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眇の涙

 

作者: 218
Summary: ギン×ぬい

 

月の青い光が柔らかな草の芽を照らす。
石に生えたコケが夜露を纏って光っている。
ひんやりと夜気を含んだ森の中を、男は歩いていた。
空に昇った満月だけが男の行く手を照らす。
男にはこの場所がどこなのか分からない。
けれど自分が目指す家がどんな形なのかは、ありありと思い描けた。
目指す家はこの先にある。
何故自分がそのことを知っているのか、男には分からない。
やがて男は目指すべき家にたどり着き、莚戸の下がった入り口の前に立った。
男が莚戸をめくり、中に入ると、古く湿った匂いがした。
薄暗い部屋の奥に月影で光る窓が見えた。
その側に、入り口を背にして黒い人影が立っている。
逆光でよく見えないが、柔らかな肩の線や細い腰から、人影は女のものだと分かる。
月光で青味を帯びて光る女の髪は白銀で、腰まで届いていた。
男が声をかけると女はゆっくりと振り向き、口元に艶やかな笑みを結んだ。
男を招くように白い手を上げる。その手は瑞々しく、指先まで美しい。
形の良い唇が開いて男の名を呼んだ。

――― 『  ■ ■  』



がばっ、と跳ね起きたギンコは一瞬、自分の居る場所がどこなのか分からず辺りを見回した。
すぐに見慣れた人物が目に入り、ギンコは安堵とも落胆ともつかぬため息を漏らした。
「ヒトの顔見てため息つくこともなかろうよ。せっかく泊めてやったってのに」
見慣れた片眼鏡の男は薬を調合する手を止めて片眉を吊り上げた。
化野邸の一室。ギンコがいつも仕事上で手に入れた珍品を売りつけている好事家で医者の家である。
「しかし珍しくうなされてたな、ギンコ。お前の寝相はいつも死んでるみたいに良いのにな」
けけけ、と意地悪く笑う化野にうるせぇよ、と力なく返す。
「なんだ?悪い夢でも見たのか?」
泣かした女でも夢に出たか、とからかう化野に心ここにあらずといった体でギンコが答える。

「それが……思いだせないんだ」



ここ何日かギンコは同じ夢に苛まれていた。
同じ夢、といっても内容を覚えているわけではない。
ただその夢を見るときまって、胸がざわついて落ち着かない気持ちで目覚めるのである。
胸から何かがすっぽりと抜け落ちてしまったような喪失感。
けれどその内容は何一つ思い出せなくて。
気持ちの悪い、実に不快な夢である。
それとは別に、昔から頻繁に見る夢があった。
こちらは忘れた頃になると思い出したように見る。
真っ黒いものが自分の体を蝕んでいって、最後には自分を飲み込んでしまう、というものである。
生生しくて、恐ろしい。
夢というよりもむしろ予感に近いものだとギンコは思っている。
蟲師という職業柄、いつ蟲に食われたっておかしくない暮らしをしているし、それに自分は蟲を寄せる体質をしている。
それが元で同じ土地には住みつけない。旅の暮らしもまた、いつのたれ死んでもおかしくはない。
それに何よりも異質な自分の容姿が、なんらかの蟲の影響によるものだろうとは、薄々感じている。
ガキの頃から真っ白い髪に色素の薄い緑色の瞳。片目は失われていて、蟲を寄せる。
十より以前の記憶が一切ない。家族もなく、住処を持たない。
そんな自分には畳の上で家族に看取られて迎えるような死はこないものとよく知っている。
黒いものに蝕まれる夢は自分の末路を表しているのだろうと思えた。
たまに見るその夢は確かに恐ろしかった。
だが、それが自分の定めなら、それでも構わない、とも思えた。
動物も植物もヒトも蟲も。ただあるようにそこで生き、ただあるようにそこで死ぬ。
自然の理の中に皆生かされている。ただそれぞれが、あるようにあるだけ。
誰の言った言葉だったろうか。思い出せない。
だが自分もそのように信じ、生きている。
黒い夢にはもう慣れていたが、最近見る夢の後味の悪さには正直辟易していた。
何の夢を見ていたのか。
何か、人と会話をしていたような気がする。
あれは一体、誰だったのか―――。



男の頬に女の白い指先が触れた。
「随分――久しぶりだな」
女は碧色の隻眼を懐かしそうに細める。
だが男は目の前の女に全く見覚えがなかった。
「誰だ、あんた」
男のそっけない問いかけに女はくすりと笑う。
「忘れてしまったか……無理もないがね」
含みを持たせた笑い方が気にかかるのか、男はなおも問いかけた。
「俺はあんたを知らない。誰なんだ、一体」
男の問いかけに女は艶然と微笑んだ。
「私は――お前の記憶の残滓のようなものだ」
訝しげに眉を顰める男に女は続けた。

「幽霊みたいなものだよ」



「ギンコ!!」
揺すり起こされて我にかえる。
目の前には化野の引きつった笑顔があった。
どうやら居眠りをしていたらしい。
何か夢を見ていたような気もするが、思い出せない。
「客をほっといて寝るなよなー。この真珠みたいな玉は何なんだ?」
化野はギンコが持ってきた珍品を興味深げに眺めている。
ああ、それは生き物の“生きた時間”を食う蟲で――と、説明を加えながらギンコは窓の外に目をやった。
外は明るい日差しで満ちている。
どうにも最近、夢見が悪いせいか調子が悪い。
夢と現が入り混じるような感覚に、ギンコは軽く眩暈を覚えた。
暗い部屋の中に差し込む青い月影だけが二人を照らしていた。
確かに男には女と出会った記憶がない。けれど、女の左目に見つめられると、どうしようもなく胸を締め付けられた。
女からは自分と同じ、蟲を払う類の煙草の匂いがした。女の纏っている着物には薬草の匂いも染み付いていた。
おそらく同業者――蟲師なのだろうが、やはり見覚えはない。
「暫く会わないうちに随分と大きくなった」
女の指先は男の頬から滑り出して、顎、喉首、鎖骨と辿っていき、男の肌蹴た胸元に触れた。
男の胸板を撫でる女の手はひんやりと、冷たい。
女の手はそのまま、男の形を確認するように肩から腕、脇腹と男の服の下を滑っていく。
男の脇腹から背中に回された女の腕はそのまま男に絡みつき、女は男の胸にしな垂れかかった。
「お前の体はまだ、温かいんだねぇ」
女の体を受け止める形で男は立ち尽くした。
女に触れていると、不思議と心が落ち着いた。
まるで知らない、得体の知れない女なのに、その肌は心地よく、声は懐かしい感情を揺り起こした。
先程から訳の分からぬ事ばかり云う、化粧気もないのに妙に色っぽい、年の頃は三十路を越えた辺りの女。
会っていれば忘れようはずも無い、その髪は見事な銀髪で、眼の色は池の底のような碧。
月の光の下で見る女の姿は、ヒトではないような妖しい力で男を惹きつけた。
「名前……何て言うんだ」
男が問いを変えても女は同じ笑顔で答える。
「お前は知っている筈だよ……」
そしてまた女は男を耳慣れない名で呼んだ。

「  ■ ■  」



目を開けたギンコは天井に映る草影が意思を持っているかのように揺れているのを捉えた。
障子に映る庭の木が風でざわめいている。
外から差し込む月の光が強すぎて、まるで影絵を見ているかの様にはっきりとした影が部屋の中に浮かんでいた。
一瞬まだ夢を見ているのかとも思ったが、青い光で照らされたそこは、昨日と同じ化野邸の一室だった。
物好きな若い医者は今回も割と良い値で品物を買ってくれた。
明日の朝一番にはここを出る。
次の村までは山を二つも越えていかねばならない。
しっかりと今のうちに睡眠をとっておかねばならないのに、半端な時刻に目覚めてしまった。
ギンコは布団の中で寝返りを打った。
さっきまで夢を見ていたはずなのだが、内容が思い出せない。
思い出せないのに、その夢の余韻は何時までも胸の奥にわだかまる。
気持ちの悪い、またあの夢だ。
ギンコは寝付けず、起き上がってタバコに手を伸ばそうとした――すると。
ぽぅ、と光る青緑色の蟲を目の端に捉えた。
力の弱い蟲がふよふよと浮遊している。
それだけならば普段目にするものとそう変わりは無いが、ギンコはそれを見てぎょっとした。
小さな虫がダマになっていくつも浮かんでいたからである。
そう長く滞在していた訳でもないのに、こんなに蟲を呼び込んでしまったのかと愕然とするギンコの肩につめたい手が触れた。
びくりと振り返るギンコの前に銀色の光を纏った髪の長い女が居た。
年はギンコより五つ六つ上だろうか。
顔立ちの美しい女だが、その髪はギンコと同じように白く、髪の間から見える左目も妖しい碧色をしていた。
ギンコは今まで多くの土地を回ってきたが、自分と同じような姿の人間は一人も見たことが無かった。
女の特異な容姿にも驚いたが、女がいつ部屋に入り、自分に近づいたのか、まるで気配がなかったことにギンコは警戒した。
―――蟲の類か!?
枕の下に忍ばせた蟲ピンに手をかける――ところが。
女の瞳と目が合った瞬間、ギンコの右目から涙が溢れた。
あとからあとから、熱い涙が頬を伝った。

自分の反応に動揺を隠せないギンコに、女は静かに寄り添い、その頭を抱き寄せた。
「右目が失った左目を悼んで泣いているんだ。泣かせておやり。かたわれを失うことはいつになっても辛いことだから」
女は幼い子供にするようにギンコの頭を撫でた。
女の胸の中で涙を流していると、様々な感情が体の奥から噴き出してきた。
その感情は普段意識したこともない、幼稚で稚拙な、けれど激しい感情だった。
つらい、さみしい、くるしい、怖い。一人は嫌だ、側に誰か居て欲しい。
十で記憶も身よりも持たず生きてきたギンコは、己でそんな気持ちを封印していた。
自分の中にこんなにも強い感情が渦巻いていようとは気がつかぬほどに。
ギンコは女の体を引き寄せた。
女の体は幽かな光を纏ってはいたが、しっかりと重みがあり、柔らかい肉の感触がした。
己の体温より幾分か低い女の体温を薄い着物越しに感じる。
自分の腕の中にすっぽりと納まった女の体は抱いていて心地が良かった。
抱いていてこんなに心地よくなる体を、ギンコは知らなかった。
布団の上で上体を起こしたまま、ギンコは女を抱きしめた。
女はギンコの傍らに膝立ちのままで彼の頭を撫ぜ続けた。
その仕草は母親が自分の子を寝かしつけるのに似ていた。
煌々と輝く月明かりで、部屋の中は青く染まっていた。
まるで池の底にいるようだ、とギンコは思った。
「今日は別れを告げにきた」
青い部屋に女の声が響いた。
「今まで微かにお前の中で残っていた私の記憶も、もうじき全部喰われる(・・・・)。もうお前には本当に会えなくなる」
今までは夢の中でなら会うこともできたのに――。
女は淡々と、静かな口調で話した。
出会ったばかりの女が別れを告げる――どう考えても滑稽な話なのに、ギンコは笑うことができなかった。
女を抱きしめる腕に自然と力がこもる。
「もう、行かなくては」
女の手がギンコの腕に触れた。
それはもう離してくれと伝えているかのようだった。
ギンコはさらに強く女を抱きしめた。
まるで女を逃すまいと必死に捕まえているかのように。
「行くなよ」
ギンコは女に額を押し付けたまま、言った。
まるで見覚えのない、言っていることも訳の分からない、奇妙な女。
けれど、この女を失いたくないという気持ちが溢れてきて、ギンコを駆り立てた。
今手を離せば永遠に女を失うことになると言う事だけは分かる。
それは耐え難い喪失感をもたらすだろう。
何故そう思うのかは分からない。
会ったばかりの知らない女にどうしてここまで心が揺さぶられるのか、本当に理由が分からない。
分からないが、女を離したくなかった。
失うことが怖かった。
自分に失うものなど、ずっと無いと思っていたのに――。
「行くな」
ギンコはもう一度、女に向かって言った。
腕の中で女が微かに震えた気がした。
「……お前は……またそんな馬鹿なことを言って……私の事など忘れてしまったのだろう…?」
女を抱きしめたまま、ギンコは強い調子で答えた。
「知らねぇよ、お前なんか……知らねぇけど…行くなよ」
女を見上げると、悲しみに歪んだ瞳と目が合った。
「お前は…どうしてそう、私を困らせることばかり……」
その緑は深い悲しみと孤独を湛えていた。
この色を知っている――とギンコは思った。どこで見たのかは覚えていない。だが確かに自分は、この色を知っている。
ギンコの腕が女の腕を強引に引いた。
女は不意を突かれ、布団の上に引き倒された。
間髪を入れずに、ギンコが女の上に覆いかぶさる。
「どこにも行かせない」
有無を言わさず言い放つ瞳の奥には、子供じみた独占欲が宿っていた。
女は仰向けに押し倒されたまま、ゆっくりと男に手を伸ばした。
女の白い指先がギンコの垂れ下がった前髪を柔らかくかき上げた。
ギンコの緑色の右目と左目の暗い穴が女を見つめていた。
女はギンコに困ったような笑みを向けた。
その眼差しは駄々を捏ねる子供を見つめるようだった。

ギンコはどこか女に余裕があるのが気に入らなくて、女の首筋に噛み付いた。
白い肌を強く吸って、赤い印をつける。
女の襟首の辺りからはどこか懐かしくて、甘い香りがした。
その香りは同時に彼を不安な気持ちにもさせた。
ギンコは強い眩暈を感じた。
熱に浮かされた視線で女を見つめると、女は妖艶な笑みを返した。
ギンコの行動を面白そうに見つめている。
ギンコは女と視線を絡めたまま、女の足の間に片足を割り込ませ、女の帯を強引に解いていった。
ゆるくなった合わせ目に片手を差し込んで直に女の肌に触れる。
女の肌は吸い付くように彼の手に馴染んだ。
ギンコの熱い掌が女の肌理の細かい肌の上を滑っていく。
細い肩を露わに剥いて、撫で、痩せた体から浮き上がった鎖骨を辿り、白い喉元から尖った頤の先まで這い登った指先は女の薄く開かれた唇をなぞった。
女は心地よさそうに目を細め、ゆっくりと吐息を漏らした。
女の唇をなぞった指はもと来た順に下りて、女の胸の中心で止まった。
そしてギンコの掌はじっくりと味わうように柔らかな膨らみの下に差し込まれ、感触を愉しむように捏ね上げた。
痩せたからだの割りにたっぷりと重みのある膨らみは、男の武骨な手のなすがまま、その形を歪めた。
女はギンコの頭に腕を回し、引き寄せた。
ギンコの首筋を熱く湿った女のため息が掠めた。
さらにギンコの眩暈は強くなり、体の奥から湧き上がる疼きが頭の芯を痺れさせていった。
ギンコは柔らかな膨らみの先にある、薄桃色の突起に唇を寄せた。
軽く歯を立てると、ギンコの髪の中に掻き入れられた女の指に力がこもった。
体の疼きが膨らんでいって、制御が利かなくなっていくのをギンコは感じていた。
ギンコは女の腰を捉えると、乱暴に持ち上げて女の太腿を抱えた。
藤色の着物が捲れあがって女の白い下半身が露わになる。
男によって暴かれた茂みの奥に、男は指を差し込んだ。
男の指をくわえ込んだそこは、さらに奥へ誘うかのように蠢いて男の指を締め付けた。
既にたっぷりと蜜を滴らせたその入り口にギンコは早く入りたくて仕方がなかった。
はやく繋がって、めちゃくちゃにしてしまいたかった。
強い衝動がギンコを襲っていた。
―――この女の目が、自分を狂わせる。この女の声が、自分をおかしくする。
女の左目とギンコの右目が互いを見つめあった。
ギンコは見つめあったまま、もどかしげに自身を取り出した。
そのまま、濡れた女の入り口にあてがう。
既に熱を持って反り返ったソレは先走りが滲んで濡れていた。
だがギンコは深くは挿入せず、縦筋をなぞる様にソレを擦りつけた。
女の小さな肉の芽とギンコの亀頭が擦り合わさって、にちゃにちゃと音がした。
「は……っぁんっっ」
女は白い喉を震わせて、布団の上で仰け反った。
逃げようとする女の腰を掴まえて、入口周辺に浅く擦り付けると、女は高く擦れた吐息を漏らした。
女の声をもっと聞きたくてギンコは入り口付近の天井側を自分の先端で執拗に擦り上げた。
女は上擦った声を漏らしながらギンコの頭を抱きしめた。
「……どこで…こんなこと…覚えてきたんだい……悪い、子だ……」
ギンコは女の耳元で囁くように言った。
「もっと…気持ちぃいことしてやるから…俺と居ろよ」
女は布団に頭を預けたまま、ギンコを見つめ、口元を綻ばせた。
ギンコにはその笑顔が余裕で見下されているように思えた。
ギンコはさらに奥へと、その身を女の中に沈めた。

怒張した肉茎が女の襞を捲り上げながら、ゆっくりと進む。
女は自分を満たしていく熱に眉を顰め、小さく悲鳴を漏らした。
女が苦痛とも快楽ともつかぬ表情を浮かべ、唇をわななかせると、ギンコの背中にゾクゾクと愉悦の快感が走った。
やがて男の先端が女の子宮口まで届き、二人は一分の隙もなく繋がった。
ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
女の肌は冷たかったのに、その中は燃えるように熱く、ギンコを締め付けた。
「動くぞ」
吐息と共に低く呟いて、ギンコが腰を前後しだした。
ぐちゅぐちゅと溢れ出す愛液が音を出した。
ギンコが突き上げる度に女の両の乳房が揺れた。
女の中はギンコに絡みついて吸い付くようだった。
女はギンコの下で腰をくねらせて愉悦の表情を浮かべた。
左目はギンコを見つめたまま。
ギンコは女の瞳を見つめていると、その中に吸い込まれていくような気持ちになった。
池の底のような深い碧に溺れてしまいそうだった。
ギンコの唇が苦しげに荒い呼吸を繰り返す女の唇を塞いだ。
二人はぴったりと重なって、一つの生き物になったようだった。
部屋に浮かんでいた小さな蟲たちが青白く発光しだした。
ギンコは構わずに腰を打ちつけ続けた。
「う…ぁ…っ!?」
不意に、ギンコが唇を離して悲鳴をあげた。
女がギンコの片方の尻を掴みあげて、違うリズムで腰を動かしてきたのだ。
予想外の刺激に危うく射精しそうになったギンコが見下ろすと、女がにやり、と意地悪く笑っていた。
「この…ッ」
ギンコは女の太腿を抱えなおすと、さらに深く繋がるように女の腰を浮かせた。
そのまま己の肩に女の脚をかけさせて、女の奥をかき回していく。
激しく突かれて、さしもの女も余裕がなくなった。
布団を掴む手に力がこもり、強い快楽に飲まれるまいと顔を顰める。
唇からとめどなく溢れる嬌声はギンコをさらに興奮させた。
美しい喉を反らせ、白い裸体をよじらせる。
ギンコは長い銀髪をふり乱して喘ぐ女の姿を美しいと感じた。
激しく貪りあって、求めた。
腰を打ち付けるリズムが徐々に早まっていき、達せそうで達せない快楽の頂上がすぐそこに見えてきた。
お互いの荒い呼吸と肌と肌がぶつかる音が青い部屋の中を満たしていた。
部屋の中の蟲たちが発光する力も、少しずつ強くなっているようだった。
膣内が強く引き絞られてギンコの肩に乗せられた女の足先にも力がこもった。
女が苦しそうな喘ぎを繰り返す。
ギンコは強い快楽に頭の芯が真っ白く焼かれていくような錯覚を覚えた。
女が達する瞬間、いっそう高い声でその名を呼んだ。

「 …ヨ…キ……ッッ!! 」

その名で呼ばれた瞬間、ギンコは女の名が分かった。

「  ぬい  」

ギンコはぬいの腰を深く引き寄せ、その奥に己の濁った熱を吐き出した。
腰を何度も痙攣させながら、大量の液体をぬいの体の奥に注ぎこんでいった。




249 名前:眇の涙7[sage] 投稿日:2006/02/13(月) 17:26:48 ID:R7k8aelL
まだ息の整わないギンコにぬいが言った。
「ああ、もう。本当にお前は世話の焼ける」
笑っている。
しかし、なんと悲しい目でこの女は笑うのだろうか。
ギンコはやっとの体で言った。
「行くなよ、ぬい」
二人の体はまだ繋がったままだある。
しかし徐々にぬいの体温は失われてゆき、冷たくも温かくも無い、感触すらないものへ変わっていった。
ぬいの体を包む銀色の光が輝きを徐々に増し、体が透け始めた。
ギンコは必死にぬいの体を抱き起こして捕まえるが、その変化は止められなかった。
「お前の体は、温かいねぇ…」
その呟きを最後に、ぬいの体が一層強く光った。周りを浮遊していた蟲たちも眩いほどに光を放った。
ギンコが思わず眼を瞑ると、ぬいの声がした。

「 忘れるな…  いきものは ただ それぞれが あるように あるだけ 」




「おーい。何時まで寝てるんだぁ?」
がらりと障子が開いて化野が顔を覗かせた。
外はすっかり日が昇っている。
ギンコの出発の時刻は当に過ぎていた。
「いつもはウチのじい様より早起きの癖によぅ、けけけ」
笑いながら入ってきた片眼鏡の男は、布団の中で上体を起こしてぼーっとしている銀髪の背中に話しかけた。
話しかけても反応が無いのをいぶかしんでギンコの前に回りこんだ化野は、その顔を見るなり飛び上がって驚いた。
「何だ、お前……なんかあったのか!?」
その声にようやく反応してギンコが顔を上げた。
その右目からは涙が流れ続けていた。
「わからない……何か…夢を見ていたような気がする…」
覚束ない調子で答えるギンコに、化野が気味悪そうに尋ねる。
「お前最近ヘンだったし、どっか悪いんじゃねぇか? 
よし!俺が診てやるからもう暫く泊まっていけ」
何、品物の代金をチャラにしてくれるんで構わないぜ、と付け加える化野にお前に診てもらわんでも結構だ、と即答するギンコ。
多少ムッとしながらも、だってお前その右目…と言う化野を見て、ギンコは己の頬を触ってみた。
熱い涙が留まることなく流れている。
「これは……大丈夫だ」
右目から涙が流れる理由。それを自分は知っている。
何故そう思うのか、それは分からないが、自分はその答えを知っている。

「右目が失ったかたわれを悼んで泣いているだけだ」



その日を境に、ギンコが夢で悩まされることはなくなった。


<完>

 

 

RETURN

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