守ってあげたい 42話 跡部side
激情のままにの体を抱いて、残ったのは空しさだけだった。
もう二度と手の届かない女。
わざと突き放すような言葉を言って遠ざけた。
その日の夜は眠れなかった、眠ろうとしても残像のように俺の中に刻み込まれたお前の姿が現れ俺を惑わした。
優しく、微笑むお前。
俺に向けることの無かったはずのその笑顔で、その声で優しく俺を呼ぶ。
胸に抱きしめて、掻き抱いて口付けようとすると目が覚める。その繰り返しだった。
浅い眠りを繰り返し、早めに起床しバスルームでシャワーを浴びた後にメールが着信していることに気がついた。
からだった。
どうしても話したいことがあるから、屋上に来て欲しい。
そんな内容で、時間が時間だがその場所にが待っている何故だがそう確信してすぐに学校へと急いだ。
屋上には忍足も居た。
だが、その事実も何故か疑問を持つことなく受け止めることが出来た。
もしかしたら俺はこうなることが分かっていたのかもしれない。
ためらいがちに告げられたの言葉を聞いて、俺は嬉しかった。
「それに二人とも好きだから、選べない」
その言葉が、額面どおりでないことを俺は分かっていた。
が忍足を愛していることなど、認めたくない事実だが知っている。
お前に飽きた。そう言ってやれば良かっただろうか?
俺がそう言えば、きっとは迷わず忍足の手を取ったはずだ。
俺への罪悪感と自分自身の譲れないモラルの為に、忍足を切ったお前。
あの事をに告げれば、どうなるか予想できたはずだ。
俺は自分自身の痛みを紛らわす為に発作的にそれを口にしていた。
その結果、は別離を選んだ。
俺のモノにも忍足のモノにもならない女。
自らのモノにならなかった事よりも、忍足を選ばなかった事が嬉しいとさえ思えた。
どちらもモノでも無い女。
自分自身の冥い愉悦に、口角があがり唇が笑みの形を形どろうとするのを抑えるのに必死だった。
「………。それが、の答えか…。話がそれだけなら、俺は行く」
わざと感情を押し殺した声で、そう言って俺はその場を離れた。
背を向けた俺の顔は、うっすらと微笑んでいた。
愛おしいお前。
俺のモノにならないお前。
溢れ出るこの思いは留まることを知らない。
諦めることなど出来るはずも無い。
だが、別離がお前の望みならそれを受け入れるだろう。
何者にも変えがたい、ただ一人の女。
お前を手に入れる為なら、俺は汚濁にまみれてもかまわないと思える。
俺はを愛し、嫉妬や妬みという感情を知った。
己の汚さに、愕然とする事もあった。
だが、己のそんな部分さえが手に入るなら瑣末な事そう思えた。
どんな事をしても俺はお前が欲しい。
その思いがすべてを昇華させた。
自分自身の汚さに、自嘲の笑みが出た。
今も、納得の上忍足と二人あの場所に残して来たはずなのに、それを思い出すと。
引き裂きたいという凶暴な欲望と、優しく甘やかしたいという相反する感情が鬩ぎあう。
どんなに忘れようとしても、自分が少女へ向ける感情は生々しすぎるもので……。
「俺がお前を忘れられる訳ねぇだろ」
聞こえるはずも無いのに、一人そう呟いていた。
心に思うのは、ただ一人だけで……。
さっき見た泣き笑いの表情を浮かべたの顔を思い出す。
あんな顔じゃなくいつか、自分の為だけに微笑ませたいそう思った。
2006.03.01UP