「この男は返してやる」
不気味な緑色のオーラを体全体から放ち、恐ろしい形相で三人のデスイーターを睨みつけながら
は凍りつくような声で言った。
「ほら、受け取りなさいよ・・そして、さっさと目の前から消えるがいい!」
「ヴォルデモートにはこう伝えるといいわ。ドラキュラの血を引く娘が欲しければ
こんな裏切り者をよこさずに自ら取りに来いとね!」
その言葉を言い終わるか、終わらないかのうちに、は杖を振り上げ、
気絶していたスネイプを空中に浮かせて、恐れおののくデスイーター目掛けて吹っ飛ばしてよこした。
「待て!」
「私の家族、そして、校長、ブラック、ポッター家を死に追いやるよう仕組んだのは、本当にあのネズミ男とこの裏切り者なの?」
デスイーター達はただただ黙って首を振るしかなかった。
「そう!ならとっとと目の前から消えるがいい!むろん、逃げれるものなら、逃げるがいい!
そして、心臓がつぶれるまで走るがいい!!」
「風よ、吹け!嵐よ、起これ!!この裏切り者どもを闇に閉じ込めてしまえ!」
は狂ったように高笑いすると、杖を真っ直ぐに天空に向けて叫んだ。
途端に杖から暗緑色の不気味な閃光が上がり、穏やかだった夜空にもくもくと積乱雲が立ち込め始めた。
デスイーター達は今度こそ、気絶したスネイプ、茂みに隠れて震えていたマルフォイを
伴って蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
雷鳴が轟き、激しい雨と風が逃亡者たちの行く手を阻んだ。
どれぐらいたっただろう。
ようやく雨や泥でぐちゃぐちゃになって、ルーピン、フェリシティーが禁じられた森の中で
重なるように倒れているハリー、の痛々しい姿を発見した。
ハリーの方は意識がなく、の方はかすかに意識があったが、ひどい熱を出していた。
医務室でルーピンは片時も、の側を離れなかった。
結局、いつも肝心な時に彼女を助けてやれないのだ。
側にいて守ってやるべき人間は自分なのに、彼女の隣にはハリーがいた。
何度も彼女に生と死のふちを味わせて・・もう、自分には彼女を愛する資格がないのだろうか・・。
「リー、マス・・」
医務室に横たわっていた彼女は、ひどく苦しそうに顔をしかめて目を開けた。
「、気がついたのか?」
ルーピンは、涙にかきくれた顔を上げ、彼女は高熱にうかされながらも、途切れ途切れに何か伝えようとしていた。
「リーマス・・私・・全て・・思い出したの・・」
その言葉に、彼の胸は突然投げ込まれた希望の光でで高鳴った。
「記憶・・戻ったの。この・・ツインスターのペンダント・・くれた人、誰か思い出したの」
彼女はおずおずと首からかけていた、ロイヤルブルーのちっちゃな懐中時計を彼の手に握らせると微笑んだ。
「夢の中をさ迷っているとき、私の手をしっかりと掴んでくれたのはハリーだと思った・・でも、
違った。リーマスだった・・」
彼女の頭の中には走馬灯のように浮かんでは消える、ルーピンとの楽しい思い出、つらかった、苦しかった
思い出が蘇ってきていた。
「目覚める前に、誰かが、この手を決して放すなと言ったの。だから・・私は放さなかったの」
「そして、今、起きて私の手を掴んでいたのは・・リーマスだった・・。」
その会話をカーテンの引かれた隣のベッドで、ショックを受けて聞いている者がいた。
彼は両目を大きく見開き、清潔な白いシーツを血の出るほど強く握り締めていた。
とうとう恐れていたことが起こってしまったのだ。