ぷかぷかと、煙を浮かべる。


 目の前一面に広がり、自己主張をしてくる明るい薄青の空に、雲を描いてみたくて、反旗を翻してみたくなって、ぷかぷかと。
 煙はふわふわと流れ、空に昇り、消える。


――――ああ、まるで、魂のようだ。


 そんな感慨をうっすらと抱きながら、ぷかぷか、ぷかぷかと煙を送る。
 空は、未だ、薄青のままだった。




煙る視界







 町の喧噪を下に見る、この繁華街のビル……の非常階段。
 その何とも言えない立地が非現実的で、大好きで、俺はよく此処で煙草を吸っている。
 この世にいながらこの世にいないような、そんな怪しげな陶酔感が自分を包む感覚が、苦行を受ける様をおくびにも出さずに働くモノたちを後目に、煙草を吸えるという優越感が、誰も立ち入ることのない、秘密基地のような雰囲気が、本当に心地よくて。



 ……人はそれをサボタージュ故の開放感とでも定義するのだろうが。




「アンタ、なんでこんなトコにいんのさ」


 聞き覚えのある声に、踏み板に腰掛けたままの姿勢で振り返る。いつものように黒髪の少女が階段の上から俺を凍るような冷たい目つきで見つめていた。

「いや、なに、休憩だよ」
「ロクな仕事もしてないクセして何が休憩よ」
「キッツいこと言うなよな、いくら俺が無能だからって平等な権利の1つさえも貰えないってことはないだろ?」
「……本当、口だけはご立派」

 そう言って少女は手すりにもたれかかりながら外見不相応なほど悩ましげに溜め息をついてみせた。

「で、その無能さんはいつになったらお手伝いをしてくれるのかしら?」

 アンタ、上司からアタシの手伝いをするように言われたんじゃなくて?と、不満たっぷりの口調で彼女は言った。その様があまりにも子どもっぽくて、思わず笑ってしまうと痛烈な蹴りが飛んできた。

「仕事しないなら帰りなさいよね」
「あーあ、そんなこと言っちゃって。俺本当に帰っちゃうぜ?そんなこと言うと」

 鳩尾の辺りを押さえながら強がってみせるが、少女はこっちを見ることもなく「アンタがいなくなれば何でもいいわ」なんてとりつく島もない台詞を吐いた。

「強がっちゃって、本当素直じゃねーな。ちょっとは本音漏らしてくれたっていいんじゃねぇの?」
「何、バカ言ってんの?」

 わざとらしく溜め息を吐きながら吐いた台詞に彼女が物理的にもツッコミを入れたその瞬間、市街地から響く、爆音。



 今だ。



 面食らったように目を丸くしてみせる少女の元まで、飛翔。そのまま耳元で、「とっておき」を呟く。


「よかったな、少しでも長く一緒に居る理由が出来て」





「ついでだからアンタも死んでみる?」

 鼻先スレスレを掠めた鎌。その柄を思いっきり蹴り飛ばし、加速をつけてすっかり煙った空へと逃げる。
 危ない危ない、もう少し反応が遅かったら俺もあの煙の中に混ざっていたとこだった。導き手が一緒に死んでちゃ世話ねぇよ。あ、でもそれであいつに危害を加えられることなく会えるっていうならそれもいいかもしれないな。なんて、盲目的な迄に恋してたんでお仕事出来ませんでした、とか言ったらまたあいつに怒られるんで今回こそは真面目に死人の仕分けしようと思います。



後書き
題材[騒々しい,階段,助ける,今だ]ボーイ・ミーツ・ガールでやってみよう! http://shindanmaker.com/9025 #sdai
ってことでした。ミーツ出来ませんでした。
10/09/25

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