貪欲なまでに彼をむさぼった。 気づけば、いつの間にか化野が布団の上に押し倒され、娘が彼の上に覆いかぶさっていた。 娘の寝巻きはすっかり脱げてしまい、半透明の一糸纏わぬ裸体を晒していた。 豊かな髪が傷一つない完璧な背中にかかって、揺れていた。 細い腰から続く、丸みを帯びた小ぶりな双丘が化野の上でくねる。 「はぁっはあっ…っ足りないよぉ……おみず…ちょうだいぃ……せんせい……」 娘は熱に浮かされたように繰り返した。 化野は自分の上に跨った娘の裸体を見上げた。 面妖な――――けれど美しい。 恍惚とした表情で、化野は娘の体に触れた。 すべらかな腿を手の平で弄ると、娘は切なそうに眉を顰めた。 「や……おみず……」 頭の片隅では、娘が禁断症状で正気を失っているだけだと分かっていた。 それを理性で守ってやるのが医家の務めなのも理解していた。 ――――けれど。 肌蹴た化野の胸に直に乗せられた、娘の乳房の感触は冷たく、柔らかく、心地よかった。 彼女の透明な柔肌は、化野の体の熱を優しく慰めてくれたが、それと同時に、また新たな熱を呼び覚ました。 長らく独り身の男に、この感触は酷だった。 力任せに娘を抱いてしまうのは簡単だ。 けれど、意識の正常でない患者を犯すような卑劣な真似は、決してしてはならないことだった。 化野が迷っている隙に、娘が上体を起こした。 柔らかな両の乳房が震える。 つんと立ち上がった中心の突起まで透明に透けている。 寒天よりも柔らかい、海月よりも弾力がある。 ――――口に含んで嘗め回したい。 欲望は血を伴って化野の下腹部に集中した。 娘は何を察知したのか、化野のへその下に手を伸ばした。 着物の上から硬くなり始めた肉の芽をなぞる。 「ここから……おみず……でる?」 娘の言葉にぎょっとした時には、既に自身を取り出されて、吸い付かれていた。 「ば……っ、お前っ」 慌てる化野をよそに、娘は一生懸命、化野の肉棒を嘗め回して吸いあげる。 ――――もっと何か違うモンがでちまうって!! 娘の口内は柔らかく、歯も舌も唇も通常より弾力があり、それは擦れると敏感な肉の芽を刺激した。 溜まらずに腰を引こうとする化野にしがみついて、娘は夏場の渇いた犬が水を呑むように、彼の肉棒にむしゃぶりついた。 「……っぁ……っく……!」 娘の強烈な吸引力に、瞼の裏で火花が見えるほど、化野は強い絶頂感に襲われた。 娘は彼の肉の芽から解き放たれるものを待ち望んで、彼の陰嚢をもみしだいた。 「はぁっはぁっ…あ……!」 化野は遂に耐え切れず、娘の口中に熱く濃い液体を放った。 「んんっんむ……っんっぁ」 娘は美味しそうに、彼の放った液体を飲み干した。 あらかた出尽くしても、娘は彼の肉の芽をしゃぶり続けた。 亀頭の先の、尿道の中にまで舌先を潜り込ませて吸い出そうとする。 達した直後で敏感になっていた化野は、再び自身が熱を取り戻していくのを感じていた。 「まだ……まだ足りないの……」 娘はゆっくりと顔を上げて化野に言った。 口の端から白い液体がたれて、娘の首筋を伝っている。 娘はそれも指先で拭い取って、透明な舌で舐め上げた。 ゆっくりとした舌の動きに、化野は興奮を禁じ得なかった。 危険を知らせる本能のようなものが娘から離れろと告げていたが、化野は一度味わった彼女の舌にすっかり参っていた。 快楽に溶かされた男の体は、かえって娘の体を引き寄せて抱きしめた。 「もっと…今の欲しい……体の中におみずがたりないの……」 娘の声が化野の耳をくすぐった。 化野は喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。 それはこれから繰り返される快楽への期待だったのか、自分が犯してしまう過ちへの恐怖だったのか。 化野は娘の腰を掴んで引き寄せた。 上半身は発見当初より幾分透けなくなってきていたが、娘の下半身は発見された当初と変わらない透明度が残っていた。 「あぁ……。体にはもう一つ『入り口』があるわね」 娘がふ、っと笑みをこぼした。 「ここにちょうだい。からだが渇いて死んじゃいそうなの」 自身の脚の間の花弁の奥を指で押し開いて見せて、娘が言った。 娘の擦れた囁きに従って、化野は自身を彼女の入り口に宛がった。 食道から摂取するのと膣から摂取するのでは意味が違うことは当然分かっていたが、化野自身が違う『渇き』に襲われていた。 娘と繋がりたかった。その身を沈めて、思う存分貪りたかった。 ――――あぁ……。医者失格だな。 化野は己の欲望に負けて、娘の中に自身を突き入れた。 柔らかくてぬるぬると潤った粘膜が化野の肉棒を包む。 「……っあ…ぁあっん…っくぅっ」 娘の割れ目の中に、赤黒い肉棒が入り込んでゆくのが、娘の肌を透して見えた。 黒い影が娘の腹の中にめり込んでゆくのが、うっすらと見える。 ぐちぃ…ぐちゅう…ず…ずりゅ… 化野がゆっくりと腰をまわすと、娘の唇からは悩ましい声が溢れた。 「あんっ…んん…っぅ…ひ…!はぁあんッ…はやく…!ちょうだいぃ…!なかに……!」 娘の中は強烈に化野を締め付けて、欲望を吐き出させようと収縮する。 「は…っはぁ…っ」 「んっっ…やぁ…!」 化野は娘の透明な双丘を掴んで、さらに奥に挿入した。 毛と毛が絡まるほど腰が密着する。 娘の透明な茂みと化野の黒い茂みが擦りあわされる。 「あっあっあんっ……さっきの…熱いの…なかで出して…!」 娘が必死に腰を揺する。 まな裏で飛び交う火花に意識を奪われそうになりながら、毛野は腰を前後させた。 快楽の中で目が回りそうになる。 娘の声が高く擦れだした。 鼻にかかった甘い声は、ますます男を興奮させる。 娘は懸命に化野の肌の上に舌を這わせた。 汗の一粒一粒まで嘗め尽くすつもりらしい。 化野の突き上げ方がさらに激しさを増した。 「あっぁあっはあぁっふ……っひぃ……んっっ」 化野に激しく揺さぶられながら娘が必死にしがみ付く。 密着した肌の感触、舌、膣内の締め付け、どれをとっても人間の女では味わえない。 極上の快楽を前に化野は我を忘れて腰を振った。 やがて、娘にも限界が近づいたのか、娘が歯を食いしばって、化野の腰に足を巻きつけてきた。 膣内の締め付けが、いっそう強力になる。全てを絞りつくすように。 「あ…!あ…!いい…っ!!ちょうだい!あついの、たくさん…!!」 娘の声を耳元で聞きながら、化野は彼女の奥に白濁した精を放っていた。 「は…っ…は…っ」 化野が上体を起こすと、化野の額から流れ落ちた汗を、娘が舐めとった。 まだ体は繋がったままである。 娘は舌をぺろりと除かせると、硝子の様な瞳を化野に向けて言った。 「せんせぇ……もっと……」 まだ息の整わない化野が、一瞬息を止めて目を見張ると、娘の唇に再び唇を塞がれた。 そのまま、蕩けるような舌の動きで唾液を吸われ続けていると、娘の中で、化野自身が三度硬さを取り戻し始めた。 「え!? いや、幾らなんでも、これ以上は…」 化野が最後まで話し終わるより前に、化野の上に馬乗りに跨った娘は再び腰を揺すりだした。 中で擦れるとまた復活してしまう。 その後、化野は何度も眩暈を感じながら、気を失うまで、文字通り娘に吸い尽くされ続けた。何度も、何発も。 化野の意識が戻った時、目の前には知り合いの蟲師の顔があった。 化野はきちんと寝巻きを着て、布団の上にいた。 「水与えんなとは言ったがな―、お前が脱水症状起こすまで水分奪われてどーするよ」 白髪の蟲師は化野が意識を失った後に診療所に戻ってきたらしい。 なにやら一番見られたくない相手に、一番見られたくない姿を見られたような気もしたが、化野はあえて気にとめないことにした。 「……娘は?」 「化野先生がお休みになってる間に外見はだいぶ戻ったぜ―――意識はとんと無いがな」 化野が娘の部屋を覗くと、そこには以前のような透明な肌の娘ではなく、白玉状の白い肌の娘が寝ていた。 化野は何だかほっとしたような、残念なような、なんとも言えない気持ちになった。 娘は蟲師が滞在中に意識を取り戻し、回復していった。 以前のように胡乱な状態ではなく、しっかりとした受け答えができるようになっていた。 海から引き上げられて、透明だったころの記憶は定かではないらしい。 化野とのことも覚えていなかった。 蟲師が「お前さんを看病してくれた医家のセンセーだ」と化野を紹介すると、娘はふんわりと微笑んで化野に礼を言った。 「ありがとう…」 娘の声を聞くと無条件に化野の顔が赤くなるのを、娘は不思議そうに見ていた。 煙草をふかしながら、そんな二人の様子を蟲師がニヤニヤと眺める。 気まずさを誤魔化すためにウェッホン!等とわざとらしく咳払いをして、化野は訊いた。 「名前……なんて言うんだ」 娘は薄墨色の瞳に確かな光を宿して化野をみつめ、言った。 「いお…です」 いおは化野の住む漁師町に、今も残って暮らしている。 今ではすっかり黒くなった瞳に、同じ色の艶やかな髪を揺らして元気に働いている。 もともと色白のほうではあるのだが、日に焼けて働くうち、その肌は小麦色の健康的なものになっていった。 化野は今でも、浜に打ち上げられた水海月を見つけると、人知れず妖の娘の肌を思い出して、溜息をついているのだという。 〈了〉
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