それでも家族の悲しみを知らないシリウスとハリーは、二人で幾度となく顔を見合わせた。
夜中のニ時ごろーー聖マンゴから手紙が届いた。
浅い眠りに落ちていた皆は、飛び上がって我先にと、手紙を覗き込んだ。
手紙の筆跡はウィーズリー夫人とシリウスの妹、ジェニファー・アダムズ・ブラックからだった。
お父様はまだ生きています。
母さんは聖マンゴに行くところです。
じっとしているのですよ。出来るだけ早く知らせを送ります。
ママより
嬢様、私は今、聖マンゴにいます。奥様は未だに意識不明ですが、容態は安定しています。
モリーさんが先ほど到着なさって、私と落ち合いました。
それではーモリーさんが嬢様や他の方を迎えに来てくれるでしょう。
ジェーンより
「まだ生きてる・・・それじゃまるで・・・」
ゆっくりと手紙を読み終えたジョージが言った。
最後まで言わなくとも、ウィーズリー氏が死の境をさまよっているのは明白な事実だった。
容態が安定していると知った
も、皆の暗い顔を見て素直に喜べなかった。
そして、再び、皆待ったーー残酷な夜が明けるのをーーーー
翌朝の五時十分ごろーー
ウィーズリー夫人が小サロンに駆け込んできた。
夫人はやや疲れ気味の顔を皆に向け、ウィーズリー氏、ブラド夫人は大丈夫なこと。
それぞれ両人をジェニファー、ビルが看ているということ、それから後で面会に行けますよ。と伝えた。
たちまち皆の憔悴しきった顔にパッと希望の光が差した。
ジョージ、ジニーは立ち上がって母親にギュッと抱きついた。
フレッドは両手で顔を覆い、ドサリと椅子に戻った。
ロンはへなへなと力なく笑い、
は両手に顔を埋め、嬉しさのあまりむせび泣いていた。
その後、皆はまるまる午前中一杯をベッドで過ごした。
午後、厨房で昼食を摂っていると、ホグワーツから続々と皆のトランクが届いた。
皆は着替え終えると、そそくさと迎えに来たマッド・アイ、トンクスが手配した二台の大型(幌なしの馬車)バギーに次々と乗り込んだ。
一台目にトンクス、
、ジニー、ウィーズリー夫人が乗り込み
二台目にハリー、ロン、フレッド、ジョージ、マッド・アイが乗り込んだ。
それぞれ手綱をトンクスとマッド・アイが取り、鞭で軽く大きな黒馬の背を叩くと馬車は走り出した。
馬車はロンドンの、寂れた裏通りの大きな建物の前で止まった。
トンクスがまず、馬車越しからショーウィンドウに飾られてあるマネキンに声をかけた。マネキンがこくりと頷き、
その後、二台の馬車はショー・ウィンドウのすりガラスをすうーっと幽霊のごとく通り抜けた。
初めに一向は地下の停車場に通された。
ありとあらゆる型のバギーや大型馬車が並び、御者が馬に水をやったり毛をすいたりしている。
停車場には名門貴族の夫人や、肉体労働者風の男、外国人などありとあらゆる人種・階級の人間が大勢いた。
ハリーや
はそれらに物珍しそうに目を向けながら、ウィーズリー夫人の後に従った。
二階のダイ・ルェウリン病棟で受付を済ませ、
は伯母のところへ、ウィーズリー家やハリー達は
それぞれ別れた。
ブラド夫人はウィーズリー氏とは大分離れた個室に居た。
真っ白な引き戸を開けて中に入るとジェニファーは居なかった。
「ミナ伯母さん・・・」
は引き絞った無地のカーテンを跳ね除け、ベッドでコトリとも音を立てず横たわっている伯母に近づいた。
「伯母さん・・大丈夫?ねえ・・目を開けて・・」
は実際に対面してみるとまた涙がこぼれそうになった。
「大丈夫なのよねぇ・・ねえ?伯母さん・・・」
は伯母の黒髪に指を伸ばし、撫でた。
「ねえ・・・伯母さん・・誰が・・誰が伯母さんをこんな危険な目に遭わせたの?」
無駄なこととは知りながら、
は意識がまだ戻らない伯母に問いかけた。
「あなたの伯母さんをこんなふうにしたのはーーデス・イーターの連中よ」
「誰?どなたですか?」
がびくっとして振り返った。
彼女が伯母の手をとり、泣きそうな顔で伯母を見つめていると背後のカーテンがすっと引かれ
かかとまで届く、スコットランド風のショールをした少々髪が乱れ気味の女が入ってきた。
「あたくしがーーあなたの伯母様をここへ運んだの。あたくしがもし、来なかったら伯母様は彼らに連れて行かれる
ところだったわ。」
その女は優しそうな目で
を見下ろしながら、そっと頭に被っていたショールを取った。
「まあーーーではーーではーーそうなんですか!ではあなたがーーあなたがーー伯母を助けて下さったのですね!!ありがとうございます!!
ああーーあなたは命の恩人だわ!!ほんとになんとお礼を申し上げたらいいかーーーー!!」
は驚きのあまり、声が上ずった。
「お礼はけっこうよ。助けるのはあたくしのお仕事の一つですもの。」
その女は少し照れくさそうに、
が感激のあまり差し出した手を押し返しながら言った。
「それよりよく聞いて頂戴。あたくしはフェリシティー・
。あなたのお父様の姉です。いいえーー口を挟まないでーー
黙って聞いてくださらない?ミナはーーこれでーー失神させられたの。」
婦人は厳しい顔で、
に告げるとポケットから淡いブルーの小瓶を取り出して見せた。
「クロロホルム」
はショックで唖然として口を開けたまま、小瓶を受け取ってラベルにかかれた薬品名を読み上げた。
「あなたはこの薬品をご存知ね?本来は手術で麻酔用に使われるものなんだけど。これを大量にかがされたのね。
吸血鬼に失神術はきかないものだから。」
フェリシティーはきつく両腕を組み合わせて言った。
思わぬところでのフェリシティー・ハーカー婦人との再会。シシーは彼女からどのような事実を告げられるのやら・・・。
五巻もそろそろ大詰めになってきましたね。皆さん。よろしければ感想や一言など気軽にお寄せくださいませ。