恋愛ロジック
今日も一日疲れた。
近衛隊長の仕事は色々大変で今日も大分遅い時間になってしまった。
でもとってもやりがいのある仕事で充実はしてるんだよな。
そう言えばゼシカが姫の所に遊びに来ていて今頃パジャマパーティをしてるんだっけ・・・。
最初姫から『寝巻きを新調したの。可愛いでしょ?』と見せられて、
『これを着てエイトと一緒にパジャマパーティがしたいわ』と言われた時はどうしようかと思った。
いや、フツーに無理ですから!
パジャマパーティ所の話じゃ済まされない・・・っ。
そんな可愛らしい格好の姫と部屋でふたりきりなんて理性がどう考えても持つ訳がない。
慌てて苦肉の策でゼシカの名前を出したら姫はそれはそれでとても喜んでくれた。
姫という立場上、歳の近い同性の友達が居なかったから嬉しかったんだろう。
とにかく、変な事をしでかすシチュエーションは避けて通れた訳だ。
そんな感じでいつものように自室の扉を明けると―――。
「よぅエイト!遅かったな」
「兄貴っお疲れ様でがす!」
・・・・・一瞬自分の部屋で何が起こっているのか分からず扉を一旦閉めた。
此処って俺の部屋だよな・・・??
よく解らないけど、取りあえずもう一度自分の部屋だという事を確認して改めて扉を開けると。
「どうしたんだよ」
「アッシ達の顔を忘れたでがすか?」
いや、決して忘れた訳じゃない。
というより何でこんな時間に俺の部屋にふたりが居るのかが解らなかった。
いつも急に来るけれど、夜まで居たのは初めてだ。
「俺・・・最初何かの間違いかと思った」
「は?何言ってんの?此処オマエの部屋だろ」
うん、それは解ってるんだよ。
俺が言ってるのはそう言う事じゃなくてさ・・・。
「今日ゼシカが姫様の所にパジャマパーティで来てるんでがすよね」
って、なんでヤンガスが知ってるんだ?と一瞬思ったが、まぁゼシカから聞いたと思う方が自然だよな。
でもだからって何で此処にふたりが居るかが全く解らないんだけど。
「そこでだ!此処は男同士親睦を深めようって思ってさ」
「ゆっくり男同士で話するでがす!」
いや、俺明日も仕事・・・しかも疲れてんですけど・・・・。
なんて言葉はとてもじゃないけど言える雰囲気じゃない。
しかも男同士で親睦を深めるって。
どうせなら姫と親睦を深め・・・って何考えてるんだっ!
取りあえず気を落ち着かせようと椅子に腰掛ける。
一体親睦を深めるって今更何の親睦だよ、と思ったら目の前に飲み物を差し出された。
一応気を使って持ってきてくれたらしい。
それを疲れた身体に流し込むべく口を付けたら・・・。
「ところでエイトって姫と何処までいったんだ?」
「ぶっ!ゲホゲホッ」
突然突拍子のない言葉に飲んでいたものを吐き出してしまった。
―――親睦を深めるってそっちかよ!
内心突っ込みながらも呆れて何も言えない俺にククールは何を勘違いしたのかさらにのたまった。
「あ、何処までいったんだっていっても、『チョットそこの湖まで』とかってのはナシな」
いくら俺だってそんなボケはかまさないっての。
だいたい、何でククール達に俺と姫がどこまで進んだ関係だって教えなきゃいけないんだ。
そう思ってはみても、目の前のふたりは有無を言わせない雰囲気を感じさせていた。
「どこまでって・・・何がさ?」
「何がって”ナニ”に決まってんだろ」
なんとか誤魔化そうとしてもどうやら見逃してはくれないらしい。
何でこんな質問なんかするのか頭が痛くなりそうだ。
「そんなのククールには関係ないだろ」
「何だよその言い草。エイトの事だからどうせ何もしてないだろうって心配で聞いてんのに。
まぁ期待なんかはなからしてねぇけどさ、一応どうかと思って」
今の言い方がすっごい引っかかったんだけど。
一応って何さ?!
俺の静かな怒りを感じ取ったのかヤンガスが助け舟を出した。
「いや、兄貴も男でがす!あれから姫様と進展あったでがすよね?」
「そ、そりゃぁ・・・」
つい負け惜しみで言ってみた所で、目立った進展なんかある筈もない。
キス、しかしてないんだけど・・・。
「どうせキスどまりだろ」
ククールの言葉が胸にグサッと突き刺さる。
コイツは俺の心の中が見えてるんじゃないのか?!
多分顔を真っ赤にしてるだろう黙ったままの俺を見てククールは鼻で笑いやがった。
「まぁ、純情なエイトさんにとってはあの大聖堂以来にもキスしてりゃ十分だと思うけどな」
いちいち勘に触る言い方をするヤツだ。
大体あんな純真な姫にいくら恋人同士とはいえそれ以上手を出していいのかと思うのが普通じゃないのか?!
・・・でもその俺の中の常識はククールには全く通じないんだろうけどさ。
「そんなエイトに俺達が色々伝授してやろうって思ってさ。
題して!”エイトのドーテーサヨナラ大作戦☆”」
一気に目の前が暗くなった。
何でこんな恥ずかしい事を平然と、しかも堂々と言うのか気が知れない。
「何だよそれ・・・」
「だってエイトだって姫とそういう関係になりたいだろ?」
そう言われグッとなる。
そりゃあしたくないって言ったら嘘になる。
本当は姫を自分のモノにしたくて仕方ない。
でも姫がもし嫌がったらと思うと怖くて手が出せないのも事実だ。
「お年頃の健全男子なら考える事だ、心配はいらねぇよ」
そんな事自信満々に語られても・・・と思った矢先ふとさっきの発言で気になる事があった。
「ってククール”俺達”って言ったよね?ククールは解るとして、ヤンガスって経験あるの??」
「やでがすよ〜兄貴!アッシだって一応経験あるでがすよ」
えっ・・・・えぇぇぇえええーーーー?!
正直今の発言は驚いた。
っていうかヤンガスは絶対ドーテーだと・・・・。
「一応兄貴より長く生きてるでがすからね、それなりの経験はあるでがすよ」
知らなかった・・・チョットショックかも・・・・。
自分が勝手に思ってただけだったけど、考えてみればそうなんだ。
ヤンガスだっていい大人なんだし経験のひとつやふたつしてるって考えるのが自然だよな。
そう言えば旅の間はそんな話なんかした事なかったもんな・・・。
通りでパフパフ小屋に行った時も冷静な訳で・・・・ってこの話しはおいといてっ!
「そこでだ!今日はオマエにいいものを持ってきてやったぞ!」
いいものって何さ・・・どうせククールの事だから全く持ってどうでもいいものなんだろうけど。
・・・そう思った俺の直感はまんまと的中した。
「ホラ、これ」
手渡されたのは一冊の雑誌。
表紙を見てみればでかでかと【セックス特集 これで女性も大満足】なる見出しが付いている。
どうやらソレ関係のハウツー本らしいが、今時こんなものがあったのか・・・。
俺は本気で眩暈がした。
「まぁベタなお約束だけどな、これに詳しく載ってるから読めば大体の事は解る」
要らぬお世話だってーの!
だいたいこんな雑誌見て勉強ってどんだけやる気満々なんだよ。
・・・だからと言って姫とそのぅ・・・・したくない、訳じゃないけど。
「オマエも初めて、姫も初めて。ならどうしたらいいか。男のオマエがリードするしかねぇだろ」
隣でヤンガスも頷いている。
そう言われればそうだとは思う。
姫は純粋だからそんな知識だって少しはあるかも知れないけど・・・でも絶対的にないに等しいもんな。
一応、自分がリードしなきゃいけないとは思ってたけど。
「如何わしいビデオを観て勉強って手もあるけどアレは男の勝手な願望みたいなモンだからな。
いきなりガンシャとかしたら興醒めだし」
―――そんな事呆気らかんと言われても・・・困る・・・。
だいたい俺は姫にそんな事するつもりはない!!!
「とにかくその本をまず読んでみるでがすよ」
急かすので仕方なくペラペラとページを捲ってみると、
『女の子の身体は男と違って頑丈に出来てないので十分気を付けるべし!』なんて事が書いてあった。
そりゃあ・・・そうだろうなとは思う。
キスする時触れる姫の体はとっても柔かくて自分とは全然違うもんなぁ。
「いいかエイト。女にとって初めてってのは一生ものだ。大事な思い出にしてやる為にも気を使ってやらなきゃならない」
思わず頷く自分が居る。
何だかんだ言ってそっちの方の知識が疎い自分としては真剣に聞いてしまうんだよな・・・・。
情けない話し、下手な事をして姫に嫌われる事だけは避けたい。
「男は女を如何に気持ちよくしてイカせてナンボ!と俺は思う訳」
・・・・こういう時のククールってある意味潔さを感じて清々しく思えるから不思議だ。
隣りでヤンガスも深く頷いてる。
よくよく冷静に考えたらこの光景って凄いな・・・。
「どうせ最後は男は女に身体を支配されちゃうからな」
支配?
その意味が解らず不思議そうな顔をする俺に気付いたらしく、
ふたりは口々に言った。
「コレはオマエが経験すればいやでも解るようになるさ」
「口では説明しがたいでがす」
ふたりの言葉にますますどんなものなのか考えてしまう。
身体が支配される・・・俺の体が姫に?
経験した事のないものにどんどん想像だけが膨らんでいった。
と、その時。
「失礼するわよ〜エイト居る?」
急にゼシカが入ってきたから驚いた。
この話は絶対知られたらダメだっ!!!
「アラ?ククール達も来てたんだ。珍しいわね」
「あぁ、実はさ・・・」
ククールが何の躊躇いもなく言いそうになったので慌ててククールの口を塞いだ。
のだが・・・俺は肝心な事をすっかり忘れていた。
「アラ?この本何・・・・って!!」
しまったーーーっ!!
絶対ヤバイッ、明らかにマズイ!!
でもコレは元々俺の持ち物じゃないし無理矢理ククールがっ!!!
・・・と思ってみても、ゼシカの目線は俺に注がれていた。
「エイト・・・とうとうその気になったのね〜」
「いや!そうじゃなくて・・・っ」
「じゃあ姫とはそうしたくない訳?」
「ぐっ・・・」
どうしてゼシカはいつも痛い所を突くんだ。
そう言われたら何も言えないじゃないか。
仕方なくスゴスゴ席に座った。
「ククールが読めって寄越したんだよ」
最後の抵抗を試みてもそんなの耳に入っていないようにゼシカはその本を流し読みした。
何で俺が恥ずかしくならなきゃならないんだ・・・っ!!
「姫はどうしたんだよ?」
「姫様は今入浴中だから、明日の予定についてエイトにお願いに来たのよ
姫が一度リーザス村に来たいって言うの。いいでしょ?」
俺が恥ずかしがってる間にククールとゼシカが話を進めていた。
姫がリーザス村へ?
「エイトは送り迎えしてくれるだけでいいわ」
「でも・・・姫が外に出るのに近衛隊長として側に居ない訳には・・・」
と言いかけると、ゼシカはさっきの雑誌を目の前に掲げた。
「コレ、姫様に見せちゃおうかしら〜」
「スミマセンでした」
それを出されたら嫌でも言う事を聞かなきゃならないじゃないか。
コレを姫に見せられたらたまったもんじゃない!
恥ずかしくって顔を合わせられるかっ。
「まぁでもエイトがやっとその気になってくれたのはよかったわ
じゃないと姫様オバアチャンになっちゃうかもしれないものね」
いくら何でもソレは言い過ぎなんじゃ・・・。
そんな俺を差し置いて話しはドンドン訳の解らない方向へと進んでいった。
「エイトもそんな”ヤル気”を出した事だし、此処はひとつ賭けでもしないか?」
ククールがまた変な事を言い出した。
賭けって・・・もしや・・・・。
「ズバリ!この一ヶ月でエイトはめでたくドーテー卒業出来るかどうか☆」
・・・ってはぁ?!いきなり何だよその賭けは!
だいたいゼシカだって居るのにそんな言葉よく恥ずかしくもなく・・・。
「”出来ない”に500ゴールドね」
ってゼシカノリノリじゃないか!!!
俺の心の突っ込みなんか聞こえる訳もなく、ゼシカは平然と賭けに乗った。
「ん〜そうですね〜アッシも”出来ない”に1000ゴールドでがす」
・・・・・何か尽くおかしい感じがする・・・・ぞ?
「何?オマエ等みんな”出来ない”な訳?」
「じゃあ何?ククールは”出来る”に賭けるの?」
「いや、俺も”出来ない”に1500ゴールド」
「ソレじゃ賭けにならないでがすよ〜」
―――よぅく解ったよ。
みんな俺がヘタレって思ってる訳ね。
あぁそうでしょうよ、そうですとも。
自分でもヘタレだって事は認めるさ、あぁ認める。
どうせ・・・俺なんて・・・・っ!!
「兄貴・・・泣いてるでがすか?」
「チョットどうしたのよ?!」
「うわぁ・・・みっともねぇぞ」
思い思いの言葉を口にしながらのたまったので俺は泣きながらキッと三人を睨みつけた。
「いいよ!俺が・・・俺ひとりで”出来る”に賭けるからっ!!!!」
そうしてその夜は無常にも更けていった。
後日、賭けはエイトのひとり勝ちになる事を三人はまだ知らない。
裏では初の男女絡みがない話です
最初表に置こうと思ったけど端々に出てくる言葉が・・・(苦笑)
ギャグは書いててやっぱり楽しいな☆