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筆の海

 

作者: 378
Summary: 文字列×淡幽

 

 たまの手を借りずとも出来る、と思ったのは失敗だったかな。
 狩房淡幽は身動きできない身体で考えた
「決して下手をしたりしない」といっておきながら、うっかりこのざまである。
 文字列はこの特殊な糊の塗ってある部屋から出ることは不可能だ。だが、彼女の身体に糊は塗ってなかったのである。
 紙より這い出た文章は唯一動くことの出来る男を知らない柔肌に触手のように群がり、その手足に絡みつき自由を奪い、ジワジワと這い登ってくるのだ。
「私の中に還ろうというのか」
 嫌悪の表情を浮かべるも、文字列は四肢をしっかりと絡めとり身動き一つできない。
 皮膚を嘗め回すようにしながら蠢く文字列がその場所に到達したのだ。
「くぅ……うぅん……」
 吐息が漏れた。
 記すときには苦痛しか産まぬ文章が還るときには愉悦をもたらすのである。
 文字を形成するとめが、はらいが、はねが、敏感な粘膜を微妙に刺激するのだ。
「ん、んんっ……」
 ゆっくりと、ゆっくりと文字列が胎内に侵入してくる。
 こぼれる花蜜を掻き分けて、娘の肉体に眠る同胞の許へ。
「んっゃ、あぁっっ!」

―――喘ぎを漏らす娘が一人居る。文字の海に溺れるように。
蟲に身体を侵食されながら、蟲を愛でつつ、蟲に犯される。
 そういう娘が一人居る。

 何度目の絶頂だろうか、あられもない声を上げながら淡幽は銀の髪の涼しげな眼差しを思い浮かべるのであった。

 

 

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