レワネ






 また、だ。


 人知れずついた溜め息が、閑散とした自習室に虚しく響いた。


 最近、俺は自分を制御することが出来ない。

 高まる己の衝動を、外に出さずにはいられない。

 自分自身の意思に反した行動をとってしまうのだ。


 もう、何度目だろうか。


 手元に目をやると、無惨にもその衝動の餌食となったレポート用紙が恨めしげにこちらを見ているような錯覚さえ覚える。

 「何故、オレを裏切った」


 そんな問いに、返す言葉は俺にはない。
 自らの意思ではない、と言ったところで誰がそれを信じるだろうか。

 だから俺は、黙る。


 無言でレポート用紙を丸め、然るべき場所へと投げる。
 うずたかく、山のように積もったレポート用紙たちが俺を責めているような気がして、俺は思わず目を背けた。


 もう何度目ともなるその行為。

 そろそろ、終止符を打たねばなるまい。


 俺は鋭く息を吐き、指先に力を込める。

 全ては、この不毛な戦いを終わらせるため。


 まずは、縦に一筋。


 蒼空を引き裂く摩天楼のように直立した黒き道から、大蛇のようにうねる動きへと移行。

 手首のスナップは完璧だ。


 これまでに無いくらいに。



 人知れず勝利を確信した笑みを零しつつ、大きな弧を描く。




 ここ、だ。


 俺はいつもここで残った力を全て外へと放出していた。


 だが、それは間違いなのだ。



 外に出さず、内側に溜める。



 それが正しい術なのだ。




 荒れ狂う大河のようにほとばしる熱い力を抑えつけ、全てを内へと向ける。


 逸れかけていた軌道が元に戻り、レポートのうえに望みの文字が現れる。



 ――――勝った。




 そう思ったのが、間違いだった。


 一瞬の、油断。



 内へと巻いた力が、外に向かい、突き出て、止まった。





 …………そう、俺はまた書き損じてしまったのだ。





 わ、を。





後書き
何度書いても「わ」が「れ」とか「ね」になりますよね。
普段は「あーあ」で済みますけど急いでいるときだと本当手を千切りたくなる。
09/09/14

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