夢狩り

 





【男は、街の広場にいる】




「キミの夢をくれないかい?」


陽光の中、十二時を示す時計の下、独り遊んでいる少女に男は言った。


「夢?」


闇を思わせる暗黒色の背広を纏った身なりのいい男に少女は言った。


「そう、キミの夢がほしいんだ」
「なんで?」


それはとても自然な問い。


「なんでも」


それはとても自由な答え。


「不思議な人」


そう言って少女はどことなくぎこちない微笑みを浮かべる。


「キミもだよ」


男は微笑みながら続ける。


「そんなキミの夢がほしいんだ」


少女は少し悩んだあと、久しぶりの話し相手に答える。


「いいよ」
「ありがとう」



こうして、少女は永久に夢から醒めてしまった。







【男は、町のゴミ捨て場にいる】


「キミの夢をくれないかい?」


街灯の下、工場のゴミを漁る少女に男は言う。


「……夢?」


不意に物陰から現れた男に驚きながらも、少女は言った。


「そう、キミの夢がほしいんだ」
「夢……」


少女は考える。
自分の夢……それは、貧困にあえぎ昼夜働く両親に楽をさせてあげること。
その夢を差し出してしまったら、どうなるのだろうか?

「大丈夫」


少女の心の問いに答えるように男は続ける。


「タダで、なんて言わないさ。キミが夢をくれれば、お父さんやお母さんには相応のお金を払うよ」


少女はその言葉を聞き、迷わずに答えた。


「わかったわ」
「ありがとう」


その後、男は少女との約束を守り両親に金銀と夢の搾りかすを郵送した。







【男は、王宮の中庭にいる】



「貴女の夢を戴けませんか?」
「あら、此処は関係者以外立ち入り禁止よ?」


どうやって入って来たのかしら?と突然現れた男に少女は臆することなく笑いながら続けた。


「人はほしいものの為ならば何だって出来るのですよ」


男が答えると、少女は微笑みながら言う。


「それなら貴方がナイトになってくれた方がいいかもね」
「私なんかに、綺麗な夢を持つ貴女は釣り合いませんよ」
「またまた、冗談がお上手なのね」


少女は笑いながら続けた。


「…………私は夢なんて持ってないわよ?」
「いいえ、そんなことはありません。覚えていなくとも毎晩夢をみていることがあるように、誰にだって夢はあるのですよ」
「可笑しな人」


優しい笑みを浮かべながら言う男を笑いながら少女が言う。


「その夢をどうするの?」
「集めて、もっと大きな夢にするのです」

大切な、と世界を憂うような笑みを浮かべた少女に微笑みながら男は言う。


「やっぱり可笑しな人」


小さく、でも確かに微笑んだ少女は答えを出した。


「私の夢なんかでよかったら」
「ありがとうございます」


男が少女の夢を入れたところで、ボトルは満たされた。






【男は、町外れの小屋にいる】



「沢山夢を持ってきたよ」


最近街を賑わす怪事件の記事を読む少女に、男は優しく声をかける。


「ありがとう、お兄ちゃん」


数十本のボトルを持って帰った男に、少女は消え入るようなか細い咳混じりの声で礼の言葉を述べた。
その痩せこけ蒼白な色をした手をとり、男は言う。





「さあ、お風呂に入ろうか」






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