「おい、新入り!」
後ろから不意に呼ばれた大嫌いな通称に顔を顰める、がそれすらも暴走特急の名が相応しいと他負されている先輩の無駄に響く大声に阻害され。
「知ってるか?」
「……知らないです。何をですか?」
「オマエ、今日から旧新入りになるってよ!!」
よかったなぁっ!!と、先輩が背中をバンバンと叩く。華美なまでに煌びやかな飾り羽根がハラハラと落ちるのが、背中への衝撃と同様に不愉快であった。
「しかし興味深い話ではあるよな」
「……先輩、仕事はどうしたんですか?」
先輩の先輩――呼びにくいから先輩と呼んでいる――が「面倒だからサボって来た」と口角をつり上げてみせる。全く、コイツらはいつだってそうだ。それがどんな結果を招くかも判らず、解ろうともせず、只地上に居た頃の自らの怠惰な慣習を繰り返すだけで、此の場で必要とされているのが何なのか全く考えようとすらしない。
此の場で必要とされているのは、頭だ。
狂わないほどに、強靭な。
「何でも彼の男…………自ら、志願したらしい」
先輩の先輩が少し言いよどみながらも言い切ったその台詞に、澱み溜まっていたオレの思考が捻られた蛇口のように、堰を切ったダムのように、湯水の如く流れ出す。
(自ら、志願……?)
バカな。と思い、その刹那、(バカなのだろう)と思い直す。
そう。きっと此の場で必要なのは狂おしい環境に気付けないくらい馬鹿な頭でもあるのだろう。
「志願、ってよっぽどのバカなんだろうなぁ、その新入りは」
「違いないな。こんな悪環境、自ら望むなど狂気の沙汰だ」
嗚呼、オレも其のくらいの馬鹿になれたのなら、こんなにも苦しまずに済んだのかもしれないのに。
後書き
「テンジョウ裏」なのか「裏話」なのか。
11/06/01
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