パチパチと燃え盛る炎は、その派手な音とは裏腹に虚ろだった。 「どうした?」 魅入られたように炎を見つめる仲間の横顔が奇異に思えたらしく、 傍らの同僚が問うてきたが、いや、と藍染は曖昧に笑うだけにとどめておいた。 この火が虚ろだ、そう正直に答えたところで同僚が自分に対して覚えた奇異さが 強まりこそしても薄まることはないだろう。 当然、この火が内包する虚無が思いがけず心を打ったとは決して言えまい。 ……噂には聞いていたが、今まで自分の当直の日に事件が発生してなかったため 現場を目撃するのは初めてだった。 これで、このところ事件らしい事件のなかった瀞霊廷をやにわに 騒がせ始めた原因不明の出火は、5件を数えることとなる。 しかし、なんだろう、この何も感じなさは? 藍染は再び、闇色の空を真っ赤に染め上げる炎を見上げた。 放火であるとすれば火を放つ人間の心理として恨みつらみ妬み等、 行き場のない何らかの感情を解き放つ手段として事を行うことが多いように思うのだが、 目の前の火は何も孕んではいない。ただ、淡々と燃えているだけだった。 それは虚無を火葬しているのか、自らの虚ろさを覆いかくさんがために 派手に爆ぜているのかは判別しかねたが、どちらにしろ見掛け倒し以外の何ものでもない。 「被害は?」 そう尋ねる同僚の額には、火に煽られたせいかじんわりと汗が滲んでいる。 びっしりと額を覆うそのぶつぶつとした玉を、藍染は醜いと思った。 「相変わらず、被害者は0だ」 思わず目を背けながら、そう答える。 「ご立派なこった」 首筋で聞いた同僚の声は、心なしか皮肉っぽい色を湛えているような気がした。 わざわざ無人の、しかも住居が密集していない場所を選ぶあたり、犯人(もしもいるのなら)は、 相当周到な調査を行った後に、火を放っているのだろう。 だが。 「何をしたいんだろうな?犯人がもしもいるのなら」 住み手が見つからないままただ腐っていくばかりだったあばら家を燃やしただけに過ぎない犯人に、 何の感慨ももたないのだだろう同僚はしかし、 奇しくも普段と変わらない表情で藍染がまさに考えていたことをなぞるようにそう呟き、 小さく欠伸を漏らした。 「こんな所燃やしたところで、何の意味もないはずだが」 ……そう、犯人がいるのだとしても、この行為が何に帰結するのか? 焦点となるのは、まさにそこなのだった。 お祭り騒ぎのようだった今朝方の喧騒は嘘であったかのように、時は漫然と過ぎていた。 当直明けということもあり、本来ならば日が高くなるまで惰眠を貪っていてもよかったのだが、 火事の興奮が冷めやらなかったのか、藍染は寧ろ、日勤の日に起きる時間より早く目が覚めてしまった。 妙に脳の奥が熱く、やたらと喉が渇いている。 枕元に置いてあった水差しから温い水を喉に流し込み、当座の渇きを抑えた藍染は、 生暖かい風と柔らかな日光に包まれた外界を眺め、ふと吐き気に襲われた。 死という観念が希薄なこの世界ではすべての進行が遅々としていて、 まるでシロップのように甘ったるく粘ついた弛緩のみが頭上を覆っている。 昼と夜は、春夏秋冬は、現世の人間と同じだけこの世界の人間にも配分されるが、 現世と違うことといえば、その一連の流れに何の意味もないところだ。 死は、あまりにもこの世界から無縁すぎる。 この温さは心地よかったが、なぜか痙攣的に藍染に嘔吐感を齎すのだった。 次いで蚊に食われたわけでもないのに、なぜか藍染の皮膚を断続的に掻痒感が襲い始める。 掻いても掻いても、体のどこかが痒く、藍染は苛立ちを覚えた。 吐き気のあとに必ず訪れる現象――それが、原因不明の痒みだった。 ……一頻り全身を掻き毟った藍染が、やがてその痛みに安堵の息を漏らした時、 ひらりと一匹の黒い蝶が部屋に舞い飛んできた。 先程まで肌を引っ掻いていた右手の指を差し出すと、蝶はふわりと指先に着地し、 遠慮がちに第一関節までの僅かな面積にか細い手足を置くと、しばしの休息を愉しむかのように、 羽の位置をわずかに低くした。その軽い感触は、藍染にこそばゆさを齎した。 彼乃至彼女が帯びていた使命、それは、一番隊隊長からの通達であった。 被害もさしてないとはいえ、件数が5を超えたことで、 上の人間もやっと一連の火事を連続放火と認めることにしたらしい。 ――墓石でできているかと思うほど重い腰を上げざるを得なくなったといったところか。 思わず、失笑が頬を這う。 途端、手元から強い視線を感じ、藍染が視線を落とすと、黒い蝶と目が合ったような気がした。 なんとはなしに気まずい思いに囚われて右手を強く振ると、 黒い蝶は器用に羽を広げ、嘲笑いでもするかのように藍染の頭上を一周し、また外へと羽ばたいていった。 ……犯人が存在しているとしたら、恐らく今日もどこかを燃やすだろう。 飛び去っていく黒点を目で追いながら、藍染は漠然と、しかしそう確信した。 もしも犯人が存在し、それが自分の思い描いているとおりであれば、 遠くない未来に捕まることを予測し、それ以前にできるだけ多くあの火を放とうと思うに違いない。 藍染は立ち上がり、外出の身支度を始めた。 誰かが火を点けるのであれば、そいつがつかまる前にどうしても一度2人きりで会いたかった。 今日も蒼穹が頭上を覆い、太陽は生温い光を大地へと送り続けている。 ふらふらとあてもなく歩くことが不快で、散歩などしたことなどなかった。 しかし、今は目的がある。次に燃やされる場所を探すという行き先が。 ……思っていた以上に外の空気は甘く、藍染は解放感を覚えながらも、そう感じる自分が不快だった。 今まで自分が不快に思っていた行為が実は大したものではなかったのだという認識から目を閉ざす。 その先にあるものを見てしまったら、何かが瓦解するような気がした。吐き気や痒みの理由を追求することも含めて。 藍染は空を振り仰ぎ、宙を彷徨っているはずの時間に目を凝らしてみる。 早く、この身に何かの限界が訪れればいい。病気とか、老いとか、そういった生の限界を。 ――それが叶わないのなら、あの炎に同化して。 いけない。 反射的に藍染は立ち止まり、大きく息を吸い込む。 これ以上の思考は危険だと内心の声が訴える。 しかし、何が危険なのかを考えることすら恐ろしく、藍染はそれ以上何かを考えるのを止めたが、 次いで昇ってきた謎めいた敗北感が足を縺れさせた。 「6件目ですね」 藍染の傍らで、副官が呟いた。 「そうだね」 相槌にはできるだけ、この事象に対する無関心さを含ませたつもりだったが、 瞳はそれを裏切り続けた。何度も放心状態になり、我に返る。その度に炎を見つめ続けていた自分に気づき、 内心で舌打ちを繰り返す。 藍染の感情の動きに敏感な副官は、口とは裏腹に藍染が目の前の炎に魅入られていることに気づいたらしく 開きかけた唇を閉じ、再び炎を見上げた。 彼女の気配りは有難くもあり同時に不快でもあったが、それ以上にこの炎を見つめ続けたい欲求が藍染を縛る。 ……結局、闇雲に歩き回ったはいいが、犯人とは出会えることはないまま、出勤時間が 来てしまった。報告が飛び込んだのは、後ろ髪を引かれながら五番隊執務室に向かい、 心の半分を戸外へと彷徨わせながら仕事に取り組んでいた最中だった。 今まさに6番目の火がとうに暮れきったはずの太陽の匂いが未だ棚引く中、 息せき切って駆けつけた藍染の目の前で絢爛優美なその実何の中身もない円舞を披露していた。 ゆらゆらと風に煽られて跳ね回る。リズムはそう、タランテラ。 流れ込む場所を失い徐々に澱んでいく水のような美しくも醜いこの世界を 裂くように誰かの自意識を孕まず淡々と燃える火は、当然何かを燃やしてはいるのだが、 炎特有の義務感からこの世の一切の事象から完全に切り放されていた。 まるで何かを射るという目的から解放され空に向かって飛ぶ嚆矢のように 孤高な存在として。 この炎がすべてを飲み尽し燃えつきた後の世界を見たいと、藍染はその時、無性に思った。 完全なる虚無の炎によって浄化されたこの世界では、 秩序はおろか、時の流れすらも一新されているだろう。 藍染は寧ろ、この炎を熱狂して見つめる自分を感じた。 すべて燃やしてしまえばいいのだ、何もかも。 何もかも跡形もなくなるくらい。そうすれば、一から始められる。 ……しかし、それも一瞬のことだった。 こめかみをきつく押さえ、藍染はそれ以上の思考を無理やり静止させる。 誰かを熱狂させる行動をとるのは、自分だけであり、 他の誰かの手で行われてはならないのだ。 呪文のようにそう唱えているうちに、藍染は目の前にどす黒い憎しみを抱き始めた。 そう、この炎がすべての元凶だ。 寧ろこの火を放った人間は、裁かれねばならない。 「つまらないな。帰ろう、雛森君」 「えっ?」 唐突に踵を返し、早足で歩き出した藍染の背に、雛森の訝しげな視線が突き刺さったが、 足を止めて彼女を待つ気分にならず、黙々を足を運ぶ。 小走りで藍染に駆け寄り、藍染の顔を何気なく覗き込んだ彼女は、微かに息を飲んだ。 「藍染隊長……」 何かを慮るかのように、微かな声で雛森は藍染の名を呼ぶ。 「どうしたんだい?」 「どうかなさったんですか?」 「なぜ?」 雛森は少し言い淀んだが、意を決したように口を開く。 「何か怒っていらっしゃるみたいなので……」 「ああ、こうした愉快犯を、僕は到底許すことができないと思ってね」 耳に心地よく響くような理由をでっちあげると、不安そうだった雛森の顔が 穏やかな安堵に染まった。 「本当にそうですよね」 藍染の言葉を噛み締めるように、力強く何度も頷く。 そんな彼女を、人形のように愛らしい彼女を、藍染はそのとき、愛おしいと思った。 だから、藍染は今日も闇雲に歩く。 大地はその肌を晒し、小石が太陽の光を浴びてうっすらと光を放っている。 土の匂いが柔らかに鼻を擽りながら、朝方に吸い込んだ冷気を暖めんと両手を広げていた。 そんな大地の迎合を、阻むように黒々とした色を差しかけているのは、藍染の影。 自分が生み出した影の頭の辺りを、まるで押し潰したいかのように踏みながら、 藍染は黙々と歩く。 してやられた昨日。しかし、既に連続放火魔と断定され、犯罪の域へと押しやられた今となっては、 彼も以前のように悠長ではいられないだろう。 きっと、今日も火を放つ。絶対に。 ……藍染は足早に歩く。まるで、犯人が今すぐに逃げてしまうとでもいうように。 火を放つのは夜だと誰もが思いこんでいた。 しかし、それは勝手に規定していた限定であるのだから、その頸城の中にいない彼自身は完全に自由なのであった。 確かに考えてみれば放火魔として中央四十六室から犯罪者の烙印を押された今、 夜に火を放つことは危険極まりなく、また夜でなければならない理由がないのだ。 今までの犯人の行動から事を起こすのは夜であろうと暢気に構え、日中も普段は手が回らない辺境地を見回ろうという 考えすら浮かばないこの世界の住人のそのお気楽さには失笑を禁じえない。 ……しかし、そんな彼らを嘲笑いながらもある意味では同じ穴の狢である、この自分。 その帰結が、藍染の目の前で緩慢な空気を喰らいながら、大きく膨らみ始めている。 この世界を否定で埋め尽くすように。 「君だったのか」 そう言うと、彼ははうっすらと笑って、ゆっくりと一度、目をしばたかせた。それは是の合図に他なかった。 「もっと早く気付くと思うててんけど」 耳触りのよい西の言葉でかつての副官はそう呟き、細い首を右へと倒ける。 その不健康なまでに白い首に浮いた一本の筋が炎に照らされる様は、妙に艶やかで艶かしかった。 「意外と遅かったですな、藍染隊長」 「言い訳があるなら聞こうか」 犯人を追い詰めた追跡者の口調でそう言うと、市丸は密やかに声を立てて笑った。 その笑い声が、妙に鼓膜のあたりで粘つく。藍染は不快感を抑えきれず、思わず頭を振ったが、 自らが立てる笑い声が藍染にどのような効果を与えるのか予め承知していたかのように、市丸は しばらくの間、笑うことをやめなかった。 何故笑う? そう問いたかった。問い質して楽になりたかった。 しかし、藍染は無表情を保つことに意識を集中させる。 「僕が何を言うても無駄やと思いますけど」 やがて、笑いを止めて彼はそう言ったが、まだ笑いの発作は堪えられないのか、 時折よがるように肩を震わせた。 「どういう意味だ?」 何もかもが不愉快だった。彼の何かを含んだようなその態度も。燦々と降り注ぐ熱すぎる太陽の光も。 それを増長するかのように、燃え盛る炎が当たり前のように流す、その熱気も。 「藍染隊長かて、この火に魅了されてここまで辿り着いたんでしょうに」 しれっとした顔でそう言い放った市丸は、不意をつかれて藍染が黙り込んだ途端、 最初からこの自分には興味など持っていなかったといわんばかりの残酷な無関心さを 隠そうともせず、空気の力を借りて爆発的なスピードで膨らみ始めた炎へ視線を転じた。 炎を一心に見つめる彼の目は熱に潤み、半開きの唇からは僅かに白い歯が覗いている。 こうした彼の恍惚とした表情を、藍染は今まで見たことがなかった。 ……産毛を金色に光らせ、炎を法悦的に見つめる市丸の横顔を不意に殴り倒したい衝動に、突如、藍染は駆られた。 彼が茫然とこちらを見る様が無性に見たい。 しかし、それは、理想と願望と義憤と虚栄と驕慢とを練り上げて作った仮面を破壊することと同義であることを 藍染は痛いほどよく知っていた。 ……無自覚に握り締めていた拳をほどき、藍染は溜め息を漏らす。 その間、彼は傍らの自分を一顧だにしなかった。 「そろそろ、退散せな」 心底、名残惜しそうにやがて市丸はそう呟いたが、視線は相変わらず 炎に張り付いたまま動かなかった。 その彼の手首に、鼠色の灰が張り付く。 それにすら気づかない彼は、ただうっとりと茎のように屹立する炎を見つめ続けていたが、 藍染は彼の白い肌に浮かぶその染みから目が離せなかった。 その一点がじわじわと彼を侵してくれれば。 そして、彼をどす黒く染め上げてくれれば。 しかしそんな藍染のかわいらしい願いすらも、糧に過ぎないとでも言うように、 相変わらず炎は無感動に燃え盛るばかりだった。 だとすれば、もはや。 ……蝶のように止まった一片の灰ごと彼の華奢で骨っぽい手首を掌で包み込むとごつごつした手触りがしたが、 肌の感触はひどく滑らかで心地よかった。 ああ、自分は醜いことをしている! 寧ろ、己の醜悪さに酔いしれながら、藍染は飴玉を味わうようにしばらく口の中に用意した言葉を嘗め回した。 「お前を連行する」 やっと市丸は藍染へと視線を向けた。 まだ興奮冷めやらぬ彼の表情は変わらずうっとりとしたままで、それが藍染にぞくぞくするほどの快感を齎した。 ――それが、錯覚に過ぎなくても。 やがて、市丸の表情は平静さを取り戻した。いつもの市丸となんら変わらぬまま、 自分の手首を握り締める藍染の右手をしばらく見つめたが、特に何も言わず、また逆らおうともしなかった。 やっと駆けつけた警備の者に藍染は手を振って合図した。 「犯人を捕まえたよ」 警備の者は藍染と、藍染に手首を捕まれている市丸の顔をぽかんとした顔で交互に見つめた。 無感動に燃え盛る炎と、男同士で手を絡ませる2人組と、間が抜けた顔でそれを眺める男と。 コメディの様相を呈してきたこの状況に、藍染は内心で安堵の吐息を漏らす。 そうだ、こうやって市丸が思い描いていたことはすべて、ひとつの笑劇と化してしまえばいい。 仰天し、慌てて上司を呼びに戻る男。――そして。 「すんまへんな、藍染隊長」 警備の者の背を淡々と見つめながら、市丸は不意に口を開いた。 「何がだい?」 問い返す声が、掠れた。 「悔しい気持ちにさせてしもたみたいで」 目の前がスパークした。 気づくと、藍染の空いた左手が市丸の頬を殴りつけていた。 「痛……」 思い切り殴られたせいで口の中が切れてしまったらしく、市丸は血の混じった唾液を地に吐き、 うっすらと笑みを浮かべた。 ああ、これでは笑劇にならない。 空白になった藍染の脳に、ふとそんな思考が浮かんだ。 「かわいそうですね」 「かわいそうなのは、お前だ。こんな下らない犯罪に身を落として」 渦巻く憤りをそのまま市丸にぶつけたが、市丸はさらりと炎を振り返って身をかわした。 「でも、僕は辿り着けましたよ。あなたが思い描いていた場所に、あなたより先に」 炎で満たれたあばら家を、市丸は顎でしゃくってみせた。 「お前はどこにも辿り着いていない。お前は、ただ火を放って、混乱させただけだ」 そう、お前は何にも辿り着いていない。 下らない混乱を手に入れ、それを高尚な何かだと勘違いしているだけだ。 寧ろ、かわいそうなのはお前の方だ。 ……何も言わずに、市丸は哀れむような笑みを藍染に投げかけた。 途端、全身を羞恥の熱が藍染を苛み始める。 わかっている。すべて、わかっている。なのに、認められない。 ……不意に、ざわめきが藍染の耳を打った。 「ああ、来よった」 藍染の背後へと視線を向け、市丸は独りごちた。 機械的に振り返った藍染の目に、数人の死神たちが駆け寄ってくる様が映ったが、 それが何を意味するのかわかりかね、呆然とする。 空転する脳。 「こないな微罪やったら、僕はすぐ戻ってきますよ」 鮮明なのは、彼の皮肉めいた笑顔だけだった。 「それまでに、僕を殺す方法、考えておいた方がええんとちゃいますか?」 噛んで含めるような柔らかい囁きを市丸は藍染の耳朶に吹き込み、静かに藍染の手を振りほどいた。 未だ彼の温もりが残る右手をぼんやりと見つめると、掌の中央にぽつんと潰れた灰がこびりついていた。 ああ、彼が行ってしまう。 寧ろ、こうなる前に殺しておくべきだったのだ。彼の言うとおりに。 空白になった脳にぽつりとそんな考えだけが、真昼の月のように浮かんだが、 もはや藍染には、連行される市丸の背をぽかんと眺めること以外の選択肢は残されていないのだった。 |