守ってあげたい 番外編 シンデレラを探して〜千石side〜












あの夜から、俺はずっと毎日夜の街を彷徨うようになった。

誰あろう、愛しい””を探して……。

知り合った、BARで2晩待ってみたが現れなかったのでそれからは、行き着けのBARを探して夜の街を彷徨い歩いた。
3日かけて、の行き着けのBARを探し当てた。

その店の名前は『禅−ZEN−』は中々洒落た、バーで落ちついた雰囲気の中で日本酒も飲めるという珍しい所で、口の堅い中年のマスターから何とか聞き出したところは週末の金曜日によく現れるそうで…。
探し当てた、翌日の木曜日に宛にメールを出した。

いつもなら、もっと早い段階で悪びれずに平然とメールなり電話なりしていただろうだけど、に対してはそれをするのに躊躇いがあった。

もう一度会って、それから冗談めかしにネタばらし的にメアドは番号を知っていることを伝えようと思っていた。

いくつかの偶然が重なって、と俺が出会ったようにもう一度再び会えるだろうとタカをくくっていた。


だが、1時間ほど待ってもは、現れる様子も無く。
メールの返事が返ってくることも無かった。


携帯電話という不確かなアイテムでしか繋がっていない俺達。

相手に、番号変えられるかメアドの変更されたらアウトな関係。

でも、絶対にを捕まえて俺の彼女にしてみせるそんな決意を固めていた。


「まっ、今日は空振りでもいいけどね。絶対捕まえてみせる」


まるで、おおきなフィールドで隠れんぼもしくは鬼ごっこをしている気分になる。

楽しくて堪らなかった。

まるで、テニスをしているような高揚感が蘇ってくるようで……。




そんな訳で、毎日午前様な生活を送っている俺が学校でまともに起きている訳もなくってかろうじて学校に行って授業中に寝てるか、さぼって寝ている状態だった。


「もお、どうしちゃったんですか?千石先輩まで、そんなんじゃ困ります」


放課後になってもテニス部の部室で自堕落に寝ていると、壇君にそう言ってコートへと追い立てられた。

やる気が無いわけじゃないけれど、昔ほど熱くなれないのも事実だった。

適当に流していると、コート近くに珍しい人物が通りかかった。


「おひさしぶり、あっくん」


わざとそう呼ぶと、ギラっと睨みを利かせてこちらを見る。


「どう?打ってく?」

「だりぃ」


強面な男だけど、言うほど怖くないのを俺は知っている。


「じゃあ、俺とふけようか」


そう言って、さっさとその場を後にすることにした。

後ろで、檀君が何か喚いていたけど笑って誤魔化してみた。

不良のたまり場の定番の階段下で、亜久津がどうにいったしぐさで紫煙を燻らす。


「やるか?」


煙草を差し出されても、一応断っておく。


「一応、テニス部員だからやめとく。あっくんもテニス部員だから、止めといたほうがいいよ」

「うるせぇ」

「ふふ」


見事な三白眼で睨まれても、目の前の不良を気取った男は案外繊細な神経を持っているのを知っている。

拒絶しているようで、受け入れている。

それを知ったのは、昔の彼女の一件が合ったときに知った。

誰もが腫れ物に触るように、俺に接してくる中で亜久津 仁だけが普通に接してくれた。

同情でも、嫌悪でも無く。ただ、普通に。

あの時も、同じように。






『やるか?』


普通にマルボロの煙草を差し出してきた。

夕暮れの屋上、この頃は同じテニス部の仲間さえまともに話しかけてこなかった。後から聞いたら、気をつかっての事だったらしいがそんな事を知らなかった俺は世界中でただ一人取り残された気分になっていた。


『………。亜久津は、知らないんだっけ?』

『うわさには興味がねぇ。俺は自分の目で見たものしか信じねぇ』


肯定も否定もしないその言葉、それに亜久津の不器用な優しさが込められているようで少し救われたような気分になった。


『一本貰ってもいい?』


クイっと顎をしゃくって肯定の意を返してくる。生まれて初めて吸う煙草は、思ったとおり苦くて煙が目にしみた。


『あはは…。思ったとおり苦いや』


その時、一筋の涙がこぼれたがそれも煙のせいにした。それも見ないフリをしてくれたらしい、亜久津の優しさが心に沁みた。






「最近楽しそうじゃねぇか」

「あっ、やっぱり分かる?側に居たい人が出来たんだ。年上だけど、綺麗な人でなんたってバージン貰っちゃったし……。これってやっぱり運命?」

「ケッ、バカか」

「問題は、10歳年上ってのがネックなんだけどね。俺本気なんだ。あーあ、に早くもう一度会いたいなぁ……」

「……。その女もというのか?」

「え?あっくんも、っていう人知っているの?」

「そいつは同い年だから、お前のっていう女とは多分別人だ」

「へぇ、偶然だね。同じっていう女の人好きになるだなんて……」

「俺は、アイツの事は好きじゃねぇ」

「またまた、あっくんの口から女の人の名前出たの初めてだしどうてもいい女の事なんて。あっくん忘れちゃうでしょ?」

「…………。」


その後、亜久津の意中の人の””の情報を聞き出すと、氷帝の生徒らしい。

俺のと同じ長い黒髪で、同じように綺麗な瞳を持っているらしい彼女に興味はひかれたものの俺の頭の中は俺のの事で一杯だった。


まさか、その””と俺のが同一人物だなんて夢にも思わなかった。





今日も俺はを求め、夜の街を彷徨い歩く。

必ずもう一度、出会えると信じて。









2006.01.21UP

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