「私、全然ダメだったの。あの「催眠
豆」のエキスが充分に出なくて――でも、あなたはすごいわ!
スラグホーン先生があなたの鍋を見た時、「あともう一歩だ」って顔をなさってたもの。
ねぇ、いったいにどうやったの?」
魔法薬の授業終了後、夕食のテーブルでハーマイオニーは
に
感心しきった顔で尋ねていた。
「ヒントは牛肉よ」
は照れくさそうに笑った後、スーッと息を吸い込んで語り始めた。
「牛肉?」
ロンがわけがわからないという顔をした。
「休暇中、牛肉の塊を伯母様が調理している時、包丁で身を叩いていたの。
叩くと身が引き締まり、牛肉の旨みが一杯出て美味しくなるでしょう?
だから、もしかしてこのしなびた豆も叩くと一杯汁が出てくるんじゃないかって
考えたの」
その言葉にロンとハーマイオニーは納得したようにうなずいたが、ハリーはちょっとうなだれた。
「それはそうと私より、今日はハリーのほうがさえてたわ!
突然、魔法薬の才能が開花したみたいじゃないの!
やっぱり、スネイプ先生はなーんにも見えてなかったんだわ。
あなたに魔法薬の才能が全然ないかのようにけなすんだから!ほらみたことかってね!」
の賞賛の言葉にハリーは真実を言わなければと、この機会を機に切り出し始めた。
彼が話し終わると、
とハーマイオニーの表情は強張っていた。
実は今回の授業で突如、彼の魔法薬の才能が開花したというのは嘘だった。
彼は前学期、(Owlで優が取れず)魔法薬の継続申し込みをしておらず、今回は材料を揃えずに授業に臨んだのだ。
当然、材料はスラグホーン先生が古い秤だの、教科書だのを貸してくれ、新しい材料が届くまで
それで間に合わせることになっていた。
つまり、今回、彼の魔法薬の才能が開花したのは、そこにあった使用済みの古い教科書に従って、他の者より有利に作業を
進めたからだった。
その古本の前の持ち主はページにぎっしりと書き込みをしており、その中に「生ける屍の水薬」を
上手く調合するヒントも書かれていたのである。
「僕がせこいやり方で、皆を出し抜いたと思ってるんだろ?」
ハリーは女の子たちの冷たい視線をさけながら言った。
「そうよ。そんなのこの教科書があれば、誰でも出来るじゃないの」
「
は独自の発想でいいところまで結果を出したのよ。なのにあなたは――」
女の子たちは口をそろえて厳しく反論した。
「そんなにガタガタいうなよ。ハリーは僕達とは違うやり方を実践しただけじゃないか」
ロンがたしなめるように言った。
「その本に書かれてあることに従って、必ずしも成功したとは限らなかっただろう?
下手したら爆発する可能性だってあったし、だけど、あえてその危険を冒した。
そして、結果を見事にはじきだしたんだ」
ロンはうっとりと言った。
「スラグホーンが僕に教科書を渡してたらなぁ・・なにせ、彼が貸してくれた本には
ゲロのあとがあったんだ」
「やめてよ・・汚い」
がロンの方を嫌な顔で見た。
「その本、一度調べてみる必要があるわ」
ハーマイオニーがひややかな声で言った。
「そうね、忌々しいリドルの日記のことがあるし。誰かさんの書き込み済みの本って
あとで厄介なことになるんだから」
もしんらつな言葉を投げつけた。
「おい!やめろったら!」
ハリーは怒った。
ハーマイオニーが彼のカバンをひったくって、問題の教科書を取り上げ
杖を向けたのだ。
「スペシアリス・レべリオ!化けの皮、はがれよ!」
彼女は表紙をコツコツ叩きながら唱えた。
呪文の衝撃で表紙がさわさわと揺れたが、特に変わった兆候は見られなかった。
古本はおとなしく横たわっていた。
「気が済んだ?」
ハリーがむっつりと言った。
「それとも宙を飛ぶか検証してみるかい?」
ロンは彼の言葉にぷっと吹き出した。
「くやしいけど・・大丈夫そうだわ」
ハーマイオニーが言って、
に水を向けた。
彼女も疑わしそうな目で頷いた。
「よかった。それじゃこれは貰うよ」
ハリーはぱっとテーブルから得意げに本を取り上げたが、その勢いで手が滑って床に本を取り落としてしまった。
が猫のような素早さでサッとかがみ、本を拾い上げて、裏表紙を見た。
「半純血のプリンス蔵書」
は奇妙な顔をしていた。
そこには前の所有者の名前が金文字で掘り込んであった。
「もういいだろ?」
ハリーがいやいやながら彼女から本をひったくった。
それからの一週間、ハリーは大好きな
の冷たい凝視にあうはめになった。
彼はこの最悪な事態を避けるため、三人に教科書を一緒に使おうと申し出たのだが、
女の子たちは「そんなものはいらない」と傲然とつき返したし、
ロンは前の所有者の手書き文字の判読に彼以上に悪戦苦闘し、だからといって、文字を彼に読み上げてもらうという
怪しげな行動を見られたくないという理由から断った。
、ハーマイオニーはぷりぷりしていた。
魔法薬の授業はいよいよ難しくなるし、教科書の指示だけでは上手く結果がでないことが
多くなってきたからである。
は彼が授業以外で、プリンスの教科書を読んでいる時は、病院で親しくなったルーピンに手紙を書くなど
なにかしら癪に障る行動をとったし、ハーマイオニーは独自に「半純血のプリンス」という
至極変わった言葉の意味を調査しているようだった。