守ってあげたい 番外編忍足編〜泣きたくなるのは多分気のせい〜
自分のこの思いが、どんな種類のものかを自覚するのは早かった。
綺麗な従兄弟のお姉さん。9歳も上の谷崎美冴への完全なる片思い。
母さんの姉―――美津叔母さんの長女で皮肉な事に俺の兄さんの婚約者でもある。
従兄弟同士での結婚。
血が近すぎるから、地域によっては反対する集落とかもあるらしいが。
それほど頭の固い親達でもなかったから、結婚に対して反対でも何でもないらしい。
一番最初に認識した時は、単なる親戚のお姉さんだったけど。
偶然兄貴とのキスを目撃した時に、はっきりと自分の思いを意識した。
単なる、従兄弟同士ならこの思いを告げることも出来たのかもしれない。
だが、思いを認識した時にはすでにあの人は兄貴の彼女で、そして今年の秋には兄貴の奥さんになる。
だから、この思いを封じ込めるしかないのだ。
今度は親戚ではなく、もっと近い位置まであの人は来る。
兄に抱かれ、兄の子を産むその姿を間近で見なければならない。
ソレから、俺は一生逃れる事は出来ない。
「ねぇ、忍足。私と取り引きしない?」
そんな日常の中、お前は現れた。
幼さの残るその肢体に、アンバランスに大人びた表情を浮かべて。
何処か男を小バカにした態度を取りながら、微笑う。
「分かった。引き受けたるわ。ちゅうか、俺に拒否する権利ないやん。イエスとしか言えんやろ?」
そう言いながら、俺は笑いそうになるのを堪えるのに必死やった。
淀んだ水が流れていくような不思議な感覚。
なぁ、お前の中に入って分けあう快楽はどんな味するんやろうなぁ。
多分ごっつう気持ち良さそうな予感するんやけど。
ガードが固そうで緩そうなお前。
お前を完全に落としたったら、本当に愉快やろうなぁ。
部活帰りを一緒に帰る道すがらそんな事を考えていた。
楽しい事を考えていて、自分の今がとても充実しているはずやのになのに時たま
泣きたくなるんはなんでやろうなぁ……。
「どうかした?顔しかめて、痛いところでもあるの?」
そう言って、ポンポンと背中を叩いてくれた。
「見かけによらず、やさしいなぁ」
「んー。さっき忍足が私に同じこと聞いたからそのお返し」
「そやったっけ?」
「うん。多分私と忍足って、似てるから何考えてるか分かるよ」
そう言われて、マジマジをその顔を見ると心の奥底を見透かすような目してこっちを見とった。
「俺とが似とるんか?やったら、面白いなぁ」
この思いを理解しているというのか、面白い。そんな事ありえないと思うのに。
目の前の女の甘言を信じてしまいそうになる。
「あっ、信じてないでしょ?ふふっ、まぁいいけど。お互いを分かり合うのには時間が必要でしょ?」
そう言って微笑むお前の表情が、綺麗で瞬間見惚れる。
何気なく髪をかきあげる仕草に、ふとした表情に目を奪われるのはもしかして……。
「なんや、に惚れてきたかもしれんわ」
「またまたー。うれしい事言ってくれちゃってー。あっ、手繋ごう」
前から来る氷帝生に自分達の関係を見せ付ける為に、手を繋ぐ。
あまりにこの時が、穏やかで幸福で本当のカレカノのような錯覚に陥る。
「跡部騙しきって、ご褒美もらうんが楽しみやわ」
「あらぁ、15才にもなってご褒美目当てですか?お子様でちゅねー」
「何言うてるんや、当然の権利やで」
は呆れたようにふぅーっとため息を吐いて。
「結局は、そこに行きつきますか?プラトニックラブは世の中に存在しないのですかねぇ」
「ありえんことはないやろうけど、俺には無関係やなぁ」
長いの黒髪をすくいあげてその一房に口付ける。
「私はプラトニック希望で」
そう言って、その髪すら俺から奪いよった。
「善処してみるわ」
そう言いながら、ちっともそのつもりは無かった。
この思いを紛らわせるんなら、何でもよかったのだから……。
2005.11.03UP