テンジョウ語り
昔々、とまあ御伽噺を始めるつもりではないのだが、私がまだ人間だった頃、なりたい職業があった。と此処まで云えばまあ今こうしてくだをまいている様からも察せるように当然のごとくその職業には就けなかった事は自明であるのだが、残念ながら今でも私はその職を夢見ずには居られない。もしも自分があの時、あの選択をしていればと悔やまずには居られない。そして正直な話、今手にした職を棄ててでも私はその地位を手にしてみたいと 「やめてください」
と、僕は上司の長々しい自分語りに無理矢理歯止めを掛けた。あからさまに不満げな表情で此方を見据える彼と自分の間に、文字通り山となった書類の束を置き全てを遮断。微かに聞こえるくぐもった声の恨み節が鬱陶しかったので、ツンと書類を小突き小さな自然災害を起こしてみれば、一瞬の聞き苦しい音の後にそれはもう大層過ごしやすくなった。
というのも最早毎日の光景で、一連の流れがノールックで出来るようになったのはパブロフ先生の賜物だと思う。ただ違いがあるのは発端となる彼の愚痴だけで、それすら聞く気がない自分にとっては単なる作業の一つでしかないのだが。
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。今日のは真面目な話なんだ」
ただ彼にとっては違うようで、今日も僕は「真面目な話」を聞かされる羽目に陥る。数週間前から彼はこの手法がお気に入りらしく、また「真面目な話」と言われた手前自分もそれを無碍には出来ないのが何となく歯痒い。
「……そう言って、真面目な話だったことが今までありましたか?」
「やだなぁ、私はいつだって真面目だよ?」
小さな反目も意味を為すことはなく、僕は小さな溜め息をつく。それを見た彼が「年寄りくさいよ」と笑った。
「……貴方には言われたくありませんね。僕の何倍生きていると思ってるんですか」
「だったら、少しぐらい老人の愚痴に付き合ってくれてもいいんじゃないかな?」
そう言ってクスクスと笑う彼に、僕はまたひとつ溜め息をつく。どうにも彼との会話は分が悪い。まあ上司に口で勝とうというのがそもそもの間違いなのだろうが。
「まあ……愚痴ぐらいならいいでしょう」
「ぐらい、ってなんだ。ぐらいって」
「実行に移されたら困るんですよ」
頬を膨らまし、不満の意を表現する上司の顔を平手で打ち、僕は続ける。
「神が神を辞めたら大変な事になるでしょうが」
神様は、またクスクスと笑った。
まるで、「もう手遅れだ」とでも言うように。
ゆるーい神様に振り回される天使君のお話。
一番好き勝手思うままに書いていける話なんで結構面白いです。
面白いけど、特に終わりが用意されていないのが不毛。 10/04/22
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