結局のところ、繰り返すだけなのだ。


人格を持った虚たちは、これまで接してきた人間たちと何一つ変わらないように市丸の目には映る。
何かを妄信し、何かを陥れ、何かを嘲笑い、何かを貶める。
これでは下界の縮図だ。
彼はこんな世界を望んでいたのか?
唯一変わったことといえば、自分の立場が変わったことくらいだが、その是のみを受け入れ思考停止できるほどには、市丸はこの世界に馴染んではいなかった。
こんなのは違う。
求めていたのは、こういうことじゃない。
彼女を裏切ってまでして手に入れようとした未来は、少なくとも、こんな結末を迎えるためではなかったのだ。
……これは失望なのだろうか?
彼に対して過大な願望を抱きすぎたのだろうか?
だが、それは彼の責ではない。
彼を追い詰めたのは、そもそも市丸なのだ。
いや、そもそも、人という限定こそが、この悲劇の原因なのかもしれない。
人という形があるからこそ、こうして繰り返してしまうのであれば。
「壊す才能はあっててんけどなあ、僕ら」
あまりにも愉快な結末に、市丸は思わず笑い声を立てる。
「世界を作る才能を持った人間なんて、もしかしたらおらへんのかもしれへんけど」
そう、それこそ神以外に。
……僭称者は、もはや自らを神だと誤認している。
ゆったりと微笑み、高い位置に己専用の椅子を設えて。
失ってしまった痛みと、追い詰めてしまった痛みを覚えるものの、市丸は今の彼に何の感慨も覚えなかった。
かつての愛憎が嘘のように、恐ろしいほど、彼に何の感情も浮かばない。
それは彼も同じだった。
かつては頻繁に市丸を呼びつけていたことが嘘のように、彼はその頻度を下げ続け、今や、市丸の名を口にすることもなくなった。
こんなに簡単に消え去ってしまうのか、と思う。
でも、そんな感慨を抱くことも、どこか演技的な臭いが纏わる。
互いに他人になっただけに過ぎない今、痛みなど湧きようもない。
権力という名の麻薬に抗し切れなかった彼。
元々、穏やかな性質の彼が、権力が持つ強い反作用に耐えられるわけがなかったのだ。
だが、どこかで彼なら持ちこたえられるのではないかと甘い期待をしていた。
自分が彼を追い詰めた。
市丸は顔を歪める。
かつては罪悪感しか湧かなかったその事実が、今や市丸と彼を結ぶ最後の糸に成り代わった。
彼が実直に市丸の願いを叶えようとしてくれた以上、最後まで彼に添い遂げるのはもはや義務だ。
そしてその義務こそが、自分と彼を繋ぐ最後の糸なのだ。


市丸は冷たい水を顔に擦りつけた。
……今は、久方ぶりにその他大勢の彼の部下に混じって彼と謁見するため、身支度を整えんとしている最中であった。
顔の脂を指先で丁寧に擦り落としながら、市丸は近未来を妄想する。
虚ろな世界の王が、これからも玉座で市丸たちを睥睨する様を。
彼の視線が、平均的な速度で市丸たちの頭頂部を通過する様を。
彼の言葉が、均一的な重みをもって市丸たちの耳に響く様を。
そうして、彼が権力に食い尽くされてしまった事実を自分が目の当たりにする様を。
「でも、最後まで一緒や」
……やがて、市丸は独りそうごち、もう一度、冷水を顔に叩きつけた。






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