守ってあげたい 26話 男達の呟きバージョン
跡部side
俺がその話を聞いたのは、お昼休みの時間だった。
取り巻きの女が興奮気味に、の事を告げて来たのだった。
「何?もういっぺん言ってみろ」
「今日の朝、さんが忍足君と最後までいったって得意げに話してるの聞いちゃったんです」
「その話は、本当か?」
と忍足との関係は、偽装のはずでそんな訳は無いと自分に言い聞かせたいが。
忍足へと傾いていく、の気持ちを感じ取ってしまっているので「まさか」という気持ちと「やはり」という気持ちが交錯する。
「ほ、本当です。しかもロストバージンだとか何とか言ってました」
思わず、詰め寄って問いただすと取り巻きの一人の女は緊張気味ながらも肯定の言葉と新たなる事実を告げてきた。
が忍足と……。そう思うと計り知れない嫉妬の感情が渦巻いてくる。
の初めてが、失われその相手が忍足だと……。
今までの相手に、特に処女をありがたく思ったりなどしなかった。
逆に面倒くさく思うことはあっても、望んで相手をしたことなど無かった。
だが、の最初の相手は自分でありたかった。
そう思うのがまぎれもない真実で、己のに対する思いの強さを実感してしまう。
あの白い肌に忍足が触れたそう思うと、どうしようもなく……。ジリジリと胸がこげるような錯覚に襲われる。
「この、俺様に嫉妬の感情の意味を教えるとはな……」
「あ、跡部様?」
「お前達も、覚えておくといい。俺はに本気だ。に対するどんな言葉を俺に聞かせても、俺の気持ちは変わらない」
だから、分かったな?そう言って聞かせると、取り巻きの女達は複雑な顔をしてはいたが了承の返事をして去っていった。
「最初の男になれなくてもいい。俺はお前の最後の男になりたい」
ふと本音が漏れる。
誰か聞くものがあれば、きっと女々しいと嗤うだろう。だが、それがまぎれもない本心で本音だった。
お前が今誰を思っていてもいい。ただ、最後には俺を俺だけを愛するようになって欲しい。
そう思った。
忍足side
俺のへの気持ちはどう言えばいいだろうか?
とても大切で好きな女がずっとおって、長い間その女しか見てなかった。
誰を抱いても、誰と居ても断続的に続く飢えは満たされることはなく、飢えた俺は寄ってくる女を適当な甘い言葉で騙してその温もりと優しさを利用して抱いて捨てるだけ。
そんな毎日を送っていた。
あまりにも、乾いた日々が続きそれが当たり前やと思とった。
だが、は言う。
『忍足は、凄いよ。私とは違って強いと思った』
思いを告げることも出来なんだ、なさけない男を凄い言うてそして抱きしめてくれた。
急速にへと傾いていく己の気持ちが自覚出来た。
一緒に居て、抱き合うでもなくただ側におるだけやのにこんなにも満たされるのはきっと俺にとってが特別な女になってきよるということやろうなぁ…。
今日の放課後。冗談めかしにメールに『ラブラブデートしようなv』そんな内容を送信してしまっていたが、今日はへの思いを告白してもし受け入れてもらえなくても、ゆっくりと事を運ぶつもりだった。
だが、待ち合わせを過ぎても来ないの携帯に電話してみると。
来れないという、との通話途中にいきなり跡部が出てきよった。
『よう、忍足。は今日俺が借りるぜ』
「跡部、お前今と一緒なんか!?」
『ああ。なぁ、忍足を抱いた感想はどうだ?』
「なんやて!………残念ながらを抱いたんは俺ちゃうで……」
砂を噛む思いとはこういう事を言うのだと思った。
問い詰めたくても、がいるのは跡部の側で……。
『そうか……。ならいい。悪かったな』
俺の返事も待たずに、通話は切れよった。
跡部がに対して本気なのは、ちょっと前から分かっていた。だが、やっとめぐり合った本気の恋の出来そうな女を簡単に渡すつもりは無い。
「とはいえ、偽りの関係やから。誰と寝た?なーんて責める権利も無いのが実情やわ……。情けないなぁ……」
口元に自嘲の笑みを張り付かせながらも、俺は跡部に負けるつもりは無かった。
勿論、見も知らぬを抱いた男にも負けるつもりも無い。
「 ホンマ面白い女やで。こんなにも俺を本気にさすとはなぁ……」
待ちぼうけが決定した今、適当な女を見繕って遊ぶ気にもない自分に気づいて尚更乾いた笑みが毀れる。
この俺が欲しいんはお前だけやなんてなぁ…。
覚悟しいや。本気でいくで。俺は跡部みたいに優しないからな。