黒豹承太郎×犬花京院 ※以前上げていたssを直したやつですぬるい暴力注意
 
 
誰よりも疾く駆け君のもとへと
 
 
 
最初の出会いは村の近くの森だった
罠に掛かった哀れな動物の鳴き声をききとって見に行く
黒い毛並みの猫よりも一回りほど大きい程度の大きさのその獣は
罠に足を挟まれ血を流しながら鳴いていた
未熟な獣は悪戯に人の里に近づきその好奇心の代償を払わされた
 
自業自得だ
 
それが村人が恐れる肉食の獣の仔だということはわかっていた
いづれこの仔が大きくなって自分の飼い主やその子を噛み殺すことになるのかもしれない事も
それでもその仔を助けようと思ってしまったのは
その碧の瞳があまりに美しかったからだ
 
近づくとその仔は痛む脚に力を入れ懸命に自分を睨み付け毅然と立ち上がろうとした
森の王者の威厳
末裔として家畜に見下げられるのは耐えられないと言う様に
その気高さに尊敬すら覚えた
さらに近づこうとすると途端獣の仔は唸りをあげた
「こんにちは小さな王様。僕は花京院。人間の飼い犬だけど君に危害を加えるつもりは無いよ」
ゆっくりと近づきその足元に跪く。
梃子を利用して仕掛けを解除し罠を抉じ開けると、その仔は僕からすぐさま離れようとした。
が脚の怪我で儘ならない様子だった。
「折れてはいないようだけどその怪我じゃ森の中に戻るのは無理だろう
 親元に帰るまでに襲われてしまうよ
 しばらくここで休んで治していくといい」
戸惑う様子を尻目に脚の傷を舐め薬草を牙で噛み砕いて傷口に塗ってやる。
木陰にその仔を隠して餌と水を運んだ。
一週間も続けると傷はすっかりと良くなった
若い野生の獣の回復力の強さに関心した
古い罠で張力が弱まって骨が砕けるまでいかなかったのが幸いしたのかもしれないが
「ありがとう」
森に帰るその日初めて君が口を開いた
「驚いた。君ちゃんと話せたんだね」
「馬鹿にしてんのか」
苦虫を噛み潰したように顔をそらすその態度に
苦笑して
「お礼なんかいいよ。ただの気まぐれさ。只もうこの近くにはこない方がいい。
 今度出会ったときは人間の敵として君を追い返さなくちゃならない」
警告を与える
君はじっと僕の瞳を見つめわかったと一言返した。
森の中にその姿が消えるまでじっと見送った
 
 
 
それから一年
 
 
 
村の周辺で黒い獣を見かけたと人々が頻繁に囁くようになったのはつい最近のこと
彼が又やって来たのだと何故だか直感的に僕にはわかった
村人たちの怯えが本格的になり
ついにその決定が下された

もうすぐ狩りが始まる

ああ、あの時君がわかったと頷いたのは嘘だったのだろうか
はやくはやく君を森の奥に帰さなければ
そのために僕は走った
狩りの合図が鳴り響くその前に
懐かしい匂いをたどり君を見つけ出す
 
 
誰よりも疾く駆け君のもとへ
 

懐かしいその仔は本当に人里の目と鼻の先の森の中にいた
「来たか」
美しい碧の瞳はそのままに君はすっかりと成長していた。
幼なく可愛らしいといっても良かったその面は美しく精悍に
黒くしなやかな体は自分よりも一回りも大きく、爪と牙は鋭く白い光を放っていた。
「・・言ったはずだ
村にはもう近づくんじゃないと」
近づこうとするその動きに牙を剥き唸りをあげ牽制する。
ここで甘い態度をとればまたこの村に近づこうとするかもしれない
そうなれば今度こそ人々は用意した火器でこの仔を殺すだろう
そうならない為に必要なのはこの仔に此処が自分のいるべき場所ではないのだと思い知らせることだ
だがその仔は怯みもせずに言ってのけた

「お前を迎えに来た」

一瞬意味が解らずに瞬く。その様子を眺めながら眼を覗き込んで繰り返す
「お前を俺の伴侶にする。今日から俺は森の王になった。 王には伴侶が必要だ。俺と番え花京院」
 
間。
 
何を。何を言っているんだろう。この仔は。
ああやっぱりまだまだ子供なんだ。
自分が突拍子も無いことを言っていると理解もできていない程に。
そう思ったら何だか笑いが込み上げてきて思わず顔に出してしまったようだ。
その笑を肯定と受け取った君は自身も笑む。

「無理だよ」

きっぱりと言うと、とたんに君の顔が強張った。
「わかってないようだな
 僕は村を出る気はないし、君は森の獣だ。一緒にはいられない
  種族が違うものは属すべきところも違うんだよ。
 領分を違えるんじゃない
 第一君も僕も雄だ。番になんてなれっこないだろ。」
 
だから大人しくお帰り。
 
噛んで含めるように言い聞かせる。子供にも理解できるようにゆっくりと優しい言葉で
それでいて厳しく冷たい声色で。
じっと君が僕の瞳を見つめる。
美しい碧色が木漏れ日を受けてキラキラと光っている
やっぱりこの瞳が二度と見れなくなるのは残念かもしれないな。とも思う
でも仕方の無いことだ、お互いの領分を違えることは出来ない
森の獣は森へ、家畜は人のもとへ。それが決まり
綺麗な碧を眺めながらそんなことを考えていると
段々とその色が濃く色味を増していく。
気がついてその顔全体に焦点を合わせると

凶悪な笑みを浮かべた黒い獣がそこにいた

しまったと思った瞬間にはもう遅かった

後ろへ飛び退く間も与えずに
影が一瞬で覆いかぶさり地面に押し付けられた

「わかって無いのはてめえの方だぜ花京院」

抑え付けられた体を必死にもがかせて抜け出そうと試みる
だがしなやかで強靭な肉体の強固な力の前では無駄な足掻きだった
肩に噛み付かれ鋭い痛みに思わず悲鳴が漏れた
彼が噛み跡に滲む血を舐めてすする
興奮に息が乱れ喉が鳴っている

確かに、わかってないのは自分の方だった
昔の子猫のような稚い面影ばかり追って現実がみえていなかった。
目の前にいるのは獰猛な野生の獣であり捕食者。
人の地で安住している自分などその気になれば簡単に噛み殺せるのだ

今更悟ったところでもう遅い

組み敷かれた今では逃げることなど到底儘ならなかった。
「ここは人里じゃない、森だ。そして俺は森の王になった。
 ここでの規律は俺が決める。てめえは自分から此処に来たんだぜ。
 なら既にお前は俺のものだ」
何て勝手な。そう言おうとしたが言葉は腿に感じた熱に引っ込んだ。
相手の喉を食い破る捕食の喜びが違った方へと差し換わる

「!!やめっ」

制止の声は届かなかった。
そのまま熱が無理やりに体の中に押し入ろうとする。
何度も力に任せて体を地面に伏し押さえられ息が出来ない
やがて僅かながらに減り込んだ熱が躯を開いていった
酷い異物感に嘔吐が込み上げ、痛みに視界が暗くなる
荒い息遣いがだけが意識を支配し手足の感覚が薄れていく
そのまま僕は気を失った
 
 
 
 
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