【第一色 燃え上がれ!赤き闘志】





――――――これは人知れず悪と戦う、勇猛な戦士たちの記録である。




 右からの爪撃を避けるため地を蹴った脚を、そのまま上方に回す。空に浮かぶ太陽のように丸くなり、遥か上空で後方へと弧を描くように回転しながら相手の様子を見る。




 硬質な体毛の下から覗く隆起した筋肉。


 ナイフのように鋭い黄色い牙、爪。


 赤黒い舌がだらしなくはみ出た口。


 突き出した鼻先。


 尖った三角の耳。



 それは上半身が狼、下半身が人間という異形の姿。
 そう、完全なるバケモノだ。


 こんな奴らと戦うようになって、どれくらいの年月が過ぎただろうか。
 突然の転換点……その瞬間を覚えてはいるが、経過した時間はどうにも掴みがたい。
 それは同じ行為を繰り返し続ける慣れからきたものなのか…………そう考えると、見掛けほど華やかではない自らの職業にも苦笑というものだ。

 着地する胸前、俺は赤いタイツに包まれた腕を交差させる。
 そこから腕を組むようにして内側から回し、着地と同時に勢いよく両脇へと開いた。


 その手には、金色に輝く、双剣。


「こっちだデカブツっ!!」


 顔を覆う覆面越しのくぐもった挑発に、野獣は唸り声を上げて応じた。
 直線的な突進。至ってシンプルな……そう。バレバレなんだよ。

 眼前数メートルで轟音と共に、猛る姿、その背丈が不意に小さくなる…………否、奴の踏みしめた地面が突然降下したのだ。
 突如として踏みしめた大地が消失した衝撃にバランスを崩し前のめりになった奴の頭を踏みつける。卑怯?知るかよ。死と隣り合わせの現場に正義も糞もあるか。

 逃れようと暴れるバケモノの体を、意志を持つ生物のように地面が隆起し、覆っていく。段々と自由を喪っていくコイツの姿が滑稽で、俺は特に隠す素振りも見せず、笑った。
 血走った目で忌々しげにこちらを睨み付ける化け物の眼前に、金色を煌めかせる。ひゅっ、と息を呑む生々しい音が、一層加虐心を煽る。
 わざとらしく緩慢な動作で右手の剣を上げ、神々しく陽光を反射させる。上出来過ぎる、一方的な蹂躙。正義の味方なんて大体こんなもんだろ?


「じゃあな」


 振り下ろした剣は金の軌跡を残しながら何ら抵抗も感じないままに人狼の首をはねた。
 大地の戒めが解けると同時に、異形が力無く地面へと倒れる。水平な切断面から絶え間なく噴き出す血しぶきが、先程までのコイツの「生」を色濃く感じさせ、不快感に小さく舌打ちをしてみる。
 何となく、苛立ちを覚えずにいられなかった俺は剣を一振りし、炎を灯した。原理はわからないが、わざわざ細かい事を問う必要も無いだろう。今の俺の気持ちにそぐう答えを持っている。それがこれの価値だ。
 一歩、死骸に近付くと噴き出した朱が着衣を汚す。こういう時、自分はレッドでよかった、なんて思う。


 …………そう、俺は、俗に言う戦隊ヒーローの、レッドだ。


 と、言ってもどこぞの研究者だか金持ちだかの戯れで作られた隠密組織で、休日の朝っぱらからガキ共がかじりつくような話の主役なんかじゃない。この世界に今も生きる神話時代の「異形」共を―――時に手段を選ばず―――秘密裏に処理するのが、俺の役割だ。


「そもそも、俺が本物のヒーローだったらこんなこと出来ねぇよな…………」


 血の噴き出す箇所へと燃える剣を押し付け、焼く。焦げて固くなった肉が蓋の役割を果たし、目障りな出血が止まった。
 安堵の溜め息をつくと焼け焦げた臭気が鼻を掠めて、不快感に顔をしかめる。


 ――――コイツはどこまで自らの生の名残を知らしめるつもりだ。

 なんて厚かましい奴なんだ。という端から見たら馬鹿馬鹿し過ぎるであろう思いに取り付かれながら、敢えてそれを妨げる事もせずに俺は感情の高ぶるまま、物言わぬ骸を切り刻む。最早血しぶきがかかるのも厭わずに、その存在を消滅させるためだけに。


 何度も、何度も。



「やあーっと見つけましたよーっ!」


 死骸が辛うじて数えられるくらいの肉片となった頃、遠くから間抜けな声が聞こえた。
 今日は後方支援―――そう、あの大地を操るあれ―――を担当していた同僚だ。ブンブン、と大きく手を振りながら近付いて来るそいつに、俺は切り刻まずとっておいた異形の頭部を投げつける。頭部はクリティカルヒットし、同僚はド派手に尻餅をついた。


「な、なにするんですかっ!!」
「お前、気持ち悪いからこっち来るなって再三言ってんだろうが」


 ちなみに、この言葉は自らの情動に任せての行為を見せないようにだとか、本当は素直になりたいのに逆の行動ばかりとってしまう女の子の真似だとかそういう気の利いた心から出たものではない。

 ただ単に…………気持ち悪いのだ。
 普通に。


「気持ち悪いって…………ヒドいですよー!アニキー…………」


 そう言ってしょぼんと俯いてみせる同僚。その行動自体は、まあ、百歩譲って気持ち悪くはないのだが。コイツが男であることを差し引いても、こんなマスク姿には「かわいい」なんて言葉を合わせられない。

 …………同族嫌悪だろう、って?同じスーツなんだから変わらない?



 問題はそれじゃない。
 コイツは…………茶色なんだ。



「ボクだって好きでこんな色になったんじゃないですよー…………」
「めそめそ泣くな。話しかけるな」
「アニキー…………」
「俺は先に帰ってるからそれ、処理しとけよ」

 ちらりと肉片を見やった後、俺は同僚と、自らの背徳に背を向ける。

「はい、了解です!」

 嬉しそうに返事する同僚…………そんなところもまた、一段と気持ち悪い。





 もっと俺を、軽蔑してくれたらいいのに。






――――――これは、ちょっと変わったヒーローたちの物語である。
【秘密戦隊 シークレット5】





後書き
変わったレンジャー書いてみたかったんです。
本家的には頼りがいのあるリーダーが好き。王道燃え。
10/01/22

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