背中合わせの恋心 3話











あの屋上での一件で、私が手塚と付き合っているというのが一気に知れ渡ってしまった。

興味津々で聞いてくるものがいたり、はたまた嫉妬丸出しの目線で睨まれたりと正直何で私がこんな目にあうのかと理不尽な怒りが沸いてきたりする。
まぁ元はと言えば、好奇心に負けて了承の返事をした自分が悪いのは分かってはいるんだけど。

これが本当に好きな相手との噂なら、笑って流せる事なのかもしれないけれど。
密かにライバルと目している相手とこんな風に噂され、それを妬まれたりするのは我慢ならない出来事だった。

だが、手塚と張り合うために優等生を演じ続けている自分が表立って仕返しをするわけにもいかずに手をこまねいているというのが、実状だった。


「…らないか?」

「え?あ、はい」

「では、生徒会室で待っていてくれ」

「は、はぁ……。」


しまった、今は恒例になったお昼休みの昼食中だった。
しかも、何やら話しかけられて反射的に返事をするとそれがまずいことにイエスの返事になってしまったようで……。

手塚を見ると、私がイエスの返事をしたことで嬉しそうにしているので、今更聞いていませんでしたーとは言いにくい。
全く話の内容を聞いていなかった私は、隣でご飯を食べていたを見ると目で合図してくれた。どうやら、が話を聞いていたらしい。

ホっとしていると、のその隣に居る不二君と目が合う。


さんって面白いよね」


ふんわり微笑まれてそう言われてしまう。恋する乙女フィルターがかかっているに言わせれば王子様の微笑みらしいが、私から見ればうさんくさい事この上ない。


「そうでもないわ」

「いや、結構僕的にツボだよ。本当手塚といいコンビだよ」


そう言われて、何だか釈然としないけど。コンビという言葉は対等に聞こえてちょっといいかも知れないと思った。


「ほら、そういう所が面白いっていうんだよ」

「えっ?」


まぁ、すぐ自分の思考の中に入っちゃうのは悪いクセだと思うけど。
ふと視線を感じて、その方向を見ると手塚が私たちをモノ言いたげに見ていた。


「なに?」


外ズラのいい私は、薄く微笑んでそう問いかける。
すると、途端にあの手塚の顔がうすく赤くなったのだ。

あらら……。これは、もしかしなくても私が微笑みかけたからとかかな?

なら、こうしたらどうなるんだろう。その好奇心が頭を擡げる。


「大丈夫、熱でもあるの?」


そう言って、あたふたしたまま何も出来ないで居る手塚に顔を近づけコツンとおでことおでこを優しくぶつけて熱を測るしぐさをする。

するとどうだろう、ほのかに赤かった顔が茹蛸と言っていいほどに赤くなった。
ほうこうなるのかと、好奇心を満足させた私は意気揚々とその場を後にした。







「本当あんたに惚れた手塚君に同情するわ」

「えっ、何で?」

「その気も無いのに、あんな事されたら生殺しよ」

「あんな事って、もしかして昼休みのアレの事?」

「もしかしなくても、アレよ。言わなくても分かるわ。どうせ、また好奇心でしょ?」

「…ははは」


放課後に、昼休みに不用意にうなずいた事の内容を聞こうとを捕まえて話をしていると、全てお見通しのようだった。


「まぁ、してしまった事は仕方ないけど。あんたこれからどうするつもりなの?マジで付き合うつもりなら、このままズルズルーっていけばいいと思うけど。そうじゃないなら、早めに振ってあげたほうがいいわよ」

「う、うーん。そうだよねぇ」

「そもそもお付き合いを受けた動機はいったい何なの?魔が指したって言ってたけど」

「………。怒らない?」

「内容によるけど、多分」


この間の状況を事細かに説明してみると、に盛大なため息を吐かれてしまった。


「好奇心は猫をも殺すって本当の為の言葉よね」

「あはは……。で、昼間の事だけど。手塚何言ってたの?」

「ああ。『今日、テニス部はコート整備で部活がミーティングだけで早く終わるから一緒に帰らないか?』って言ってたのよ」

「ということは、一緒に帰んなきゃなんないの?」

「でしょうねぇ。でも、聞いてないなら聞いてないって言えば良かったのに……」

「それは私も思ったんだけど、手塚があんまり嬉しそうな顔してたから聞いてませんでしたとは言えなかったのよ」

「手塚君嬉しそうな顔してたかしら?」

「してたわよ」


私のその答えを聞いて、はいぶかしげな顔をした後少し考えこんだ後に。


「…………。ああ、なんだそうなのね。了解、これで心置きなく不二君達に協力出来るわ」


とそう言って一人納得していた。

良く分からないけど、何か納得したらしいに送り出されて待ちあわせの生徒会室に行くことにした。














手塚side

乾達に課題にされていた、「一緒に帰る」ということを果たせそうでちょとホっとしている。
なりゆきで、との事を知られてからは逐一行動をチェックされている。

その事実を窮屈に思いながらも、自分自身の力だけでは進展を望めそうに無いのでその状況に甘んじているという所だ。

付き合って、3週間にもなろうとしているのに未だメールアドレス一つ聞き出すことの出来なかった俺にいきなり出された課題が、「一緒に帰る」だった。

アドバイス的に出された不二の助言が、が一点を見つめているときに話しかけるという事だった。その助言の意味は正直分からなかったが、とりあえずそれを実行して良い結果がえられたということでこれからもそれを、覚えておこうと思った。

部活のミーティングが終わり、生徒会室に迎えにいけばちゃんとその場所にが居てそれを見てひどく安心している自分が居て改めて好きだという気持ちを再確認する。
何がこんなに、愛おしいという気持ちを高めるのか不思議で真剣にこの思いの理由をつきつめて考えた事さえあった。

だが、考えれば考えるほどに俺が何故を好きなのかという理由は分からなかった。
勤勉だったり、笑顔が可愛かったりするのも一つの理由だろうがそれだけでこんなに誰かを好きになったりはしない、と思う。

難しい顔でむっつり考え込んでいると、ふいに不二がこう言った。


「馬鹿だね手塚。人が人を好きになるのに理由なんて、あるものか」


部活中にそう話しかけられて死ぬほど驚いたが、心の中を読んだような答えにびっくりして二の句も告げられないでいると。


「何で、分かったかって?そんな大声で悩まれると嫌でも聞こえてくるよ。とりあえず、今は部活中だからね。相談なら後から乗るよ」


さわやかな笑顔で、そう言って去っていった不二の後姿を見送りながら決して奴には逆らうまい。そう俺が思ったのは無理からぬ事だろう。
とはいえ、不二のアドバイスどおり行動してと一緒に帰ることが出来たので頼りになるのは確かだとそう思い直した。

だが、落とし穴はあった。

一緒に帰ることは帰ったのだが、一緒に帰っただけなのだ。
ぽつりぽつりと途切れがちの会話をして、寄り道もせずに黙々と歩いて帰る帰り道。

ある意味競歩並みのスピードだったような気がするのは気のせいだろうか?
俺の家の延長線上にの家があるせいか、あっさり俺の家の前で。


「じゃあ、ここで。また明日」


また、明日という言葉にときめきを感じてしまった俺はあっさりその姿を見送ってしまった。

結局、またアドレス一つ聞き出すことが出来なかった自分の情けなさに少々にうんざりしながらも、愛する少女の後姿を見送るという幸福に俺は浸っていた。




その日の夜、ある人物とある人物との間でこんな会話が繰り広げられていた。


「この間言ってた話だけど、私も賛成だわ」

「へぇ……。この間は、反対だって言ってたのに」

「こっちの方も結局は、そうみたいだから」

「ふぅん。まぁ、僕はそうなの最初から分かってたんだけどね」

「流石だね。それで、とっておきの情報流してあげようと思うんだけど」

「フフ、それは心強いな」


二人のあずかり知らぬ所で、良からぬ会話が成されているようであった。






 
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秋津 周
(あきつ あまね)



2006.03.09UP

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