a 何かこの話で一回死んだ気がする

 憂鬱な灰色の空に親近感を覚える僕は、どこかおかしいのだろうか。



睨夢






 思い返すだけ無駄な気もするが、その日も僕はいつものようにどうでもいい日々をこれまたどうでもよく無意味に繰り返していた。特に何も変わらない日常に対する「飽き」などという漠然とした感情はもう殆どあってないような物と化し、それすらも最早日常になっていた。
 よく「人生はゲームだ」と言う奴がいるが、もしそうだとしたら僕の人生はゲームギアやリンクスなどといったハードで発売されたマイナーなゲームなのだろう……それもゲームバランスに致命的な欠陥があるような。


 そんな風に普段から思っていたから、この日の放課後に僕が学校の屋上に上ったのもある意味必然だったのかもしれない。
 しかしそんな思いを抱きながら上った屋上から見る景色さえも現実味に欠けていて、試しにフェンスから身を乗り出してみてもやはりそれは変わらぬままだった。
 変わらない毎日に刺激を求めてそうしたのにも関わらずに。



 僕は誰もいない屋上で何もかもが思い通りにいかない事への苛立ちから人知れず溜め息をついた。



――――そもそも、生まれてこの方一度でも何かが思い通りになったことがあっただろうか?


 ふと、そう思い至る。

 そういえばこうしてこの世界に生まれてきてから……いや、寧ろ生まれてきた事さえも誰かに決められていたような……そう、ずっと何かに操られてその何かの意思に従って生きてきたようなそんな気もする。


 今まで僕が何かをした時、そこには本当に自分の意志があったのだろうか?

 僕自身が、本当にやりたいと思ってやった事が1つでもあっただろうか?

 今この屋上に来た事だって自分の意思と胸を張って言えるのだろうか?



 …………馬鹿馬鹿しい。



 今更何を考えているのだろうか。怖じ気づいたとでも言うのだろうか?例えそれが自分ではない誰かの意志による行動だったとして、何が変わると言うのだろうか?
 多分、おそらく、きっと…………確実に何も変わりはしない。



 永遠に。



 半ば強引に意を決した僕は大きく深呼吸をして……おもむろに地面を力強く蹴飛ばした。


 木が、石が、土が、世界が反転し今まで見たことも無いようなスピードで僕に襲いかかってくる。
 家が、街灯が、町が、自分以外の全てが反転し僕の知らない一面を見せる。
 人は死ぬときに今までの記憶が走馬灯のように駆け巡るというがこの時の僕にはくだらない過去の記憶なんかどうでもいいものでしかなく、更には自分が逆さまに落ちているだけだという事実をはっきりと知覚していながらも眼前にある生まれて初めて見た新たな世界の様相に胸を弾ませてさえいた。

 前を見ると大好きな灰色の空があった。手を伸ばせば届いてしまうほど、近くに。
 手を伸ばして、触れようとして、僕は気づいた。


 これは空じゃない。
 コンクリートの、地面だ。


 薄れていく意識の中で僕は「ぐしゃり」という何かがつぶれたような生々しく気持ち悪い音を聞いた。
 次の目覚めは大分悪くなるだろうと考えたが……もう二度と目覚める事は無いのだと思い出して僕は自嘲気味に小さく笑った。



 意識が、途切れた。






「ああ……っ!!」


 誰かの声が聞こえる。
 僕はもう、死んだはずなのに。

「どうした?急に。」

 これは……夢なのだろうか?それとも……地獄なのだろうか?
 しかしながら、どちらにせよあまりにも感覚がハッキリしすぎている。


「18歳まで順調に育てたのに死んじまったぞ……こいつっ!?」
「18ならまだいいじゃないか……オレなんか126歳まで育ててバッドエンドだったからな。」
「おかしいな……イベントは全部最良の答えで切り抜けたはずなのに……」

 バッドエンド……イベント……
 どこかで聞いた事のある言葉に僕は反応し、目を開けた。

 目の前には大きな画面があった。
 画面には二人の男の顔がアップで映されており、彼らはこっちをじっと見つめ……いや、睨んでいる様子だった。
 赤く充血した眼が気持ち悪く、思わず僕は目を逸らす。


「能力値見せてみろよ……あ、こりゃ駄目だ。芸術的才能値の文学のポイントが高すぎるんだよ。」
「文学?」
「ほら、ダザイとかアクタガワとかミシマとか……有名プレイヤーが作りあげたキャラでも名作は作れたけどクリアまでこぎつけた奴はいないだろ?」
「そうか……やっぱ芸術家系キャラを育てんのは難しいんだな」

 能力値……プレイヤー……クリア……

 そこまで聞いてようやく僕は気付いた。



 僕は……



 僕は…………






「ま、とりあえずリセットするわ。17の誕生日ぐらいからなら巻き返し出来るだろ」



 カチッと音がして、僕の意識は完全に途切れた。




後書き
このサイトに載せている文章では多分最古。
あなたもわたしもゲーム世界の住民なのです。だから、死んでも救われないよ。
08/01/28

TOP/BACK

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル