とうとうホグワーツに向けて発つ日がやってきた。

はお別れを言いに来ている面々を見て、顔を曇らせた。

今年は嬉しそうに見送ってくれるメンバーが三人欠けている。

楽しい思い出を分かち合ったであろうシリウス兄妹、自分を親代わりに育ててくれたミナ伯母だ。


                                            「私は君が好きだ」

                                           「こんなこというの・・実は凄く苦手だ・・でも、言わなきゃ君はこのまま私の気持ちに気づいてくれないだろう

                                          と思った。」


シリウス・ブラック・・私の頭の中の記憶に途切れ途切れに登場する人だ。

でも、それ以上は何も思い出せない。

どのようにして死んだのか?どんな人だったのか?私のことを好きだったようだが、私は彼のことをどう思っていたのだろうか?


そんなことを考えている彼女の横顔をそっとやさしい日差しが包んだ。


朝の光に包まれている神々しい と目があったルーピンは、思わず顔を背けた。


「リーマス、どうかなさったの?」

「何でもない・・光線の具合で眩しくてね」

に「いってらっしゃい」と熱心に手を振っていたフェリシティー伯母は

はたと手を振るのをやめて、あらぬ方向を向いて涙をこぼしている紳士の姿を見止めて言った。



「あの時は病院に何度も足を運んでいただいてありがとうございました」

は「早く来いよ」と赤い汽車のドアから身を乗り出しているハリー達を振り切って、

パッとこちらに飛んできて言った。

「あ・・ああ。顔色もとてもよくなって良かったよ」

とび色の絹のローブに、真っ白なパナマ帽をかぶった上品そうないでたちのルーピンはとっさに涙を拭いて

女の子のほうに向き直った。


、汽車が発車するぜ!」

ロンが向こうからせきたてた。


彼は深い悲しみの色をアドリアン・ブルーの瞳に浮かべていた。

はそれをいぶかしく思いながらも「それじゃ」と別れの挨拶をし,

ぴょんと汽車に飛び乗った。そして間髪いれずに黒塗りの乗車ドアが

閉まった。







「あの人、ルーピンさんはどうしていつも酷く悲しそうな目で私を見るのかしら?とても気になるのよ・・何だか可愛そうで・・」


「さぁ・・僕にはよくわからないな」


無事に開いているコンパートメントを見つけて、 とハリーはガタゴトと列車に

揺られていた。


せっかく大好きな彼女と二人きりになれる唯一の時間なのに、開口一番の

彼女の質問に彼はムッとしていた。



「それより何か他の話をしよう。あ、ハーマイオニーから聞いたんだけど、君、歌手になるのを

やめて癒者になるんだって?何でまた変えたの?」


だが、彼は表面上、実ににこやかな笑顔を作って、さりげなく話題をそらした。


「あ、うーん、あなたになら話せるのはすごくラッキーね。実はフェリシティー伯母が

あなたは吸血鬼特有の性質があるから、昼夜逆転の不規則なスケジュールに加えて、長時間ステージに立ったりするのは無理だろうって言ったの。

伯母さんはね、実はスパイになる前は東洋癒術の専門癒者をしてたことがあったの。それで、話を戻すと、

そういわれちゃったらもう仕方がないわよね。

その点、癒者なら癒者修練までの期間が大変なだけで、あとは座ってゆっくりと仕事が出来るそうなの。

それに、自分の厄介な体質を治す薬の研究も出来るし、とてもいい仕事だと思わない?」






は彼の大人びた綺麗な顔にドキリとしながら、そこでルーピンのことは

けろりと忘れ、自分の将来の計画についてとめどなく喋り始めた。



「じゃぁさ、僕が闇払いになって、怪我をしたら一番に直してくれる?」

「それはもちろんよ。あなたがフェリシティー伯母と私が経営している癒院に来てくれれば大歓迎だわ」


ハリーはとめどなく続く彼女の将来の計画に「そうだね」「僕もそう思う」とか相槌を打ちながら、ルーピンが占めていた心の

場所に入り込み、必死に自分を印象づけようと努力していた。



「やぁ、ハリー、 ここにいたんだね」

ガラガラガラとコンパートメントのドアが開かれ、二人の男女が入ってきた。


「ルーナ、ネビル、久しぶり!こっちへ座ってよ」

、ハリーは仲良し三人組以外で、一番会いたかった二人に会えたので、今にも

ぐっと抱きしめたい衝動をこらえて、向かいの空席を勧めた。


ルーナはあいもかわらず大きすぎる目に、砂色の髪のちょっと変わった女の子だが、

二人は少し前に魔法省の抗争で、共に戦ってくれたことを忘れてはいなかった。

それはネビルも同じだった。


「ここへ来るまでにあんた達のファンのすごい攻撃にあったんだ・・あれはハイエナが押し寄せてきたかと思ったね」

開口一番、ルーナは「ザ・クィブラー」の黄色い表紙の雑誌を取り出し、バタバタと暑そうに振った。

「そうそう・・息が出来なくなるかと思ったよ」

ネビルもヒキガエルのトレバーをしっかりとつかんだまま、同調して言った。

「え?攻撃って何か嫌なことでもされたの?」

とハリーはぎょっとして同時に聞き返した。


「そんなんじゃないよ。ただ気づいたら沢山の生徒に周りを囲まれてさ、あんたたちがどこに座ってるのか

っていろんな方向から聞きまくられたんだ」


ルーナは の心配そうな顔を見ながら、落ち着いて説明してやった。


「ハッフルパフのセドリック・ディゴリーのいとこだって言ってた人だっけ?あの人、ついてきてないよね?」

ネビルはルーナの説明を聞いて、不安になったらしい。

先ほどここにくるまでに、しつこく がどこにいるのか尋ねられ、「知らない」と答えたら、ヘッドロックをかましそうな

形相で睨まれたネビルは、ガラス張りのドアから目だけをのぞかせ、恐々と外の様子を伺っていた。


「セドリックにいとこがいたんだ」

ハリー、 は目をぱちくりさせ言い合った。

「あの人と怖いほど似ているんだ。背丈も同じぐらいでさ。声もそっくり。

あんな人がいたなんて僕、今まで気づかなかったよ」

ネビルはどうやらつけられていないことを確認すると、ほっとして視線をハリー達に戻しながら呟いた。



ハリー、 はセドリック・ディゴリーのことになるとどうも具合が悪くなる。

出来るだけ思い出さないように努力しているのだが、ネビルの一言によって

彼の最後の臨終の表情がはっきりと浮かんできてしまった。


「ねぇ、あんた達、今年はDAの会合をやるの?」

ルーナ・ラブグッドがその場の気まずい空気と、酷い失敗をおかしたネビルのしょんぼりした顔を

読んで急に話題を変えた。


「やらない。親愛なるアンブリッジを追い出しただろう」

ハリーは内心残念だと思いながら、きっぱりと言った。

「僕、DAが好きだった!君たちから沢山習った!」

「あたしもあの会合は大好きだったよ」

「友達が出来たみたいだったな」

ルーナはのんびりと、ネビルはとても興奮したように言った。


とハリーは哀れみと当惑の交じった気持ちに襲われた。

学校で変人扱いのルーナはジニーと 以外、これといった友達がいない。

そんなことを考えていると途端にコンパートメントの外が騒がしくなった。






















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