ある日、ジャックはイタリアの港町の路地で淡いクリーム色の絹のドレスの女とすれ違った。

ふわふわした蜘蛛の巣のようなレース飾りが印象的だった。

彼女は久しぶりにお見かけした、黒髪にダークブラウンの目の可愛い美人で、どこかの貴族か富豪のお嬢さんみたいだった。

彼は少々酔っ払っていて、反対側から歩いてきた彼女ともろにぶちあたってしまった。

彼女は蔑むような視線を俺に送ると、つかつかと何事もなかったかのように立ち去った。

分かってる、よく分かってるよ、俺が君みたいな階級の人間とつりあわないことなんか。

ジャックはこの街の特権階級に対する文句を、ぶつぶつと心の中で呟くと、よろめきながらどこかへ立ち去った。

でも、実際の彼女はそんな優雅とは程遠い生活を強いられていた。

粗末な茶色のズボンに、麻の帽子を目深に被り、空の青い水兵シャツで変装し、

わざと通行人にぶちあたって 財布を抜き取るスリの生活をもう何年も前から送っているのだった。

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